第106話 精霊王の我が儘 ★リオ SIDE
また女神様が無茶振りして来たわね。私、教会で祈るって行為を一度もして無いんだけど良いのかしら。ちゃんと信仰すべき?カミルが教会に行った所も見た事が無いから問題無いわよね?
「カミル、先に王国に帰る?私はソラと精霊界に行かなきゃみたいだし」
「いや、折角デュークもいるし、ある程度はこの後の事を相談してから帰りたいと思っているよ。何度も往復するのも面倒だし、リオとの時間が減るのは困るからね」
「分かったわ。じゃあ、私は精霊界に行って来るわね」
「気をつけて行っておいで」
私はソラの背中を撫でたタイミングで精霊界の入り口まで転移したようだ。目の前には相変わらず大きな入道雲だ。
「リオ、入り口探してみる~?」
「そんなにのんびりしていて良いのかしら?」
「精霊界は精霊のペースに合わせた空間だから大丈夫だよ~。こちらで半日のんびりしてても、あっちじゃ1時間足らずだよ~」
「そうだったわね……精霊時間だったのね、この空間は」
「あれ〜?王様の所に女神様がいるみたいだよ~。行ってみる~?」
「そうね。直接話をしておいた方が良さそうよね」
ソラが雲の前で猫の手をスッと上げる。何度見ても可愛らしい合図よね。微笑むと言うよりニヤニヤしながら、飛行魔法を使ってソラについて行くと、王様のねぐらについた。
「リオ!会いたかったぞ!何故にもっと頻繁に遊びに来ないんだ!我は寂しかったんだぞ?」
狐の姿をした精霊王が、私に甘えるように頬をスリスリしてくる。見た目は可愛いけど、体はデカいからね?私は左右に振られながらも精霊王の首辺りを撫でつつ挨拶をする。
「お久しぶりです、王様。お元気そうで何よりですわ」
「お元気じゃないぞ?リオとシアが帰ってしまって、坊やもリオについて行ったから寂しくて堪らなかったのだからな?」
「わ、分かりました。次回は婆やを連れて、また遊びに来ますから、ね?」
精霊王の押しが滅茶苦茶強いのだが。また来ると言わなければ離して貰えなさそうだわ。
「絶対だからな?」
「ふふっ。莉央、もう少し頻繁に遊びに来てあげてね?精霊王、ちゃんとリオを誘って来たのだからありがたく思いなさいよ!」
「あぁ、やっぱり。女神様が何故わざわざ精霊界に私を呼ぶ必要があるのかと思っていたのですが、そう言う事でしたか」
「ん~?どういう事~?」
「あの場で、スタンピードの日時を伝えれば良いだけだったのに、わざわざ王様に伝言なさると仰ったでしょう?その必要は無いと思ってたのよ。何か、私が精霊界に行かなきゃならない理由があるんだろうなぁって」
「さすがリオだね~。オイラは全く分からなかったや~」
「ふふっ、ソラはいつも転移魔法を使ってくれるじゃない。ソラにしか出来ないらしいわよ?何度も往復したりするのはね」
「えっへん!オイラはリオの魔力貰ってるから、誰よりも凄い精霊なんだ~」
「ふふっ、そうね。ソラは凄い精霊さんだわ」
私とソラの会話を穏やかな表情で精霊王と女神様がご覧になっている。
「ねぇ、莉央。最終的に、恐らく帝国は壊滅するわ」
唐突に爆弾を投げ込まないでよ……どう反応するのが正解なのか分からないわよ。言える事は、私は帝国を存続させたいと思っているわ。
「壊滅するのを免れる事は出来ないの?」
「リオ次第よ。貴女が望むなら、王国の国王陛下に『予言』として手伝う様に言っても良いけど、どうする?」
「んー、それは違うかなぁ?人間の事は人間がやらなきゃダメでしょう?足掻いて駄目なら神頼みするかもだけど、行動する前から手伝ってって言うのはおかしいと思うのよね?それって『過干渉』になるんじゃ無いの?」
「既に過干渉だと思うけど……まぁ、確かにそうね。全てをやってあげちゃ駄目よね。リオが帝国も助けたいってのは分かったから、ジャンが皇帝になったら、彼にも『予言』はしてあげるわね」
「ありがとう、女神様!私もスタンピードは帝国を手伝う予定だし、何とか頑張って見るわね。あ、そう言えば、カミルが精霊は持てないのかって気にしてたんだけど、これは精霊王の管轄なの?それとも女神様?」
「それは我の管轄だ。精霊は、とても強い信仰心があれば契約出来ない事もないのだが、本来であれば皇族が主に契約していたのだ。まぁ、どちらにしろ、精霊との出逢いは帝国に居ないと無理なんだがな?」
「あぁ、契約していない精霊は、帝国に多く居るからね?」
「そう言う事だ。カミルも王族だから魔力は強いし、気に入って寄って来る精霊もいるかもな。坊やの契約者の恋人とバレる前に契約させたい所だが」
「どうして?」
「坊やと一緒に居たいから契約しようとする、打算的な精霊がいないとも限らないのだ。だから、この事は内密にしながら地道に探す様に言っておいてくれるか?」
「あぁ、そう言えばソラも人気者だったわね。カミルと帝国へ行く理由を作ってどうにかしてみるわ。後は何かあるかしら?」
「後はスタンピードの日時ぐらいかしら?」
「あぁ、1番忘れちゃ駄目なヤツじゃない……」
「オイラも忘れてた〜」
2人してお使いの理由を忘れてちゃ駄目よね……
「リオ、坊や、まだゆっくりして行っても良いんじゃないかな?あちらでは話し合いもまだそこまで進んでいない様だし、これまでの出来事でも教えておくれ?」
「精霊王、あまりにしつこいと嫌われるわよ?また田畑でも耕したら?リオも喜ぶんじゃない?」
「うっ、そ、そうだな……リオに嫌われたくはないもんな。リオ、『ラッキョウ』も作れるが食べるか?コテツは『カレー』を作る事が出来なかったから『ラッキョウ』は要らないって言い出したんだよなぁ」
「あぁ、カレーは作れなかったのね。香辛料ならこの世界にもありそうだけど?」
「香辛料の種類が多すぎるから、どれが必要なのか分からなかったらしいぞ。あちらの世界と呼び方が違うのも多くて、そのスパイスを単品で食べた事が無いから無理だと叫んでいたな……」
「なるほど、普通は香辛料を単品では食べないから、確かにそれは厳しいかも?カレーにはらっきょうと福神漬けがなきゃ嫌なタイプだったのね、コテツさん……」
「あぁ、『ツケアワセ』はとっても重要なんだと言っていたな」
「こだわりの深い人だったのね。ちょっと尊敬するわ……」
私はメインが食べられたら良いタイプだから、副菜とか付け合わせとかは気にしなかったわね。って、精霊王のペースに巻き込まれてるわね。そんなに寂しかったのかしら?コテツさんの思い出を、言葉だけではなくて匂いとか五感で感じたからなのかもね?
「王様、そろそろ日程を聞いたら帰るからね?」
「リオ、もう少し良いじゃないか?」
「ちゃんとこの件が片付いたら婆やと遊びに来るし、カミルと精霊が契約したら、カミルとも一緒に遊びに来るわよ」
「ほ、本当か!?」
「えぇ。だから、私は帝国にいるカミルの所に帰って、今聞いた事を伝えなきゃならないの。勿論、精霊と契約出来る事も伝えるわよ?早く見つかれば、それだけ早く精霊界にも遊びに来られるでしょう?待っていて貰えるかしら?」
「あぁ!勿論だ!そうだな、やるべき事を終わらせてからの方がゆっくり出来るしな!」
ぶふっ!と後ろから噴き出す音が聞こえたけどスルーよ。やっと精霊王を納得させたんだから、早くスタンピードの日時を教えて貰ってカミルの所に戻らなきゃだわ。
「女神様。帝国のスタンピードの日時を教えて貰っても?」
「ヒーヒー、ちょ、ちょっと待って!わ、笑い過ぎて苦しいわっははは!」
女神様って案外笑い上戸よね?帝国でのシュールな雰囲気はどこに行ったのやら?
「私、かなり真面目に話してるんですけど?そこまで笑わなくても……」
「ごめん、ごめん!もう、莉央が私のツボなんだから仕方ないわよね」
とうとう女神様のツボになっちゃったらしいわ……そう言えば、最初に『面白い子』って言われてたわね。
「あ、ねぇ、女神様。スタンピードって何故起こるの?」
「それは内緒よ。私が言っちゃ駄目なヤツね。それを解決出来たら、世界の平和も守られるかも知れないわね?」
「女神よ、それも言っちゃ駄目なんじゃないか?」
え?ちょっと待ってよ。スタンピードの元凶が世界を脅かしてるって事?
「これってカミルに伝えようとしたら声が消えちゃうとか?」
「あら、正解~!莉央は本当に賢いわね~」
「本当に言っちゃ駄目なヤツだったのね……そして、これ以上聞けないのね?」
「えぇ。これ以上言うと、私が消滅するでしょうからね。ここだけの話、この世界は既に何度も消滅しては再生しているのよ。正しくは時を遡って、私が『予言』したり干渉出来る範囲で世界を救おうとして来た結果、王国が重要である事と、帝国から滅びが始まる事も分かったのよ。恐らくここまでの内容は話しても問題ないとは思うけど、信用出来る最低限の人数にだけ教えてくれる?」
「えぇ、かなり際どい気がするけどカミルに説明して、話して良い人間を選んで貰うわ。私は感情で動いちゃうから、こう言う事はカミルに任せておけば間違いないからね」
「信頼し合っているのね。莉央に信用出来る人が出来て良かったわ。一人では寂しいものね……」
今度はセンチメンタルだわ……今日の女神様は忙しいわね。私も少し急ごうかしら。
「あの、それで日時は?」
「莉央のいけずぅ~」
「分かっていてやってるでしょう……もう帰らないと、聞いた事も忘れてしまうわよ」
「仕方ないわねぇ。確かにちょっと情報量が多かったわよね。帝国でのスタンピードは残り2回よ。来月の2日と8日で、時間は午後。細かい時間はソラがいるから大丈夫でしょ?」
「うん、日にちだけ分かってれば大体分かるから大丈夫だよ~」
「後5日間は準備の時間があるわね。まぁ、私とソラがいれば何とかなるでしょう。女神様、ありがとうございました。王様、また来るからね。元気で待っててね」
ソラを見ると一つ頷いて帝国の執務室へ転移した。
「ただいま~」
「おかえり、ソラ。精霊王は元気だったかい?」
「ううん。王様は元気なかったよ~。元気なのは女神様だった~」
「えぇ?どういう事?」
私に視線を移して、コテンと首を傾げるカミルは可愛過ぎる。聞いた事を忘れる前に、掻い摘んで起こった事や聞いた事を説明すると、カミルは顔を青くしたのだった。
「リオ、これは本当に話して良いって?」
「うん。でも、これ以上は女神様が消滅しちゃうから駄目だって」
「かなり切羽詰まってるみたいに感じるね?」
「恐らく……もう疲れちゃったんじゃないかしら?偶に壊れる時があるものね、女神様って。きっと長い時間を生きているのだろうし、何度も同じ時代を見て来たのだろうからね」
「そうだね。じゃあ、頑張って今回で全てを終わらせてあげようね。勿論、解決する方でね」
「えぇ、そうね。憂いをなくしてあげたいわよね」
「それじゃあ、来月の2日と8日の準備をしなきゃだね。前日に一度打ち合わせしたいよね」
「あ、私と姉がそちらに伺った方がよろしいですよね」
「あ!いえ!私とカミルとデュークの、今回来たメンバーで私達が来るわ」
こちらに来るのは私達じゃなきゃ駄目なのよ。ちょっと慌てちゃったわね。
「でも、それでは皆様に負担を強いてしまうのでは……」
「えっと、ドリーに何人も運ばせるのは厳しいのでは?それに、現地で魔導師達を含めて話し合った方が良いと思うし……」
「ふぅん?リオ、ちょっと良いかな?ジャン、魔導師のテオドールだったかな?彼らにも前日に集まる様に言ってくれるかい?この後少し時間があるなら呼んでくれたら相談できるのだが」
「かしこまりました。直ぐに声を掛けて来ます」
「よろしくね」
カミルは私の腰を抱いて、ソラを手で招いて防音膜を張った。
「リオ、何か隠してるね?」
「バレない様にやってって精霊王に言われたんだもの」
「ん?何を?」
「カミルも精霊を持てるんだって。ただ、出逢うには帝国の契約していない精霊との接点が必要になるのよ。だから、出来るだけカミルは帝国に来なければならないの。それと、ソラが人気者だから、ソラ目当てでカミルの精霊になりたいって子が契約するのを避けたいんですって」
「あぁ、だからバレない様にやれって事ね。んー、ソラ。お願いがあるんだけど、一肌脱いでくれるかい?」
「構わないよ~。オイラの友達でも紹介しようか~?相性が良ければ、お互いにフワってするから分かるよ~」
「説明がフワッとしてるわね……まぁ、一度会ってみたらどう?カミル」
「この後とか大丈夫かなぁ?出来るだけ早い方が良いね。スタンピードの前後には、契約していない精霊達は、精霊界に帰ってしまうんだろう?」
「あ、そうだったわね。ソラ、その子には会えそう?」
「皆がお話してる間に探して来るね~。見つかったら念話で教えるね~。あまりにも早くに見つけたら、ここに一度戻って来るよ〜」
「分かったわ。よろしくね、ソラ。私達も進められる事は進めておくわね」
「うん。また後でね~」
そうして、私達は各々やるべき事を進めるのだった。
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