第104話 お茶目な公爵 ★ジャン SIDE
公爵と聖女様への正式な謝罪の為に、俺とドリーは王国を訪れる事となった。今後の事も相談したいから、顔を合わせて打ち合わせた方が早く終わるだろう。
公爵にはお詫びの品と、ドリーも一緒に謝罪してくれると言う事だったので会ってくれそうだ。聖女様が一言添えてくださったらしいから、今回の訪問では会えるだろう。
エイカー公爵と令嬢は、今日は王宮へいらっしゃっているらしく、公爵家が使う事の出来る部屋へ通される事になった。上位貴族や大きな手柄を立てた者は王宮に部屋を与えられる事も多いからね。とても緊張するが、聖女様の知り合いでもあるし、ちゃんと謝罪しなければ……
「し、失礼します」
部屋の扉をノックして声を掛けると入る様に促されたので返事をしてお邪魔する。
「きゃあ、可愛い~!」
水色のペガサスに擬態しているドリーを見たお嬢さんがはしゃいでいる。恐らく聖女様の御友人であられる公爵令嬢だろう。
「ドリーと言います。ドリー、ご挨拶を」
「綺麗なお姉さん、僕ドリー!よろしくね」
「ごきげんよう、ドリー。わたくしはエリザベスよ。よろしくね」
ドリーと公爵令嬢は楽しそうに話をしてくれているので、今のうちに公爵へ謝罪をしなければ。
「公爵閣下、この度はお時間を作っていただき、ありがとうございました」
「いえいえ、中々動けるようにならず、お待たせして申し訳ありませんでした。怪我をした後、何度も皇太子殿下がいらっしゃったと聞いて、驚いていたのですよ。私も一昨日、精霊の王子様が治療しに来てくださって、今では普段通りに動けるようになりました」
「そ、そうだったのですね。本当に申し訳ありませんでした。私もドリーも思考能力が鈍っていたとはいえ、人を傷つけた上に体調まで悪くさせてしまうとは知らず……」
「その話は王太子殿下とリオ様に伺っておりますので大丈夫ですよ。皇太子殿下も大変でしたね。どうぞお気になさらないでください」
なんて優しい人なのだろうか。令嬢も俺を詰ったり怒ったりするのが普通だろうに。カミル殿下と聖女様に聞いていると仰ったな。きっとお2人が上手く説明してくださったのだろう。公爵はお2人を信頼なさってる様だし、きっと信じるに足る方々なのだろうな。
「そう言っていただけると助かります。あ、お土産をお持ちしたのです。気に入っていただけると良いのですが」
亜空間から酒瓶を5本取り出して渡した。公爵の目が輝いている……
「こ、これは皇族しか買えないという幻の!?こっちは帝国で有名な中々手に入らないという!?よ、よろしいのですか?こんなに高価なものをいただいても?」
「公爵閣下が喜んでくれるなら良かったよ。私は見た目と違って全く飲まないんだ。ただ、見た目のせいで飲むだろうと毎年贈られて来るだろう?執務室の棚にすら収まり切れず、亜空間にも入れてるんだよ。亜空間なら劣化しないからね」
カミル殿下の情報通り、公爵は珍しい酒を召し上がるのが好きらしい。俺はどうしても酒が美味いとは思えないし、翌日苦しむのが嫌で一切飲まなくなったんだよな……
「亜空間は時が止まっているというのは本当なのですね?王国で使える人間はいませんから、そういった情報がないんですよ」
「あれ?叔母と聖女様は使えますよね?」
「あ、それ内緒らしいですよ。リオが陛下に言っちゃ駄目って言われたからって、わたくしにも内緒にしてねって、わざわざ言いにいらしたのです」
「うわ、そうなのですか!?よ、良かったです、この時点で知る事が出来て……」
「確かに、精霊と繋がりの深い皇太子殿下には当たり前の事でしょうからなぁ。仕方ありません」
「聖女様の事に関しては、全く話さない方が賢いでしょうね。彼女の非凡さは……全てが非凡でしかありませんからね」
「そうですわね。リオは帝国でもまた何かやらかしたのでしょう?飛んでたってだけでも驚いたのに……」
「あぁ……飛んだぐらいなら可愛いものですね……」
「特級魔法が可愛いって時点で何となく察してしまいましたが、かなり派手に……大暴れでもなさいましたか?」
「ここだけの話にしてくださいね?公爵一家が聖女様の味方だと思っているから話すのですからね?」
しっかりと念を押す。俺しか知らない出来事なら聞かせてあげたい。きっと彼らも聖女様の信者だろうからな。
「「勿論です!」」
「先ず、『擬態魔法』で、黒猫の姿で精霊のフリをしていらっしゃいました」
「え?リオって黒猫になれるのですか?精霊のフリなら浮いて移動していたとか?」
「ほほぉ。それは見てみたいね。きっとソラ殿が白猫だから黒猫を選んだんだろうね」
「あら、そうかも!リオらしくて微笑ましいわね」
「そうですね。ここまでは驚きこそすれ、大暴れには程遠い微笑ましい内容ですよね」
実は擬態魔法は精霊の加護を持っているだけでは使えないから凄い事ではあるのだが、大暴れには程遠いので無視だ。
「確かにまだ暴れる要素は無いかしらね?」
「精霊だと思われていた聖女様は、魔物の大量発生が起きたと聞いて、直ぐにスタンピードだと仰って、現場に向かわれました」
「あぁ……もう結果は聞かなくても分かるな……」
「2回目のスタンピードではリオが殲滅したって言ってましたものね」
あの噂は本当だったんだな。まぁ、カミル殿下が俺に嘘を言う必要性も無いから間違いないとは思っていたが、改めて聞くと珍しい事じゃないと言われているみたいでちょっと怖いな……
「あー、王国では日常茶飯事でしたか?」
「さすがに王太子殿下に近しい人しか知りませんが、少し慣れて来ましたね」
「聖女様にしか出来ないと分かっているのにですか?」
「彼女には、色んな伝説があるのですよ。『練習装置』ってご存じですか?」
「いいえ、存じ上げませんが」
「リオが設計して、デューク様が作って出来上がった装置ですわ」
「何を練習するものなのですか?」
「んー、説明が難しいですね。あぁ、ちょうど今ならいらっしゃるのでは?」
「そうですわね。先に言って聞いて来ましょうか?」
令嬢を使い走りにするのは不味いだろう。
「そこにはカミル殿下もいらっしゃるだろうか?」
「恐らくいらっしゃるかと」
「ドリー、精霊の王子様に伝言を頼めるか?」
「りょ~かい。……練習場にいるから来て良いって」
「皇太子殿下、あれを見たらちょっとショックかも知れませんが、是非見て帰ってください」
「何故ですか?」
「両国の平和の為ですよ」
⭐︎⭐︎⭐︎
「ごきげんよう。皇太子殿下、公爵閣下、リズ。珍しい面々ね?」
「先日ぶりです聖女様。今日は公爵閣下への謝罪と、今後の相談に参りました」
「そうなのね?ごゆっくりなさって?」
「ねぇリオ!わたくし、あれが見たいわ!やって見せてくれない?」
わざとらしく公爵令嬢が何やら聖女様に
「え?双剣で?」
「えぇ。双剣を振るうリオはカッコ良いもの~」
「仕方ないわねぇ。リズのお願いだから聞くしかないわね?」
ふふっと微笑む聖女様は眩しい程に美しい……見惚れていると、公爵が近づいて来て耳元でボソッと呟く。
「開始1秒で驚けますよ」
開始1秒?まさかそんなに早くから驚くなんて難しいだろう。訝しげな表情で公爵を見るが、彼はワクワクしながら始まるのを待っているようだった。
聖女様がパスパスッと素早く魔法を赤い枠内に当てると、物凄い勢いで何かが聖女様目掛けて飛んで来る。何が飛んで来ているのかは、聖女様が切り捨ててから落ちた物体を見て理解した。丸太だ……見てるだけでドキドキするな。
丸太をあの細腕で?俺も剣を扱うから、聖女様がどれだけ凄いのかは分かる。強化魔法はかけているのだろうが、双剣を難なく振り回しているだけでも凄いのだ。というか、残像になっていて剣筋すら見えないけどな?目も良くなければ当たらないのだから、奇跡の技と呼べるのではないだろうか?
「どうでした?1秒で驚けたでしょう?ふふっ」
「楽しそうですね……」
「私も剣を嗜みますが、ここまで凄いと羨むと言うよりは憧れますよね。絶対に敵わないと見て分かるのだから」
「確かに、言わんとする事は分かりますが……」
「彼女が凄いのは、剣はメインじゃ無いって所ですかね」
「は?メインじゃ……あ!」
「えぇ、彼女のメインは魔法です。今の装置で今度は魔法を使うようですよ」
またまたパスパスと小気味いい音がして始まる。始まった瞬間に毛穴が開くぐらい鳥肌が立った。聖女様は初級魔法の『火球』を圧縮したのであろう5分の1程の大きさにして、あのスピードの丸太に当てているのだ。綺麗に全ての丸太が弾き飛ばされている。
特筆すべきは集中力だろう。火球を作り圧縮、丸太を目で追いながら確実に当てているのだ。並大抵の集中力では無理だろう。それも10分間。姉上の仰る『人外と認識すべき』意見は正しいと思い知らされたのだった。
「皇太子殿下もなさって見ますか?」
「いや遠慮しておくよ。私は剣がメインだし、手に馴染んだ剣も持って来てないからね」
「ジャン、やらないの?」
「カミル殿下、無茶振りしないでくださいよ……」
「今のスピードはリオの中で一番早いヤツだから、リオの普通でやってみたら?」
「聖女様基準って時点で面白がってるでしょう……」
「へぇ!良く分かってるね。リオ基準だからデュークが泣いてたよ。作ったのはデュークなんだけどさ?魔導師団の団長なのにクリア出来ない物を作ったって。ふふっ」
「え!?団長ですらクリア出来なかったのか?」
「夜中に必死になって練習したらしいよ。部下にカッコ悪い所を見せられないって。今ではクリア出来るけどね?ちゃんと『練習装置』の役割をしてくれて良かったじゃないかって言ってたんだ」
「聖女様、思ったよりスパルタ?」
「あ、いや……リオは動かない的がツマラナイから作って欲しかった様だ。楽しい装置が出来たお陰で、我が国の魔導師と騎士は滅茶苦茶強くなったよ」
「思わぬ副産物ってか……」
「リオは恐らく分かってたと思うよ。他の人の練習にも使えるって。自分の為だけに人を動かした事はほぼ無いからね」
「マジかよ。なぁ、アレって帝国に輸入出来るか?」
「一番簡単な最初に作ったヤツなら大丈夫じゃないかな?既に貴族の子供の練習用に、各家庭に普及してるみたいだし」
「はぁ!?」
子供の頃から動く的を使った練習が出来るなんて、最強の国が出来上がる事間違い無しじゃないか。
「騎士になりたい子達のレベルが一気に跳ね上がったって言ってたよ。魔導師も然り」
「車椅子と同じぐらい売れてるみたいですね。リオ殿の商会はスタートから黒字経営らしいですぞ」
あ、いかつい魔導師!前回お会いしたが瞬間だったからな。彼は姉上の想い人なのだから、ちゃんと挨拶しておかねば。
「前回は魔道具をありがとう。とても助かったよ。そう言えば、姉が貴方の事を良く覚えていたから話を聞いたよ」
「そうでしたか。皇太子殿下の姉君ならお綺麗な方なのでしょうね」
完全に社交辞令の挨拶になりそうだな。姉上、ごめん。俺じゃ恋のキューピットにはなれない様だ……
「あぁ、帝国の魔導師団の団長が、貴方と話がしたいと興奮していましたよ」
一層の事、話しを大きく変えてみよう。団長とは次回王国に来る時には連れて来る約束もしたしな。
「えぇ?男に興奮される様な事はした記憶がありませんが……」
ちょっと嫌そうな顔をしていた。とても素直な人だな。率直というか?悪気はないのだろうが、変わった人だな。
「色が見えるのでしょう?」
「あぁ、あの時の話か。我が国では師匠とデュークが魔力の色を見れるって話だよ。リオが話題に出したんだ」
カミル殿下に気を使わせてしまった。フォローをいれてくれる。俺は苦手なのでありがたい事だ。
「先日、リオ殿も魔力が見えるようになりましたからね」
「そうそう。そのお陰で、帝国でもリオが大活躍してくれたんだよ」
フッと聖女様へ視線を向けるカミル殿下の瞳は優しい。
「また何かやらかしたんですか……?」
「やらかしたなんて!聖女様は帝国を救ってくださったのです!」
スタンピードが起こった事を端的に説明した。
「え?帝国でスタンピードが?予言はありましたか?」
「予言ですか?」
「もしかして、精霊信仰の帝国では予言がないのでは?」
「えぇ?姉上にも聞いてみないとわからないですね……少なくとも私は、『予言』というものをこの年まで帝国で聞いた事はありません」
「ふむ。公爵閣下、スタンピードの前の予言は何だったか覚えていらっしゃいますか?」
「ルード湖とその近辺の川の氾濫で、25年程前だったと記憶しております」
「ありがとう。僕も同じ様に記憶してるから間違いないだろう。我が国では少なくとも25年に1度は『予言』がある事になるね」
「何か嫌な予感がしますね……急ぎ帰って確認してみようと思います。カミル殿下、聖女様の事を相談したかったのですが、姉上が聖女様の事は殿下に丸投げした方が喜ばれると仰っていたのですが、如何ですか?」
「あぁ、それで構わないよ。姉君は僕の事もちゃんと理解してくださっている様だ」
実は昔、カミル殿下を狙っていたとは言えないな……聖女様の存在があるから今はデューク殿一筋の様だが。
「はい。私は人の機微に疎いので、姉は尊敬しておりますよ。今後も相談してやって行こうと思っていますので、よろしくお願いします」
俺はしっかりとカミル殿下の目を見て頷いた。カミル殿下がフワッと微笑んでくれた。
「ドリー!帰るよ」
女性陣とワイワイ楽しく遊んでいたドリーは満足げな表情で俺の元へ帰って来た。
「皆、またね~!楽しかったよ、ありがと~」
ドリーは女性陣に声を掛けて、さっさと帝国に帰ったのだった。
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