第96話 女神とシア ★精霊王 SIDE

 リオはシア特製の『オニギリ』と『ミソシル』を食べた後、あっという間に眠りについた。


 ある程度話を理解しているらしいユーグが坊やの夢に現れたらしく、これからカミルという王太子の元に魔道具とネックレスを渡しに行くらしい。


「えっと、バーちゃんも一緒に来る?ジーさんはどっちでもいいって言ってるみたいけど、リオが気を利かせてくれたみたいだよ~」

 

「そうねぇ……婆がここから去ると、リオちゃんのオニギリを作れる者がいなくなるのも困るでしょう?」


「あ~、そうだね~!リオはバーちゃんの『オニギリ』大好きだもんね~。いないと食べれなくなるんじゃ可哀想だよね~」


 坊やはシアがとても気に入っている様だ。リオとは違った穏やかな優しさが心地よいのだろう。

 

「クックッ。そうだな、坊や。是非ともシアにはもう少しの間、精霊界に残ってもらおうか」


「分かった~!じゃあ、オイラはカミルの所まで行って来るね~」


「いってらっしゃい、気を付けてねぇ」


「よろしく頼んだぞ」


 そうしてやっと落ち着いたかと思われたが……何事も無かった様な素振りで、女神はそこに当たり前の様にいた。面倒な事だ……

 

「精霊王、あなたズルいわよ~?何故私にもこんなに面白いことになってるのを教えなかったのよ!」


かしましいおなごが増えるのを忌避きひしたまでよ。クックッ」


「もぅ!酷い言われようだわ!それにリオが寝っちゃったからつまんないわね……」


「さっさと帰れよ?」


「いやよ!私もリオと遊びたい~!」


「いやいや、遊びじゃないだろう……お主が救世主としてリオを召喚して、更に精霊界にまで呼んだから、リオがお主の代わりに奮闘してくれてるんだろ?」


「本当にありがたい存在よね~。下手すると、干渉できない私達より役に立ってるし?」


「あぁ、それは間違いない。お主よりは間違い無く素晴らしい働きをしてくれておるからな」


「えぇ~?じゃあ精霊王は何をしたのよ~?」


「リオが大好きな『コメ』や『ミソ』の材料を提供もしておるぞ?あとはアドバイスとかだな?」


「ふぅ~ん?まぁいいわ。今回の黒幕は人間の仕業だとリオ達は理解してるのよね?」


「あぁ、恐らく。魔道具が出てきている時点で、デュルギス王国の王太子や国王も気が付くだろうしな」


「怪我などの被害は?」


「フェレットの子が消滅した。後はペガサスの子はこの通りで……あぁ、王国の公爵が手から血を流す怪我をした上に、記憶の混濁が一時期激しかったと聞いているが」


「その公爵は、リオを守るために怪我を負ったのよね?」


「そのようだぞ。リオが、公爵の記憶の混濁を直してやって欲しいと申し訳なさそうに言ってたからな」


「やっぱりリオは変わらなかったわね。良かったわ……」


「違う世界に来てから変わってしまうことを懸念していたのか?」


「えぇ、勿論よ。人は変化することで自分を守ることもあるからね。悪い方に変化したとしても、それは可能性としてあり得ることだもの……」


「そうだな。だが、今回はお主の選んだリオが活躍してくれてよかったじゃないか」


「そうなんだけどね……あんなに良い子を、私達の都合で振り回してしまって申し訳ないわね……」


「珍しいな?お主がそんな事を言い出すなんて」


「リオが頑張ってくれたお陰でね、必要なスキルも解放されたからペガサスは助かったのよ。私の予定では、ペガサスは助からなかった。王国では、アンタレス帝国の皇太子が、カミル王太子に相談するというイレギュラーも起きたわ」


 リオを呼んだのは、この世界を救う為だから、この変化は良い事だろう。ただ、上手く行き過ぎて心配って事か?根本的な……何か気になる事があるのだろうか?


「皇太子は助けを求める事は予言に無かったと?」


「そうよ。アンタレス帝国は、今回の騒動で周辺国に吸収される予定だった。それを阻止する行動を皇太子が起こしたのよ。それにリオが絡んでるのかは分からないけど、少なくとも破滅を迎えようとしていたこの世界はほんの少しだけど落ち着きそうだから……」


「ほぉ?アンタレス帝国は滅びない可能性が高いと?」


「えぇ。帝国の元王女である彼女の前で話すのは忍びないんだけどね?あの魔道具で皇帝を含めた皇族達が無能にされて、精霊達の生命力を奪った力を使って、デュルギス王国まで攻めようとするの。それをカミル達が阻止する事で、この時の王国の被害は最小限で食い止められたわ」


『この時の』被害と言う事は、その後にも被害が起こるんだな?全てを『観て』来た女神が、この世界の人間だけでは無理だとリオを呼んだのだから、余程その後が酷かったのだろうな。


「今回はデュルギス王国側が既に全て把握している上に、帝国がまだ滅ぶ前だからって事か?」


「そうよ。今回は間違い無く王国は被害がほぼ無いでしょうから、どちらに転んでも悪い結果にはならないと思うわ」


「この世界の破滅を食い止めるには、デュルギス王国が必要なのか?」


「えぇ、そう。要となるのは……カミルと陛下の立ち回りが重要になるわ。予言では、まだカミルは王太子では無かったから行動に制限があって遅れたのも原因だったのかも知れないわね」


 リオを召喚した事で婚約も早くに進み、王太子に任命されたからなのであれば、一連の出来事には全てリオが絡んでいるのか。まぁ、今更だな。ペガサスの命を救ってくれたのだから、既に大きな変化はあった事になる。


「なんて事…………」


 シアがショックを受けた顔をしている。可哀想に、知らなくて良い事まで知る羽目になったな……まぁ、予言よりいい方向に向かうと言ってるのだから、悲観的になる事は無いだろう。


「貴女は『賢者』の妻だったわね?リオが懐いてるぐらいだから、悪い人では無い事は分かるわ。貴女に頼みたい事があるけど良いかしら?」


「女神様のお願いでしたら聞かない訳にはいきませんねぇ。ただ、ご存知だとは思いますが、リオちゃんは婆の可愛い孫ですから、家族や孫が傷付く様な事で無ければ協力致しますわぁ」


「ふふふ、リオは愛されてるわね。貴女にお願いしたい事は……予言通りであれば、リオはこの世界に居なかったから、イレギュラーな存在なの。滅亡を免れないこの世界を救うために召喚された聖女。早めにサクッと世界を救って貰って、リオにも幸せになって欲しいのよ」


「リオちゃんのお部屋は婆の屋敷にもありますから、何かあっても逃げ込める場所もありますわぁ。それに、カミルちゃんがリオちゃんを溺愛してますし、爺さんもリオちゃんの為に動きますから大丈夫ですよぉ」


「そうね。今のリオには仲間が随分と増えたものね」


「我もおるぞ?」


「ふふっ、それはとても心強い味方ねぇ」


「この世界は……イレギュラーであるリオを排除しようとするかも知れないの。勿論、それは決定事項では無いわ。ただ、人間の誰かには知っていて欲しかったの」


 なるほど、女神はこの世界がリオを、異物と判断する可能性を懸念したんだな。


「女神様、婆も『賢者』も王太子も、リオちゃんの周りにいる仲間は絶対に彼女を見捨てません。恐らく、自分の命すら投げ打って、彼女の事を助けるでしょう。ですから皆がその事を知らなくても心配はありません。彼女の魅力に魅了された人間は、国を動かせる者達ばかりなのですからねぇ」


 ふふっとお茶目に微笑むシアは、自信満々で。その態度は、絶対に大丈夫だと我々に物語っていた。

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