第113話 シルビーのルーツと精霊のルール ★リオ SIDE

 カミルが少しおかしいと思ったのは、契約した精霊の姿が精霊王と同じ『九尾の狐』だった事と、名前を『イナリ』と名付けようとしたからだった。


 他にも『うどん』など、日本人しか知らないはずの単語をいくつか話すのを聞いて、コテツさんを想像した。あくまで私の想像であって、お会いした事の無い人なので真実は分からない。


 知っているのは、ユーグと精霊王だろう。現時点で会えるのは精霊王のみ。であれば直接精霊界へ行って、精霊王と対面させるのが手っ取り早いかな。いえいえ、決して面倒臭いからとかじゃ無いよ?


 私はソラと相談しながら精霊王の元へ向かう日を決める予定だったのだが、カミルの執務が忙しい様で、中々時間が取れないという事だった。そうなると、真相が気になるから想像力が逞しくなるのよね……


「確かに沢庵を食べる為の『箸』を自然に使えてたのよね。後は『おにぎり』も躊躇なく手で掴んでたわね?」


「リオ〜、カミルが乗っ取られたの〜?」


「それは無いんじゃない?基本的な行動パターンも変わらないし、何かの記憶が……前世の記憶とか?生まれ変わりで何か思い出したのでは?」


「そだね〜、カミルはカミルのまま、何かが増えたって感じだもんね〜。その線が妥当かな〜」


「シルビーの挨拶もあるだろうし、カミルも精霊王に一度会わせておくべきだと思うから、精霊界へ行くタイミングとしては丁度良いしね。今日のお昼からは空いてるって言ってたんだけど、王様の都合はどうかしらね?」


「王様はいつでも来て良いって言ってたよ〜。バーちゃんも連れて行くの〜?」


「今回は……何かしら外に漏れては駄目な話題がありそうだから、カミルとシルビーだけにしましょう。内緒でねって言うのも、多過ぎるとポロッと言ってしまいそうになるでしょう?」


「そうだね〜。女神様とか王様が、言っちゃいけない事をポロポロと溢すのが悪いとは思うけどね〜」


「同感だけどね……この世界のトップだから文句は言えないわよね。まぁ、お昼ご飯を食べたらカミル達を迎えに行きましょうね」


「オイラにもご飯ちょうだ〜い」


「勿論良いわよ。今日は一緒に食べましょうね」


 ⭐︎⭐︎⭐︎


「ぷはぁ〜!ご馳走様〜。美味しかったよ、リオ〜」


「ふふっ、それは良かったわ。それじゃあカミルの執務室へ向かいましょう?」


「うん。あれ?リオ〜。カミル、こっちに向かってるよ〜」


「え?待ち合わせは執務室だったわよね?」


「シルビーが、迎えに行きたいって強請ねだったみたい〜」


「あら、そうなのね?じゃあ待っていましょうか」


 精霊って便利よね。お互いの位置が分かるから、絶対に行き違いになる事が無いのだもの。


「こんにちは〜!お待たせしました〜」


「ふふっ、ごきげんようシルビー。全く待って無いわよ」


 シルビーはとても素直で可愛い精霊さんね。つい頬が緩んでしまうわ。


「リオ、ソラ、今日はよろしくね。それじゃあそろそろ行こうか」


「おっけ〜。精霊界の入り口に飛ぶよ〜。シルビー、カミル連れてってみる〜?」


 ん?ソラはいつもポンポンと転移するから気にしてなかったけど、シルビーにはまだ難しかったのかしら?


「ん〜、契約してパワーアップしたから多分行けると思う〜。頑張ってみるね〜」


「ほ〜い」


 ⭐︎⭐︎⭐︎


 精霊界の入り口に到着した。相変わらず入道雲しか見えない空間でカミル達を待つ。


「お待たせ〜!」


 カミルとシルビーが、ポンッ!と目の前に現れた。無事に到着して良かったわ。


「来たね〜。じゃあ中に入ろうか〜」


 ソラはスッと手を上げて、入り口の雲を消した。何度見ても可愛い仕草でメロメロになってしまうのよね。


「あ、カミルも飛行魔法使えるかしら?」


「あー、うん。使えるけど久々過ぎて心配かな」


「じゃあ、私と手を繋いで入りましょ」


「うん。ありがとうリオ」


 2人と2匹で精霊王の玉座へ向かう。いつもの様に精霊王のねぐらに向かうと思っていたんだけど、途中にソラがこっそりと念話で、『王様は威厳を示したいらしい』と伝えて来たのよ。


 到着した玉座には、雲の姿の精霊王が……あ、被らずに済んだけど、後々擬態しづらくならないのかしら?シルビーも精霊王も『九尾の狐』だからね。


「良く来たな。坊やとリオは久しぶりだな。お主がカミルか……女王の子よ、シルビーと言う名を貰ったと聞いたぞ?良い名だな」


「はい、王様〜!ボクはシルビーになったよ〜。姿も貰って、王様とお揃いだね〜!」


「え?お揃い?」


「カミル、驚くで無いぞ?」


 精霊王は『九尾の狐』に擬態した。大きな狐と小さな狐で、並ぶと親子に見えるわね……


「うわぁ……全く同じ狐だね?あぁ、だからリオとソラはあの時に驚いたり慌てたりしていたのか……」


「そうなのよ、カミル。それともう一つあるんだけど……精霊王の名前が『イナリ』なのよ」


 カミルは真っ青な顔をして膝をついた。


「カミル!大丈夫〜?顔色が悪いよ〜」


「記憶が……何かしらあるのでしょうね。王様、ご存知ですか?」


「いや、我は今の今まで知らなかったが……恐らく、カミルの魂はコテツの生まれ変わりなのではないだろうか。魔力の色は違うが、感じる雰囲気や匂いが同じだな」


「女神様はご存知だったのかしら?」


「恐らく知っていただろう。我らはここら辺の事は下手に関われないからな。我とコテツの事も、今回の魔道具の事も、な……」


「カミル、大丈夫?今日は精霊王へご挨拶に伺っただけだから、辛かったら言ってね?直ぐに帰れるわよ」


「いや、大丈夫だよ。僕は、僕のルーツを……知りたいし、誰かが僕を呼んでるから……」


「「「カミル!」」」


 カミルは膝をついた体勢から横に倒れた。シルビーがカミルの頭の下に滑り込んで衝撃から守ってくれたから怪我は無さそうね。


「王様、コテツさんの部屋を借りても良いですか?」


「記憶がごっちゃにならないか?カミルに耐えられるだろうか……」


「カミルはそんなに弱く無いわ。自分の役目を見失わない、立派な王太子なんだからね」


「そうだな、信じてやらねばな……」


「王様、何か知ってるのでしょうけど、言っちゃ駄目なんでしょうから……数日は離れて過ごしましょうか」


「寂しいが仕方ないかのぉ……」


「ソラやシルビー、ユーグ達に聞くのはアリよね?」


「あぁ、ユーグは特に、既に済む世界が違うからな。ユーグと……シルビー辺りは詳しいだろうな」


「やっぱりね。シルビーはハーフの子の……ウグッ!?」


「あ〜、王様に言っちゃ駄目なヤツだった〜?」


「恐らくな。我が居る場では詳しく話せぬだろうな。カミルを信じて、コテツの家を貸そう。あまり無理はするでないぞ?」


「ありがとう、王様。何処までカミルに話して良いか分からないけど、駄目ならさっきみたいに喋れなくなるわよね?」


「あぁ、恐らくそうなるだろうから色々と試してみれば良い。最悪、我が責任を取るから気にせずやりなさい」


 なんて懐の深い王様なのだろう。もしかしたらこの件は、精霊王にとっても解決したい案件なのかも知れないわね。


「リオ〜、転移しようか〜?」


「んー、そんなに遠くないし、私が運ぶわよ?」


「リオ〜、それはやめてあげた方が良いと思う〜」


 シルビーが可愛らしくコテンと首を傾げている。


「どうして?」


「ニンゲンの男の子は、女の子に運ばれるのは恥ずかしいって〜」


「シルビー、それは何処からの情報なの?」


「カミルの執務室で、クリスが言ってた〜。酔っ払って寝ちゃったらしいんだけど、いくら魔法が使えるからって、令嬢に運ばれたって分かった時は恥ずかしかったって〜」


「あぁ……クリスならそのシュチュエーションもありそうね。何気にモテるみたいだから、女友達も多そうだしね」


「あの3人って、執務室に居ると変な事ばっかり話してるんだよね〜。ちょくちょくデュークやシショーのジーちゃんも入って、大変な事になってたりするんだよ〜」


「へぇー、そうなのね?最近全く近寄らないから知らなかったわ」


「リオが居たら真面目に仕事してると思うよ〜?」


「まぁ〜、そうだろうね〜」


「そうでしょうね。取り敢えず、カミルを部屋に運びましょうか。私がカミルを膝枕するから、そのまま私室のベッドに転移してくれる?」


「あぁ〜、それは逆に、起きたら悔しがりそうだね〜……面白いから後でこっそり教えてあげよ〜っと」


 ソラがボソッと呟いたが、何が悔しいんだろう?


「え?何が?」


「王子様、移動してあげよ〜?カミル可哀想〜」


「そうだね〜。シルビーはカミルに掴まっておいてね〜」


「りょ〜か〜い」


 私達はコテツさん宅の私室に転移した。コテツさんの家も日本と同じシステムなので、カミルの靴を脱がせて私の靴と一緒に玄関へ置きに行く。


「カミル、いつ起きるかなぁ〜?」


「ゆっくり寝かせてあげて良いと思うわよ?疲れているのに中々寝れてないみたいだし。折角寝たのだから、起きるまで寝かせてあげましょ?」


「うん、分かった〜。リオ、ありがと〜」


「こちらの時間はのんびりだからね。こちらに居る間だけでも、たまにはのんびりしましょう?最近、皆んな忙しかったものね」


「リオもカミルも仕事ばっかりだもんね〜。リオなんて、自分から仕事探しに行っては持って帰ってくるよね〜」


「放っておけないんだもの。ジャンやリアとも仲良く出来そうだし、帝国の魔道具はどうにかしないと。人間も精霊達も被害に遭ってるみたいだしね?」


「そうだね〜。シルビーが詳しいと思うよ〜」


「シルビー、いくつか質問して良いかしら?」


「良いよ〜」


「先ずは、シルビーが生まれたのはソラより前ね?」


「そうだよ〜。良く分かったね〜」


「たまに日本人と一緒に居たのでは?と思わせる言動があるからね。コテツさんを知ってるんだと思ったわ」


「正解〜!」


「ソラはコテツさんを知らないと言ってたわ。年を聞いても大丈夫?」


「えっと……1000歳は超えたと思う〜。800歳ぐらいから曖昧と言うか、適当になったんだ〜」


「確かに、数えるだけでも大変よね……」


「そうなの〜。それで、他にも聞きたい事が〜?」


「カミルの魂がコテツさんだって知ってたの?」


「気づくまでに少し時間は掛かったけど、出逢ってから契約するまでには気付いたよ〜」


「なるほど。コテツさんの事は、皆んな好きだった?」


「うん、良い人だったからね〜。たまにおかしな事を言い出したりするけど、基本的に魔物以外には手を上げなかったし〜」


「コテツさんの子供の事は知ってる?」


「知ってる……けど、存在していたって事ぐらいだよ〜。教会の下に精霊が弾かれる場所があるんだ〜。そこに住んでたみたいだって聞いた事はあるかな〜」


「さっき王様が仰ったけど……シルビーは女王様の子なのね?王様の一つ前の?」


「あ〜、良く覚えてたね〜。ボクは今の王様の2つ前の女王の子だよ〜。今の王様が王子様になる前だよ〜」


「そこら辺が良く分からないんだけど、精霊の後継者って血族ってだけじゃ無いの?」


「王子様〜、言って良いんだっけ〜?」


「大丈夫だけど、オイラが説明するね〜。血族であるのは間違い無いよ〜。その中で、力が強い者が後継者になるから、オイラより強い王様の子が生まれたり、オイラやシルビーの子が強ければ、次期王様になるよ〜」


「強いって、魔力がよね?精霊は傷付け合う事は許されないんだものね?」


「そうだよ〜。これは精霊と契約してない人には言っちゃ駄目だから気を付けてね〜」


「分かったわ。説明してくれてありがとうね、ソラ。今後なんだけど、カミルに『おにぎり』と『味噌汁』を作ろうと思うんだけど……荒治療かしらね?」


「ん〜……刺激を与えるべきなのか、迷う所だよね〜」


「大丈夫だと思うよ〜。カミルは知りたい、受け入れるってさっき言ってたしね〜」


「そうね。カミルの性格からして、分からない方が嫌でしょうから、全力でご飯を作ろうかしらね」


 私は2匹の精霊と談笑しながらご飯を炊き始めた。早く出来上がっても亜空間があるし、愛しい彼氏に朝ご飯を作ってるみたいで、なんだか幸せじゃない?今日は豆腐を少し大きめに切ろうかな、なんてね。

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