第112話 女神の条件 ★ジャンSIDE→カミル SIDE
とある日の夜中、皆が寝静まった頃だった。俺も爆睡していた筈だった。最近忙しいし、考える事も多いからか疲れやすいんだよな。国民や精霊の為だから仕方ない。スタンピードも王国への訪問も、立派に務め上げてみせる。
そう思っていたのは確かだ。だが、目の前には真っ白な空間と、美しい女神様が……これは夢なのか?
「えぇ。これは夢よ、ジャン」
す、凄いな。本当に夢に女神様がいらっしゃって、俺に話し掛けてくださっているのか!何て幸せなんだ……
「じ、ジャン?貴方の思ってる事は私にダダ漏れになるから気を付けてね?」
そんな事は構いません。俺は、女神様に恥じる様な行為はしておりませんから!
「そ、そうなのね。私が夢に現れた理由は分かるかしら?」
先日の女神様の言い方では、『王国の庇護下』にいなさいと仰っている様に思えたな。世界を駄目にしたのは帝国の怠慢だから、しっかり働けと仰りたいのだろうか?
「ふぅん。ジャンは分かっているみたいね?」
勿論です!俺の思考がおかしかったとは言え、姉上が必死に帝国を守ろうと奔走していた事すら知らずにこれまで迷惑を掛けて来たんだ。これからは、俺が姉上を支える存在にならなければ。
「それで良いわ。ジャン、貴方へ言いたい事は2つよ。先ずは王国の庇護下に入る事をカミルと取決めなさい。公にする必要は無いわ。表向きには同盟国で良いの」
それはカミル殿下が納得してくだされば、直ぐにでも。帝国には得しかない提案なのだ。多少の無理も言ってくだされば俺が何とかするつもりでいる。
「もう一つは、リオに
うぐっ。想う事も許されないか……分かっては居たけど失恋は辛いな。
「失恋って程、惚れてもいなかったでしょうに。素敵だな〜ぐらいじゃない。大袈裟な子ね……」
そうなのだろうか?燃える様な恋愛なんて、皇太子には求められて居ないからな。義務でするだろうとは思っていたから、特に問題も無いが。
「案外、サッパリしてるのね。もっとねちっこいのかと思っていたわ」
惚れても仕方ない事ぐらい分かっている相手だったからな。はぁ、俺が好きになって、俺を好いてくれる人間なんているんだろうか……
「あぁ、そっちが心配なのね。出逢いってね、必然と偶然があると思ってる?全ての物事……良い事も悪い事も、身に起こる事は必然なのよ。ジャンが行動したから出逢えたのがリオとカミルでしょう?」
なるほど、帝国から出ようと思わなければ出逢えなかったって事だな……
「そうよ。今回、様子を見てから決めようと思ったのも、ジャンが行動しているからよ。まぁ、リオやカミルが上手くやれると信じてるからでもあるわね」
では、俺が動かず王国へ行かなければ、帝国は破滅は免れなかったと言う事か……まぁ、帝国から出なければ、俺は帝国がおかしかった事すら知らずに人生を終えていたのだろうな。
「正直、帝国には期待して無かったのよ。リオが助けたいと言わなければ、帝国が滅びる所まではいつも通りだったのだから。だけど、今なら少しだけ期待しても良いと思っているわ」
俺や姉上、テオ達の努力を少しでも認めてくださっているのであれば、嬉しいな。もっと努力したいと思う。
「言質は取ったわよ。後はカミルと相談して進めなさい。私は貴方達をいつでも見守っているわ」
フッと気がついたら、いつもの天蓋が見えた。俺の部屋のベッドの上だな……まだ真夜中だがどうするか。
「ジャン、起きたの〜?」
「あぁ、ドリー。カミル殿下に伝えなければならない事が出来たんだ」
「王子様の所のお姉ちゃんが夢に居るみたいだからお願いして見る〜?」
「え?聖女様が?夢に居るのかい?」
「消えちゃった精霊達と元契約者達がお話ししてるみたいだね〜」
「うーん。精霊の王子様にお願い出来るか聞いて貰っても良いかな?聖女様の睡眠時間を削ったら、カミル殿下に怒られそうだと思わないか?」
「あ〜!確かにそうかも〜。王子様とお話ししてみるね〜」
⭐︎⭐︎⭐︎
★カミル SIDE
ここ数日、気になる事があった。かと言って、ジャンと2人きりになるタイミングも無く……会って少し話せば終わるのだから、早く片付けたくて仕方ない。
「シルビー、隣国の皇太子と2人きりで話しをするにはどうしたら良いと思う?」
「ん〜?夜にお邪魔したら良いんじゃない〜?」
「迷惑じゃ無いかなぁ?」
「先にボクが伝言を届けて、良いよ〜って日に会えば良いんじゃ無いかなぁ〜?」
「シルビー、君はやっぱり賢いよね?今までどうして誰とも契約しなかったのか聞いても大丈夫?」
「いいよ〜。ボクはね〜、王子様であるソラ様のスペアだったんだよ〜。王様と王子様がカミルなら良いよ〜って言ってくれたから、契約出来たんだよ〜」
「えぇ――!!シルビーは僕で良かったの?」
実はシルビーって凄い子なのでは?王子であるソラのスペアになれるぐらいだ。血が濃いのか、強いのかは不明だが。
「勿論だよ〜!最初会った時にフワッてしなかった?」
「フワッとしたよ。あれが相性が良い証拠なんだね?」
「そう〜!あれが無ければ、ボクもカミルと契約してないから大丈夫だよ〜。精霊は正直だから、嫌いな人とか苦手な人とは契約出来ないんだよ〜」
「へぇー!そうなんだね。良かったよ、シルビーが僕を気に入ってくれてるって分かって」
「ん〜?どうして〜?」
「ソラが半ば無理矢理、契約させた様にも見えたからかな?何となく引っ掛かっていたんだよ」
「カミルは優しいんだね〜。リオと一緒だ〜」
「リオと?」
「うん、リオも精霊に優しいんだよ〜。会う度に挨拶してくれたり、撫で撫でしてくれたりする〜。悲しそうな時でも、笑って話し掛けてくれるんだ〜」
「え?待って!リオが泣きそうになっていたの?」
「泣きそう?悲しそうな顔だよ〜。たまになってるよね〜?リオ、いつも大変だからかな〜?」
「僕は色々見逃しているのだろうか……」
「あれ?王子様が呼んでる〜!」
「え?ソラが?」
「うん、寝ろって言ってる〜」
「あぁ、夢枕かな?」
「それに近いね〜。行けば誰が呼んでるか分かるね〜」
「そうだね。行って来るかな……って直ぐに寝れるかは不明だけどね?」
「あ〜、それは任せて〜!おやすみなさ〜い」
シルビーのお陰で、僕はあっという間に深い眠りについたのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
『カミル殿下!夜分遅くに申し訳ありません』
『呼んでいたのはジャンだったのかい?』
リオだったらなんて、ほんの少し期待してたのは内緒ね……最近、全く会えてないからね。リオ不足が深刻だ。
『はい、先程……女神様が夢枕にお立ちになり、カミル殿下と話しを詰めておくようにと仰って……』
『あぁ、僕もジャンと2人きりで話しがしたかったから丁度良かったよ』
『では、カミル殿下のお話しから聞かせて頂いても?』
『前に口約束で話したと思うんだけど、今後の帝国の立場や立ち位置の話しだね』
『はい、帝国は王国の庇護下に入ります。属国扱いで構いませんので、帝国の民だけは守って頂けるとありがたいです。姉上や宰相とも話しは済んでおり、出来る限りとは言ってもお手伝い程度しか出来ませんが、カミル殿下に誠心誠意仕えさせて頂きます』
『えぇ?ジャンが僕に仕えると言っているの?』
『属国とは、そう言う事なのではないのですか?』
『あー、表向きは同盟国って事にした方が良いでしょ?立場や立ち位置も、これまでより仲良くなった隣国ぐらいの感覚で良いと思うんだけど?』
『えぇっ!?それはさすがに、帝国に都合が良過ぎるのでは無いでしょうか?』
『リオがそれを望んでいるからね。君の姉君とも仲良くなったみたいだし……恐らくリオも、次に会ったら友達が部下だなんて嫌だろう?』
『は、はい……俺は、絶対に王国には逆らわない。何なら王国の為に命を賭けても良い。俺はカミル殿下と聖女様の懐の深さに、一生感謝して暮らすだろう』
『いやいや、僕を拝まないで?ふふっ。リオに群がる虫どもを排除する手伝いをしてくれたら、僕は君以上に感謝すると思うよ』
『さすがだな……ブレなさ過ぎて関心するよ。あぁ、女神様が婚約者を作れと言ってたんだ。俺にも唯一が現れるのだろうか?』
『現れると信じれば現れると思うよ。僕もリオが召喚される瞬間まで信じ切れなかったけどね?ふふっ』
『カミル殿下が言うと、そんな気がするんだよな。魔道具の件が落ち着いたら、動いてみようかな……』
『僕の話しとしては……リオを罵った魔導師の対応を聞きたかったのと、後はリオに懸想しないでくれたらそれで良いかな』
『あの魔導師は、この件が片付くまでは泳がせます。何かが食いついて来る可能性もあるので、監視もつけます。この件が片付いたら、カミル殿下の仰る通りに処分致します』
『うん、いいだろう。随分と皇太子らしくなったね。帝国に帰ってからも問題なさそうかい?』
『はい。全く調子が悪い事も無く、しっかり考える事が出来ています。ボーッとしてしまう可能性があると、意識する事も大事なのでは無いでしょうか?』
『そうなのかも知れないね。僕は、防御膜を張れるから大丈夫だと、無意識下でも思っていたからボーッとしてしまったのかも知れないな』
『カミル殿下ですらそうなのであれば、一般人では太刀打ち出来ない魔道具ですね……』
『あぁ、油断は許されない敵なのかもね。早く解決してのんびりしたいから、お互い頑張ろうね。他に話しは無い?』
『はい!よろしくお願いします。俺からの話しもほぼ同じ内容です。夜分遅くにありがとうございました。おやすみなさい』
『うん、おやすみ。良い夢を』
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