第95話 魔道具と格闘 ★リオ SIDE

 私とソラは精霊界へ転移し、無事に帰って来た。勿論、水色のペガサスを連れて、だ。さすがに精霊王へは、ソラに念話で状況を説明してもらってから転移したので、精霊界の雲の姿をした精霊達は丘の上にある精霊王のねぐらへ避難している。


「なんて事だ!姿を固定させる魔道具は繋ぐ為だけに使われていると……」


「王様、取り敢えずは魔道具を外さないと!この子の魔力?何かが吸い取られていて、このままじゃどうにも出来ないわ」


「あ、あぁ、そうだな。怒るのはいつでも出来るな。今やれる事は、魔道具を外して……この子を回復させなければならないな」


 精霊王は、自分へ言い聞かせる様に言葉を発し、怒りを鎮め、ペガサスの首元を撫でた。


「クッ!これは強い力で固定されているな?触れると力を吸われる様だ……」


「はっ!王様、触れないでください!」


 私は慌てて精霊王の手をペガサスから退けた。もしかしたら、強い精霊王の力を吸って、もっと酷い魔道具に変化するかも知れないと思ったのだ。


「失礼します!回復魔法をかけますね」


「少し焦げたぐらいだから大丈夫だ」


「駄目です!あぁ、綺麗な毛並みが……手入れしませんと!」


「あぁ、魔道具を外せたら、な……?」


 どうやら、私も少しパニック状態なのかも知れない。そりゃそうだ。目の前のペガサスはいつ儚くなるか……風前の灯火ってやつで、気ばかり焦ってしまう。


「はっ!そうでした。私がやってみますね。ソラも少し離れてくれる?『黒いモヤ』を弾いてしまうかも知れないからね」


「分かった。気を付けてね〜」


 私はペガサスの首元近くまで手を近づけた。頭の近くにあった『黒いモヤ』は、確かに私の手を避けようとしている様に見えた。


「あ〜、本当だね〜!リオの手を避けてるよ〜」


「ふむ、確かにそうだが……消す事は出来ないのか?」


「ちょっと待って。先ずは魔道具を外さないと……」


「ソラちゃん、王様、ちょっとリオちゃんから離れてくださいな?リオちゃんが集中出来ませんし、お二方とも少しおかしいですわよぉ?」


「「えっ?」」


 精霊王とソラが目を合わせて驚いた表情をしている。その隙に、魔道具を外そうと伸ばした手で魔道具に触れると、ポロッと簡単に魔道具が外れたのだ。


「あら?」


「えぇ〜?どうやったの?リオ〜?」


「私にも分からないわ……触れたら外れたのよ」


「取り敢えずそれは良いから、魔道具をこの箱へ!」


 色々遮断するらしい箱へ魔道具を突っ込み、蓋を閉めたわ。解決はしていないけれど、箱のお陰で少し安心出来るわね。これで精霊界の他の子達には影響が無いだろうと信じたい。ただ、ペガサスはグッタリとしたままだから、何とかしなきゃだけど……


「ソラ、私ちょっと寝るわね」


「ユーグに会いに行くの?」


「うん。ユーグは夢枕に立てるんでしょ?爺や達にこの魔道具の解析と、ネックレスの動画を見て貰った方が良いと思うのよ。現時点では、ペガサスちゃんを回復させられるか不明だし……」


 私は何度もここへ帰って来てからも、ペガサスに回復魔法をかけ続けたが、ペガサスは回復しなかった。そのヒントを貰う為にもユーグ達に話しを聞くのは有意義に思えたのだ。精霊王や婆やも良い案が出ないみたいだしね。


「そうだな。あの子達に相談するのは良い案だ。何かしら関わっていた可能性が高いから、もしかしたら気づきがあるかも知れん」


「えぇ、そうねぇ。ユーグに会ったらよろしく伝えてねぇ」


「婆やも一緒に来る?」


「いいえ。今はその時では無いわぁ。婆は婆に出来る事をやるからねぇ。まだ役に立てるわよぉ」


 ふふっと笑う婆やはカッコ良かった。私も婆やの様な大人を目指そう。婆やの膝で意気込むも、猫の姿をした私は婆やの撫で撫でに負けて眠りにつくのだった。


 ⭐︎⭐︎⭐︎


『ユーグの夢に来れたかしら?』


『うん、来れたよ、お嬢さん。大活躍だったみたいだね?本当にお疲れ様』


『それは何情報なの?』


『ふふ、今はまだ内緒だよ。それより、僕に頼みがあるのでは?』


『そうだったわ。爺やの夢枕に立てるのよね?魔道具と動画のネックレスを渡したいという事と、今帝国では何が起こっているのか調べて欲しいと伝えて欲しいの』


『あぁ、それくらいなら多分大丈夫だよ。他は?』


『ペガサスちゃんが目覚め無いのよ。魔道具は外したし、回復魔法もかけてるのに……』


『回復魔法は意味無いよねぇ?それよりあの子が無事に助かる様にって祈った?お嬢さんは聖女なんでしょ?』


『え?あぁ、確かに『大聖女』の称号も持ってるわね?使った記憶が無いけど……多分、祈るのが聖女よね?』


『それで何かしらの進展はあると思うよ。それで、魔道具とネックレスはどうするの?王子様が運んでくれるのかい?』


『そうね……転移魔法使えるのがソラぐらいだから、ソラに任せようかしら?婆やが心配なら先に帰らせた方が良いかも聞いてくれる?元気にしてるけど、爺やの最愛だから心配でしょうし?』


『分かったよ。全部聞いて来るけど……爺さんが眠ったタイミングじゃ無いと夢枕には立てないよ?』


『それなんだけどね?爺やは昼飯を食べた後、15分だけ昼寝するのよ。そのタイミングで行けるかしら?』


『へぇー、それなら数回チャレンジしてみて、当たればラッキーぐらいで試して見るよ。無理だったら、爺さんが夜寝てからになるけど良い?』


『えぇ、それで構わないわ。私への報告も、夜まで待つしか無いかしらね?』


『あぁ、お嬢さんは精霊界に居るでしょ?そしたら無理矢理眠らせる事も出来なくは無いんだよ。王様が弾かなければだけどね』


『最初にユーグが私を呼んだ時は、王様が弾かなかったから私とソラを夢に呼べたのね?』


『うん。だから、恐らく次も大丈夫だと思うよ』


『じゃあ、それでお願いして良いかしら。無理そうな時は、一旦引いて大丈夫だからね。絶対に無理しないで』


『ふふっ。お嬢さんは優しいね。僕は消滅してるのだから、もっと雑に扱っても大丈夫だよ?』


『婆やが大事にしていた精霊のユーグだもの。私も可能な限りは大事にしたいと思うわよ?』


『ふふっ、そうか。ありがとうね。じゃあ、無理せず頑張って来るよ』


『えぇ、よろしくお願いするわね』


 取り敢えず夢から覚めたら、ペガサスに祈りを捧げて見よう。ユーグは何故私が聖女である事を知ってたのかしらねぇ?気になるけど、この件が落ち着いてから聞きましょ。


 カミルには、この魔道具と録画出来るネックレスを渡す事で、ある程度理解してくれると信じている。だから、ユーグが爺やの夢枕に立って、カミルにお伺いを立てて、その返信次第でソラに持って行って貰おうか……


 色々考えてたらフッと目が覚めた。パチパチと瞬きをすると、ペガサスがとても苦しそうに呻いていた。


「リオ〜!おかえり!どうだった〜?」


「カミルへの伝言は任せたし、持って行く時にはソラに頼む事になると思うけど、先ずはペガサスちゃんね」


 私は猫の姿ではあるが、ペガサスの横に座ると祈りのポーズ――掌を合わせるだけだが――を取った。そうすると、黒猫の姿から、人の姿へと戻ったのだった。


「えぇ――――!リオ、久しぶりだね〜?」


「えぇ、そうね……この姿は随分と久々な気がするわ」


「リオちゃん、急に戻っちゃったけど、体の方は大丈夫なの?」


「婆や、ありがとう。大丈夫よ。一刻を争うから、続けるわね……」


 ペガサスの前で手を組み、祈りのポーズを再度取る。そして、ペガサスから生命力を吸い取っている『何か』を消滅させて欲しいと願った。


 パァ――――ッ!と純白の魔力がペガサスを包み、『黒いモヤ』が完全に消滅したのが気配でも分かった。


「せ、成功したぞ……凄いな。これはさすがに我でも無理だぞ……」


「まぁ、私は聖女らしいので……ただ、祈るだけで良いとは思わなかったと言いますか……」


「あぁ、確かにそうねぇ。祈るだけで消えるなんて思わないわよねぇ。リオちゃんは、頑張って努力して魔法も覚えて来たのだものねぇ」


「あ〜、なるほど〜!頑張らなくても祈るだけで良かったから、逆に『祈るだけ』が盲点だったんだね〜!」


「そうね……私はどちらかと言うと『祈る』よりは『動く』事で、どうにかしようとするタイプなのよね……」


「あはは、どうしてリオが聖女なんだろうねぇ〜?」


「えぇ――?リオって面白いじゃない?」


「「「「えっ?」」」」


 皆で声のする方向を振り返ると、そこには女神様がフワフワと浮かんでいた。


「リオ、久しぶり〜!元気にしてた〜?まぁ、私はずっと見てたから知ってるんだけどね〜♪」


「女神様……確かにお久しぶりですけど、いきなりどうしたのですか?」


「リオが祈ったからよ?前に言ったでしょう?会いたくなったら祈ってって♪」


「えっと……『教会で』祈ればって仰いましたよね?」


「ふふっ、良く覚えてるわねぇ〜。まぁ些細な事は気にしなくても良いじゃない?兎に角、ペガサスを助けてくれてありがとうね、リオ」


「この子は助かったのですか?」


「えぇ、リオのお陰で助かったわよ〜。少し寝たら、契約者の元に帰れると思うけど……そうねぇ〜」


「体調が悪いのでしょうか?」


「ううん。そんな事は無いんだけど……この子、隣国の皇太子と契約してる精霊なのよ……」


「えぇ――――!!皇太子の精霊が何故帝国に?先日までデュルギス王国で『イタズラ』してたわよ?」


「えぇ、私も分からないのよね。何故この子が帝国にいて、消えそうになっていたのか……」


「あれ?でも、王国で会った時は雲の姿だったわよ?あぁ、だから皇太子の精霊って事に気が付かなかったのね……」


「えぇ?それはおかしいわね~?精霊がソラしかいない王国で、姿を見せないなんて……精霊には耐えられないんじゃなくて?」


「どうしてですか?」


「あぁ、精霊は精霊王の子であるソラを敬愛してると言えばいいのかしらねぇ?」


「なるほど。自分の姿を覚えて貰う方が優先順位として高いのね?」


「そうなのよ。だから、ソラを独り占めできるこの状況で自分をアピールせず、ソラの大事な契約者に『イタズラ』したっていうのも腑に落ちないのよね~……」

 

「ふぅ~ん?まぁ、そこら辺も魔道具とネックレスをデューク達に渡せば何か分かると思うから、一旦落ち着いて少し休憩しない?さすがに色々あり過ぎて、私も疲れちゃったわ…………」


「そうね、リオちゃんはよく頑張ってくれてたものね。『オニギリ』でも食べて、ゆっくり休むと良いわ」


「そうだね~、リオ~。カミルへ渡す物も把握してるから、一旦ゆっくり休憩した方が良さそうだね~?ちょっと顔色悪いよ~」


「そう?じゃあ、お言葉に甘えて少し休むわね。ありがとうね、ソラ」


 私は久々に人間の姿で、婆やの作ってくれたおにぎりや味噌汁に舌鼓を打っていたら、すぐに眠くなってしまったわ。精霊王や婆やへの挨拶もそこそこに、ソラにベッドまで転移してもらうと言う贅沢な経験をしてから、眠りについたのであった。

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