第105話 聖女様は男前! ★ジャン SIDE

 俺は急いで姉上のいる宮殿に向かった。今は姉上には精霊がいないから、どこにいるのか分かりづらい。


「はぁ、姉上はどこにいるのだろうね、ドリー」


「ん~、いたよ。精霊の丘だ〜」


「え?分かるのかい?」


「うん、何となく気配と魔力強いから感じようと努力すれば分かるよ~」


「凄いな、ドリー!ありがとう。丘に向かおうか」


 俺とドリーは精霊の丘と呼ばれる美しい丘へ向かった。姉上は確かにいたが、話し掛けられる感じでは無いな……出直そうと振り向いた時、ドリーが空気を読まなかった事が分かった……


「ジャンのお姉ちゃん、やっぱりここにいた~!ね、ドリーの言った通りでしょ~」


「あらドリー、見つかっちゃったわね?どうしたのかしら。わたくしを探していたの?」


「そうだよ~。カミル殿下とね、お話したらそうなったらしいよ~」


「ふふっ、どうなったか分からないから、ジャンに聞くわね」


「うん、そうして~」


 姉上とドリーはいつも通りの、のんびりした会話をしていて少し安心した。さっきは姉上が泣いてるように見えたのだ。男は女の涙にはどうしても弱いからな。


「ジャン、それでどうしたの?」


 俺の執務室にエスコートしながら話を進める。ちょっと不安定だけど防音膜も張っておいた。今は時間が惜しいからな。


「それが、王国では『予言』があるそうなのですが、姉上は聞いた事がありますか?」


「王国に『予言』がある事は知っているわ。帝国にあるかって事?」


「えぇ、そうです。王国では3回スタンピードが起こった事はご存じでしょう?帝国では前回の1回だけとは限らないですよね?」


「3回来るとして、『予言』が無いと日程が分からないって事ね?」


「はい。帝国にも『予言』というシステムがあれば、全力で相手すれば何とか出来るかと思うのですが」


「無理よ、ジャン。日時が分かっても、今の戦力で帝国が前回と同じレベルのスタンピードが来たら無理だろうってテオドールが言ってたわよ」


 さすが姉上。次のスタンピードが来る可能性まで考えて行動なさっていたのだな。俺にはそういう所が足りないのか。


「そうですか。聖女様があまりにも鮮やかに倒してしまわれるものですから、期待してしまいましたね」


「聖女様の魔法の色は、デュルギス王国王族の金色より上らしいわ。精霊の王族の魔力の色『純白』だから威力が強いのと、単純に聖女様が魔法が好きなのだろうと言っていたわね。召喚されてから数ヶ月であそこまで強くなるには凡人の言う努力は必須だと」


「あぁ、さっき見て来ましたよ。滅茶苦茶早いスピードで丸太が飛んで来る装置を作られたそうで、飛んで来る丸太を『火球』を圧縮した魔法で弾き飛ばすという荒業をこの目で見て来ました。王国の凄い所は人材でしょうか。姉上の想い人も根性で練習して出来るようになったそうですよ。人材が素晴らしいのか、そういう人材が集まるのか……」


「どちらともでしょうね。カミル殿下が人を見る目があるのも大きいでしょう。使える人間は大事に育成し、信用できない人間は排除するだけの人数がいるのも王国の強みでしょうね」


「王国の人材が多いというよりは、貴族の出生率が他の国より少し高いのも理由としてはあるのでしょうね」


「そうね。貴族を含め、国民達が疲弊している事に気づいてからも、何も出来なかったわたくしの責任だわ」


「それを言ったら、知らずにのほほんと過ごしていた俺の方が罪は重いよ。だから、今はそんな事を言っていないで、前に進むために出来る事は何でも取り組まなければと思うんだ」


「ジャン、成長したわね。カミル殿下のお陰かしら?わたくしも負けない様に頑張るわよ!そうねクヨクヨしていても、何も変わらないものね」


 姉上は俺の肩をパンッ!と叩いて笑って見せた。執務室に到着したので、お互い向かい合ってソファに座る。姉上は少し考える素振りを見せてから確認して来た。


「『帝国史』は帝国の全国民が学ぶけど、『予言』の話は出て来ないわよね?」


「はい。出て来ませんし、精霊の聖典にもありませんでした」


「それは困ったわね……いつ来るか分かっているのといないのでは大違いだわ。避難用の誘導経路を確保したり、必要な物資を移動させる時間も無い可能性が高くなるわよね」


「姉上、何度も往復する事になりますが、聖女様にお願いするしかないのではありませんか?」


「わたくしもそれしか思いつかないわね……聖女様なら精霊王にも会いに行けるでしょうし」


 俺は姉上に向かって頷いた。考えても答えが出る問題では無いのだから、知ってる人に聞くしか無い。


「ドリー!精霊の王子に聖女様にお願いしたい事があると伝えてくれるか?」


「りょ~か~い」


「先ず、王国だから『予言』があるのは確かだとして、信仰の違いからなのか、他に理由があるのかを知りたいですね」


「聞いても教えてはくれないのでしょうけど、どうやって『予言』を聞いているのかがヒントになりそうよね?」


「ジャン、来るって~」


「「え?」」


 ポンッ!と現れたのは、カミル殿下と聖女様と精霊の王子と……デューク殿?


「王子様凄い!ニンゲン3人も運べるの~?」


「まぁね~。オイラはリオの魔力を貰ってるからね~」


「え?与える魔力の強さで使える能力も変わるって事?」


「リオ~、ニンゲンでも葉っぱよりお肉の方が元気出るんでしょ~?それぐらいの差だよ~」


「なるほど、分かりやすいわね。じゃあ、赤い魔力の魔導師が精霊を持つと、普通より強くなるって事?」


「そうだね~、リオと王国の王族を除けば赤の魔力が一番強いからね~」


「ふぅん。まだ知らない事がいっぱいあるわね」


「そうだね、僕も知らない事ばっかりだよ。王国には精霊がソラしかいないから仕方ないんだけどね。僕は精霊を持てないんだろうか?」


「絶対無理とは言わないけど……女神信仰の国の王太子が精霊連れてるのは不味くないの~?」


「え?それは良いんじゃない?精霊は女神様の眷属なんでしょ?」


 聖女様が聞いてはいけない様な事を言い出したぞ……


「リオ、それは誰に聞いたんだい?」


 カミル殿下はさすがの笑顔で聖女様に質問していた。


「え?精霊王が、女神の使者と言っても間違いは無いって言ってたわよ?ねぇ、ソラ」


「うん、神の使いであり、神のサポートをする存在だって言ってたね~」


「マジかよ……」


「リオ、それは色々面倒になりそうだから、取り敢えず内緒にしとこう?今回の件が終わってからにしようね」


「そうね?カミルが言うならそうなのでしょうね。先ずは何を話す必要があったのかしら?」


「『予言』は、帝国の歴史を遡っても見つけられそうにありませんでした。ですので、聖女様に女神様か精霊王様にお聞きして貰えないかと思いまして」


「帝国でも『予言』を聞けるか?って事で良いのかしら。聞けるなら、どうすれば良いかも聞けば良いのね?」


「その通りです。お願いできますでしょうか」


「過干渉にならなければ教えてくれるとは思うけど、私、女神様に会うには教会に行かなきゃならないのよ」


「リオ、ここで祈ってみたら~?前回も精霊界で普通に出て来たよね~?」


「この部屋って防音とかしてある?」


「魔道具で防音されてます」


「あぁ、魔道具じゃ心配だから、私が張るわね」


 聖女様は無詠唱で防音膜を執務室全体に張ってくださったようだ。何から何まで申し訳ない……


「ちょっと祈ってみるわね?女神様が来ちゃっても驚かないでね?」


「善処するよ」


 カミル殿下が苦笑いしている。俺も善処しよう……姉上は腹を抱えて笑ってるな。声だけは必死に堪えてるみたいだけど。


「はぁ~い、リオ♪呼んでくれて嬉しいわ~♪」


「ごきげんよう、女神様。私、呼んでないからね……ちゃんとお聞きしても良いですかって言ったよね?」


「そんな小さい事は気にしないの~っ!それで、何が聞きたいの~?仲間の前で話した方が、後で説明しなくて良いから楽でしょ~?」


「お気遣いありがとうございます?えっと、『予言』についてお聞きしたくて」


「えぇ、構わないけど……予言は国王に私が直接、頭の中に予言を送っているのよ~。だから、あなた達が知らないのは当たり前ね。それで?他には~?」


「ねぇ、女神様。帝国でスタンピードが起こったのは知ってるでしょう?また起こるのか、もう来ないのか、来るならいつなのかが知りたいの」


「…………それは、莉央の願いなの?」


「えぇ、私の願いよ。この国の人々も、精霊達も守りたいから」


「いつ来るか分かったところで、この国の者達では殲滅出来ないのに?」


「次回も規模が大きいの?」


「えぇ。本来ならば、前回のスタンピードでこの国は潰れていたのよ。それを莉央が殲滅した事で生き長らえただけ。この世界を破滅に追い込んだのは、この国の怠慢からなのよ。だから救う気は無かったわ」


「女神様が辛辣しんらつ過ぎて怖いんだけど……」


 姉上!余計な事を!女神様は、焦る俺をフッと見てから姉上に視線を向けられた。


「あぁ、お前は皇女の……アメリア?だったかしら」


「はい、女神様。私はアンタレス帝国第一皇女アメリア=アンタレスです」


「アメリアとシアは本当に頑張ってくれていたね。昔も今も変わらず身を粉にして働いてくれていた」


「も、申し訳ございません、女神様。皇太子である私がもっとしっかりしなければならなかったのに、姉上や伯母上にばかり迷惑をかけてしまいました」


「ジャン、だったわね。ここ最近は頑張ってる様に見えていたわ。貴方も改心したのであれば、問題はこの国の皇帝かしら」


「皇帝には近々、皇位を退いて貰う予定ではあります。王国での話し合いが先になりますが」


「王国での話し合いの必要はあるのかしら?」


「女神様、皇帝は確かに何もしなかったのが問題なのですが、悪い事もしてないと思うんです。国民にとっては解決策を出さなかった事は悪い事かも知れませんが、皇族の血を引くアメリア皇女や婆や、現在では皇太子も何とかしたいと足掻いて来られました。恐らく、この件は真の黒幕を捕まえなければ全体的な解決にはならないと思うんです」


「それを莉央が捕まえると言うの?そこまでしてあげる価値がこの国や、この子達にあるとでも?」


「私は価値とかは正直、どうでも良いというか……目の前に救える命があって、救える可能性があるなら助けるために行動したいって言うだけで、それに対して皇帝の命だからって命の忖度そんたくをしてるつもりもないですし?」


「ぶふっ!あははははは!相変わらずね、莉央。貴女は本当に愛おしいわ。カミル、貴方は異議があって?」


「いいえ御座いません。リオのやりたいようにが僕のモットーですから」


 カミル殿下が蕩けるような笑顔で聖女様を慈しんでから、女神様に向かって微笑んだ。王子スマイル炸裂だな。女神様も嬉しそうにニコニコしている。


「良いでしょう。今回は莉央に免じて、帝国の今後の予言……そうね、スタンピードの回数と日付、大体の時間も教えてあげるわ。スタンピードの時間が近づけば、精霊達も上位の子達は分かるだろうし、協力してやってみたら良いわ。その代わり、契約者の居ない精霊達は一旦精霊界に帰しなさいね」


「かしこまりました!女神様の仰る通りに致します!」


「ありがとうございます、女神様。先程は失礼しました。力を合わせて出来る限り頑張ります」


「あら、莉央が手伝うと言っているのだから、スタンピードは脅威なんかじゃ無くなったわよ。そんな事より、スタンピードが終わった後の事をしっかり話し合っておきなさいね。帝国は出来るだけ王国の庇護下にいなければ、世界が終わりに向かうのを止める事は出来ないわよ」


「「かしこまりました」」


「莉央、スタンピードの事は精霊王に伝えておくから、後でソラと精霊界に行っていらっしゃい。何かあったら……何もなくても、偶には呼んでよね?それじゃあ、またね~!」


 女神様はフッと消えた。マジかよ、聖女様は女神様すら動かせるのかよ!それに、何気にカミル殿下にもお伺いを立てた様に見えたよな?女神様が王国の王太子に対して敬意を払っている?謝意なのかも知れないが、一目置いているのは確かだろう。


 叫びたくなる心境ではあるが、今は前を向いて出来る事からやるしかないもんな。打ち合わせで忙しくなるだろうから、今は余計な事を考えない様に努力しようと思うのだった。

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