第164話 隠密魔法最強説! ★ギルバート国王 SIDE

 リオ達とのお茶会から早1ヶ月。結局、王妃の主治医から面会の許可はおりなかった。私だけは相変わらず月に1度だけ会う事を許されているので、今回は強行突破してでもリオとカミルを王妃に会わせるつもりだ。リオの言う通り、ちゃんとした会ってはならない理由を提示出来ない主治医は、信用が出来ないからな。


 爺さんが言うには、リオに隠密魔法を掛けて貰えばカミルも一緒に入れるだろうと言っていた。今回1番困るのは、バレた時にリオの所為せいにされ、断罪しようと言う動きが出る事だ。なので、リオは完全に魔力も遮断し、カミルは隠密魔法のみで入室する事になった。最悪誰か居るとバレた時に、カミルが矢面に立つ事で、カミルなら王妃は実母であるから仕方がないと思わせる事が出来るだろう。


 準備をしっかり整えて、カミルとリオがいるであろう方向に顔を向ける。既に隠密魔法を掛けている2人は全く見えない。リオなんて、気配すら感じられないのだから凄いな。今回も部屋には主治医が待機している上に、面会時間は3時間しかない。その短時間でリオに診察して貰わなければならず、王妃に説明もしなければならない。気合を入れて王妃の隔離されている部屋の扉を叩く。


「お待ちしておりましたわ、国王陛下。どうぞお入りください」


 優しく穏やかな声でいざなってくれるのは、もちろん部屋の主である王妃だ。部屋の中から扉が開かれる。私はわざとバランスを崩して、持って来たお土産を落としそうになるフリをした。注意をこちらに向け、その間にカミル達が中に侵入する計画だからな。カミルの気配が中に入ったのを感じた。私と同じ金の魔力ゆえ私には分かるが、他の者達には私とカミルの魔力の差は分からないだろうからこの様な場面では便利だな。王国で区別出来る人間は、リオや爺さんぐらいだろう。


「おっと、危ない危ない。お土産を増やし過ぎてしまっただろうか。あぁ、私の愛しいオリビア。会いたかったよ」


「ふふっ、わたくしも会いたかったですわギルバート様。こんなに沢山の果物をありがとうございます。甘い匂いがして、とてもおいしそうですわね」


「だろう?中々会えないオーリィの為に、カミルと婚約者のリオが取り寄せてくれたのだ。2人とも会いたがっていたぞ」


「そうなのね……わたくしも会いたいわ。愛しい我が子と婚約者であり大聖女様。まるで御伽噺おとぎばなしのような組み合わせよね」


「そうだなぁ。あの2人は奇跡を沢山起こしてくれているから、物語になるかもなぁ。小説でも書かせて、結婚式の前に演劇場で劇をやらせるか?」


「まぁ!それは素敵ね!わたくしも見てみたかったわぁ。ねぇ、お医者様。わたくしはまだ外に出る事は叶いませんの?」


 まるで話し合ったかのように主治医を責めるオリビアは少し拗ねた顔で頬を膨らませていて可愛い。そんな顔で怒られても怖くはないし、逆に「ごめんね」と謝りたくなるんだよな。


 お?私の近くの空気が動いたな。気配が全く感じられないからリオだろう。どうやら主治医の方向にゆっくりと歩いて行っている様だ。どこにいるのだ?ん?主治医の後ろがほんのりと光ったな?主治医が後ろにゆっくりと倒れたな。あぁ、だから後ろに回っていたのだな。頭を打たない様に支えたのだろう。


「ふぅ。こちらのお医者様には防音膜を張っておきましたので、音は完全に遮断しゃだんされていますからお話しになっても大丈夫ですよ」


「貴女はカミルの婚約者の聖女様ね?お姿を拝見させていただいてもよろしいかしら?」


 穏やかに微笑むオリビアだが、期待で瞳がキラキラしているな。オリビアの言動は王妃らしく穏やかに見せているのだが、中身は案外情熱的である。目は口ほどに物を言うってやつで、今ではオリビアの目を覗き込むだけで何を考えているかぐらいは分かる様になった。パァッと目だけではあるが表情が明るくなるさまは、とても可愛らしい。


「はい、王妃様。はじめまして。私はカミル殿下の婚約者でリオ=カミキと申します」


 リオが隠密魔法を解いて嬉しそうに微笑み、丁寧にカーテシーをして見せた。2人は視線を合わせて微笑み合うと、オリビアは大きく何度も頷いた。


「あぁ、やっと会う事が出来たわ!ギルに聞いていた通り、黒髪に黄金色こがねいろの瞳なのね。こんなに可愛い女の子が義娘むすめちゃんになってくれるなんて嬉しいわぁ!異世界からいらしたのでしょう?カーテシーも綺麗で、お作法も頑張って勉強してくれたのね。こんなに素敵なお嬢さんがお嫁に来てくれるなんて、カミルは幸せ者ねぇ」


 あっ!っという顔をしたリオがカミルの隠密魔法を解いた。リオの隣に並んでいたカミルが姿を見せる。オリビアが息をのんだのが分かった。震える指先を唇に当て、話し掛けようと口を動かすが、どうやら中々言葉が出て来ない様だ。皆静かにオリビアの言葉を待つ。


「か、カミル、なの?カミルよね?あぁ!大きくなったわねぇ……!」


 オリビアは子供の様に泣き出してしまった。最後に会ったのはカミルが10歳の時だったか?あれから40年も会えていなかったのだ。感極まって泣いてしまっても仕方がないだろう。


「母上、40年ぶりでございます。またこうしてお会いする事が出来て嬉しいです。…………リオとの結婚の報告を、どうしてもしたくて強行突破し、驚かせてしまった事をお詫び申し上げます」


 カミルは堂々とした物言いで、オリビアに軽く頭を下げた。リオと出会い色んな出来事を経験し共に生活する事で、王太子である事を強く自覚したのか覚悟が決まったのか、ここ最近は威厳が出て来た様に感じるな。


「謝る必要なんてないわよ、カミル。貴方にも、貴方の婚約者であるリオ嬢にも、ずっと会いたかったわ。あぁ、このまま一生会えないかも知れないと不安に思って生きて来たけれど……我慢してまで生きて来て良かったわぁ……」


 おっ?物思いにふけっているオリビアとは対照的に、リオがソワソワしているか?カミルもそれに気が付いたな。さぁ、今度は何が気になるんだろうな?リオの考え方や行動は面白いからな。オリビアの目の前でソレが起こったら、きっとオリビアもその出来事を楽しんでくれるだろうし、思い出が出来るからな。クックッ。


「リオ?どうしたの?」


「あ……カミル、その、感動の再会を邪魔してしまって申し訳ないんだけど……」


 眉を八の字に下げたリオが、珍しく言いにくそうに口籠くちごもっている。


「リオ、構わんから言ってごらん?王妃はその程度で怒る事は無いから安心しなさい。クックッ」


「お義父とう様……楽しそうですわね?」


「あぁ、もちろん楽しいとも!愛しのオリビアと、可愛い義娘むすめと息子が団欒だんらんの時を過ごしているのだからな?ククッ」


「まぁ、そうですけど……」


 困り顔だったリオが、カミルに助けを求めて目を合わせると、何を感じたのか2人とも薄く微笑んだ。本当に2人は仲が良いな。つい、オリビアと2人して微笑ましい光景を眺めてしまっていたぞ。


「えっと、リオちゃんって呼んで良いかしら?」


「あ、はい。もちろんです」


「リオちゃんは何か気になる事があるのかしら?カミルとギルが反応したと言う事は、そう言う事でしょう?」


「さすがカミルのご母堂ぼどう様でいらっしゃいますね。その、とても言いづらい事なのですが、よろしいですか?」


 リオが申し訳無さそうに何度も確認してくるから、オリビアは大きく頷いて、リオと視線を合わせて優しく微笑んだ。


「ええ、構わないわよ。カミルとギルが2人とも信用しているリオちゃんは、わたくしも信用するに値する人物って事になるわ。だから心配しないで、感じたままを発言して貰って大丈夫よ」


 優しく微笑むオリビアはとても綺麗だ。リオも微笑み返してかスゥッと息を吸い込み、ゆっくりと話し始めた。


「王妃様がかかっていらっしゃるご病気の事なのですが。その、えっと……疾患しっかんではなさそうと言いますか……疾患ではありませんね……」


 ん?疾患でない?疾患って病気の事だよな?んん?でも顔にあざがあるんだぞ?なのに病気では無いと言うのか?


「んん?え…………?母上は病気じゃないって事?」


「ええ。間違い無いと思うわ。王妃様、あの、ちょっと聞きづらいのですが、色々質問させていただいてもよろしいですか?」


 私もオリビアも、言われた事を理解するのに少し時間が掛かったな。オリビアは病気では無い?ならこの40年間、何故閉じ込められていたのだ?頭がこんがらがっているぞ……


「リオ、すまんが理解力が追い付いていないのだ。質問は分かる事であれば答えるから、話しを進めてくれて構わない。時間も限られているからな」


「ありがとうございます。それでは、先に王妃様を診察しても大丈夫ですか?あと、詳しい状態を確認したいので、王妃様に人物鑑定スキルを使う許可をいただけますか?その後に質問させていただこうと思いますがよろしいでしょうか?」


 リオはしっかりとオリビアを見つめ、懇願したのだった。リオなら何とかしてくれそうだと思えてしまうな。カミルも珍しく身を乗り出して、オリビアが人物鑑定を許可する事を待っているのだった。

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