第97話 敵か味方か? カミル SIDE

「やっほ~。カミル元気~?」


 いきなり目の前にソラがポン!と現れた。会ってない時間は3日程度なのに、凄く久々に会った気がする。


「ソラ!僕は元気だよ。ソラも元気そうだね。リオはどうしてる?」


「あはは、リオの事が気になって仕方ないんだね~。リオも元気に……あぁ、今は疲れて眠っているよ~」


 当たり前だし、いつもの事だからか、ソラにはバレバレだったらしい。


「何か疲れる出来事が起こったのかい?」


「うん。水色のペガサスがね~」


「なんだって!?水色のペガサス!?ドリーは精霊界にいるのか!?」


 皇太子の精霊は無事だったってことかな?話は最後まで聞かないと分からないけど、皇太子のテンションが高過ぎて話が先に進まなかったりしそうだ。


「あ~……リオをいじめた人だ……バーちゃんの知り合いらしいけど、オイラは敵とみなすよ~」


 珍しく、先制攻撃したね?嫌いなタイプなのか……もしかして、自分が居ない時に精霊を使った『イタズラ』をさせた事を憤っているのかもね。


「わ、悪かったって!謝りたいのに会えないんだよ……」


「自業自得ってヤツだよね~。それにオイラはリオの味方だから関係無いよね~」


「ソラ、帝国は今、大変な事になってるんだよ。だから手伝いを……」


 ソラが珍しく良く喋るね。余程頭に来てるのだろう。

 

「今更だよね〜?リオがペガサスを何とか救ったけど、その前のフェレットは消滅しちゃったんだよ〜!リオがどれだけ心を痛めているか分かる~?」


「フェレット……グレーのかい?」


「えぇ〜っ?あの子も知っているの~?なのに助けてくれなかったの~?」


「私は自分の契約しているドリーすら助ける事ができなかったんだ。姉上のフェレットも、きっと助けられなかっただろうね……」


 皇太子は悲しそうな表情で、俯いて溜息をついた。フェレットは皇太子の姉上の精霊なのかな?


「ん~?このニンゲン、この前と雰囲気が違う気がする~?」


「精霊は本当に凄いな……この国に来てから調子が良いんだ。しっかり考えて行動出来る状態にあるから雰囲気が変わったと思ったのだろう。聖女様の精霊殿、大変申し訳無いのだが、ドリーに会わせては貰えないだろうか?」


「ペガサスは、王様とバーちゃんが看病している最中だから、まだ会わせる訳にはいかないよ~」


「そんなに酷い状態だったのかい?」


「うん。指一本すら動かせないくらい、『黒いモヤ』に魔力とか生命力とか吸われてたよ~。この魔道具に繋がれてたからね……」


 ソラが見せてくれた、箱に入った魔道具は『黒いモヤ』を纏っていて、おどろおどろしかった。いち早く危ない物だと気づいた師匠が慌てて蓋を閉めようとしていた。デュークも中身の恐ろしさに直ぐ気づいたようで、僕を庇う位置に立ったのだった。


「あとはネックレスに一部始終が録画されてるって言ってたから見てみたら~?ペガサスを助けた時のヤツだから~」


「王太子殿下、見せて戴けないだろうか?」


 皇太子は深々と頭を下げる。ソラに視線を向けると、フィっとそっぽを向いた。好きにしろということらしい。仲間を見殺しにしたと思っているのだろう、ソラはいつもの暢気な雰囲気とは打って変わって、ずっとピリピリしていた。


「デューク」


「はっ!」


 デュークが部屋にいる全員が見えるサイズのスクリーンを壁に沿って張った。そして、動画が再生されたのだが……なんなんだ、この黒い空間は!恐らくこの黒いのが『黒いモヤ』ってヤツなんだろうけど、バルコニーらしき場所がモヤで真っ黒に見える。そのバルコニーの下に、うずくまる何かが見えるが何かハッキリしない。ん?凄く視界が低いな?まるで匍匐前進でもしながら進んでるかの様だ。


「ソラ、リオは匍匐前進ほふくぜんしんでも覚えたの?」


「ん~?あぁ、その時のリオは黒猫の姿をしていたから、視界が低いんだよ~」


「えぇ――――――!り、リオが黒猫に?!僕も見たかった!!なんてことだ……リオを膝に乗せて撫で回したかった――!」


「擬態魔法は覚えたみたいだから、帰って来たら黒猫になってもらえばいいよ~」


「そうしよう!絶対に黒猫になってもらおう!急いで解決しなければ!デューク!師匠!」


 2人の方向へ視線をやると、眉間に皺を寄せて腕を組んでいる師弟が同じポーズを取っていて笑える。


「これは酷いな……」


「このペガサスは『黒いモヤ』と分離出来たのかのぉ?」


「うん。聖女は祈るだけでいいらしいよ~。全くの想定外で、ユーグが祈れって教えてくれなきゃ分からなかったよね~」


「隠れスキルがやっと発動したのか……」


「『聖女の息吹』なのか、『大聖女の祈り』なのかは不明だけどね~?今、女神様が精霊界に来てるから、聞いてみれば教えてくれるかもね~?」


「「「「えっ?」」」」


「ねぇ、オイラのお仕事終わりで良い~?帰ってリオとゴロゴロしたい~」


「ちょっと待って、ソラ!リオの話を聞かせてよ!」


「また今度ね~。早く解決すれば、直ぐに会えるんだから頑張ってね~。まったね~ん」


 ソラが消えた。精霊は自由なんだと言っていたから仕方ないんだろうけど……こうなったら、さっさと解決してリオを迎えに行くぞー!ってあれ?何故リオは隣国にいたんだ?


「皇太子殿下、動画のこの場所はどこか分かりましたか?」


「恐らく、城の近くにある教会ですね」


「精霊信仰の?」


「えぇ、そうです。ここには……精霊たちの食事がありますね……」


 精霊達の食事をする為に寄る教会?あからさまに胡散臭うさんくさいね……リオもそう思って潜入調査みたいな事をしたと思われる。また危ない事を……あ!ソラはそれを僕に突き詰められて怒られるのが分かってるから、その前に帰ったんだろうね。


「リオ殿はまた何かに気が付いたのでしょう。そして猫の姿になって潜入し、証拠の魔道具と録画出来るネックレスを……って、ほぼ解決できちゃうのでは?」


 デュークの言う通り、証拠が揃っているね。帝国で行われている事と、精霊王が関わっているだけでも証拠としては十分だからね。我が国が関与出来る余地は出来たのだから。


「皇太子殿下、これで大体は見えたと思うのですが。そちらの皇帝に証拠として提示しても無理そうだと思われますか?」


「帝国に居る限り、思考能力が落ちてますからね……正直、納得するとは思えませんが……それでも私が責任を持って全力で説得しましょう」


「分かりました。取り敢えずはデュークと師匠で魔道具の解析を頼めるかい?」


「「御意」」


「キース、陛下に謁見……そうだね、皇太子と共に謁見しようか。その時に、皇帝がこちらに来る理由なんて考えて貰えたらいいねぇ?ふふっ」


「リオ様に会えないから、鬱憤が溜まっているでしょう。きっとコテンパンにしちゃうんじゃありませんか?」


 クリスが余計な事をボソッと呟いた。冷静なキースはクリスに見えない様に蹴りを食らわせていた。まぁ、とことんまでやってやろうとは思っているから間違ってないけどねー。


 余計な事は考えずに、目の前の事を解決しなきゃリオに会えない。リオは不調を治すために精霊界に行った筈なんだけどなぁ……結局は、何かしらの縁で……あぁ、精霊界に女神様がいらっしゃるらしいから、恐らくは女神様とリオの縁なんだろうね。さすがに女神様には文句は言えないもんなぁ……リオを振り回さないでくださいって?リオだからね、女神様を振り回してるのかも知れないけどね?


 そんな事をボーッと考えていたら、陛下の謁見の許可が下りたらしい。早過ぎないか?なんとなく怪しみながらも謁見の間に向かった。


 ⭐︎⭐︎⭐︎


 陛下の近衛騎士が扉を開けてくれた。皇太子はとても緊張しているようだった。


「国王陛下へ……」


「構わん。2人とも奥で話そうか。長くなりそうだろう?」


 口上も聞かず、陛下はパチンとウインクをして、奥の控えの間へ移動して行く。あれは楽しんでるな……


「隣国の皇太子よ、大変な様だなぁ?」


「は、はい……この度はご迷惑を……」


「いやいや、私は構わんよ。今回の隣国との出来事は、王太子としてカミルが関わる事となっているからな。私の手を煩わせない限り、文句は言わん。ただな…………」


「ただ?何でしょうか?」


「私の大事な義娘むすめにちょっかいをかけたらいしな?それは許せんなぁ」


「た、大変申し訳ありませんでした!その、私の補佐官の一人が『純白の魔力』を持つ聖女を妃に迎えることができれば、帝国は安泰だと言うので……その、確かにちょっかいをかけました……」


「ブフッ!正直者だなぁ?あはははは!!」


「ふふっ。皇太子殿下は憎めない人柄ですよね」


「す、すみません……私は帝国にいる間、なんとなくですが毎日体調が悪かったのです。倒れるほどではなく、なんだか怠いなって……その頃は、頭がボーッとしてるとはハッキリ分からなかったのですが、この国に来てからとてもスッキリしていて、あの時はボーッとしていたんだなぁと理解したのです」


「今が正常で、帝国にいる時はおかしかったと?」


「はい。この国に来なかったら、一生分からなかったのだと思います。帝国の異変にも、精霊たちの失踪にも……」


「そうか。君の精霊は無事だったらしいな?姉君の精霊が消滅したと言っていたらしいが?」


「はい。姉の精霊はフェレットで、よく私の精霊と喧嘩していました。今思えば、姉も精霊もまともな方々でした。父がよく感情的になるのですが、それを収めては周りにとても気遣ってくれていました。そんな事すら気付けず……やっぱりあの国はおかしいのだと思います」


「なるほど。それでは、姉君とフェレットは帝国のために闘っていたのかも知れませんね」


「はい……何故邪魔ばかりするんだと思っていましたから、恐らく私や皇帝陛下がおかしかったのでしょう。ですので、本当に申し訳ないのですが、皇帝をこの国に呼び出して貰うことはできませんでしょうか?」


「皇帝が来たくなるような出来事が無ければ無理ではありませんか?」


「そうだな。精霊に関する事となると……義娘のリオを出すしか無いよなぁ?」


「私が必ず守りますので、お願いします!」


「駄目だよ。リオを守るのは僕の仕事なんだから、余計な事をしないでくれるかい?」


「ククッ、相変わらずリオの事には心が狭いんだな?カミルよ」


「リオは僕の唯一ですから。リオを表に出すのであれば、アレの発表しか無いでしょう?」


「あぁ、『大聖女』の称号を持っている事と、その他の功績を称えて爵位でも贈るか?」


「リオは嫌な顔をするということだけは間違いないと思いますよ」


「だろうな。クックッ」


「えぇ?普通はありがたくたまわるものでは?」


「リオは分不相応だからと、何も受け取らんのだよ。この前、やっと護衛のエキスパートを一人受け取ってくれたがな」


「僕のプレゼントも、婚約指輪とネックレスだけしか受け取ってくれてませんね」


「彼女の楽しみや喜びは何なのでしょうか?」


「どうやら、『穏やかな生活』がしたいらしいぞ?」


「王太子妃になるお人が……?」


「まぁ、だからこそなのだろう。この国の憂いも解決してくれて、今回は隣国までだからな?クックッ」


「確かに穏やかを好んでいるのに、行動は激しいタイプだからね。まぁ、そんなリオが可愛いんだけどね」


「王太子殿下は本当に婚約者様を溺愛していらっしゃるのですね」


「当然だよ。この僕が一目惚れしたらしいからね。これまでの僕からしたら考えられない奇跡が起こったのだよ」


「私はカミルがやっと王太子になってくれただけでも満足ではあったんだがな。最強の聖女が息子の嫁に来てくれるのだから、我が国は安泰間違いなしだからな。そうで無ければ、隣国の手伝いなんてしておられんだろう?」


「その通りですね……お二方の言いたい事は理解しました。皇帝が何を言っても、聖女様は王国の王妃となるお方です。勿論私自身も、そして進言してきた補佐官が何を言おうとも約束はたがえません」


「良く分かっておるではないか。『大聖女』のお披露目会には、帝国だけでは無く他国の王族も呼ぶ事になるだろう。その時は、『大聖女』様をお守りするのだぞ?」


「かしこまりました。この度の出来事は、恐らく我が帝国が跡形も無く消え去るか、ギリギリ存続するかの二択だと……私は腹を括っております。姉上を見つけて相談しつつ、帝国の今後を考えたいと思っています。どうぞよろしくお願い致します」


 皇太子は、キリリとした良い顔つきになっていた。自国のために腹を括ったのだと分かる。リオが居なくて寂しいけれど、元気にしている様だし?僕も、僕にしか出来ない仕事をしっかりこなしつつ、リオの帰りを待とうと思うよ。

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