第50話 騎士の信念 ★デューク SIDE
治療に向かった人間は、誰1人として戻って来ていない。怪我人を運ぶ指示を出しながら、サイラスと手短に話す。
「おい!もう厳しいんじゃ無いか!?」
「デューク殿、少し後退しましょう!」
「前線のヤツらはどうするんだ!」
「私が声を掛けに行きます!」
「おい!無謀だろうが!」
「我が主の失態ですから、私が行くべきなのです」
「待て!サイラス!」
サイラスは走って行ってしまった。魔物は、100分の1程度も倒せていない。倒せていないのにどんどん湧くから、数は増える一方だ。開始当初は騎士や兵士が1000人以上いたのに、今では300人もいないのではないか?
仕方ないから私も少し下がる事にする。城下に向かおうとする魔物を草原側に弾き返す事があっても、魔物を攻撃はしない。私は隠密魔法をかけているから、他に見える敵がいる限り、魔物に攻撃されないのだ。
「助けてくれー!」
声のする方向へ走る。
「大丈夫か!?」
「何処から声が!?」
「魔道師団のデュークだ。隠密魔法をかけている」
「だ、団長様!助けてください!」
助けを求める男は左足を喰われていた。これは1人では逃げられない。男を肩に担ぎ走る。
「揺れるが我慢しろよ!急ぎ城へ戻るからな!」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
草原の端まで走り、タンカに乗せて後は任せる。
「団長様、ありがとうございました!この御恩は忘れません!」
「あぁ、気にしなくて良いぞ。早く治して貰えよ」
私はまた草原に走って戻るの繰り返しだった。いい加減疲れたが、人の命を守る為ならまだ動ける。急いで戻ると、サイラスが血塗れで人を抱えているのが見えた。
「サイラス!大丈夫か!?」
「私の事はいいので、この人を……」
「馬鹿言え!おい、お前は自力で私にしがみつけるな!サイラス!担ぐから耐えろよ!」
サイラスが助けた男を背負い、サイラスを担いで走る。急がなければ、恐らくサイラスは助からない。草原を走り抜け、直接城へ向かう。タンカで運んでいては間に合わないと判断した。
「リオ殿!助けてやってくだされ!」
リオ殿の魔力を探し、彼女の目の前に急いでサイラスをおろす。
「なんて事!!!」
リオ殿は慌ててエクストラヒールをかけた。出血は止まったが、一度では完全に治し切れず、もう一度かけてやっと治ったようだ。
「ありがとうございます、カミル殿下の婚約者殿」
「ふぅ、間に合って良かったです……」
「助かりました。この御恩は忘れません。私は王子を守りに戻りますので、これで失礼します」
「駄目です!血を失い過ぎていますから、安静になさってください!怪我が治っても、体は無理を――」
「いえ、行かなければならないのです。それが私の使命なのですから」
「はぁ…………」
ため息をついたリオ殿は、疲労回復魔法をサイラスにかけていた。少しでも動けるようにと。サイラスはそれに気づいて、深々と礼をして走り去った。
「リオ殿、悪かったな。アイツは俺の従兄弟の子なんだが、頑固でな……」
「ふふっ。大事な人なのですね。口調が崩れてますよ」
「あ……申し訳ない……」
「構いませんよ。普段からそれで問題ありません。カミルに敬語を使って無いのに、私にだけ敬語って……元々おかしいと思っていたので」
「ははっ、そうだな。リオ殿、そろそろ殿下の出番が近いかも知れん。サイラスは、第二王子の近衛騎士隊長だからな。今より酷い怪我で帰って来るかも知れないから、その時はよろしく頼む」
「分かりました」
走り去ったサイラスの元へ向かう。第二王子の元へ戻っているだろう。リュカにも指示を出さなければ。
「撤退なんてあり得ない!お前ら本気でやってるのか!?魔物がそこまで来てるじゃないか!」
「ちょっと!話しが違うじゃ無い!」
「コイツらがこんなに無能だとは思わなかったんだ!」
言い争う声が聞こえる。あんなに大声で話してたら、騎士達の士気も落ちるだろうに……
「殿下、我々が魔物を足止め致しますので、どうか殿下だけでも撤退なさってください!」
「いやだ!」
「もう直ぐそこに魔物が押し寄せているのです!」
「お前達が何とかしろ!俺だけが魔物から逃げた王子だと笑われるだろうが!?」
「殿下のお命の方が大事です!」
「うるさい!俺に指図するな!」
言い合っているうちに、魔物が大群で押し寄せる。我々もそろそろ、リュカを連れて下がらねば巻き添えを食うだろう。ギリギリまで撮影させたいから、最悪リュカを担いで逃げるかな……
「きゃぁぁぁぁぁ――――――!!!」
私の10mぐらい先にいるサイラス達の元に魔物が迫って来た。近衛騎士達は必死に戦っているが、第二王子もその婚約者も腰を抜かして動けないでいる。
少しは痛い目に遭って貰わないとな……本来は王子を守らない事は不敬になるが、証拠が要るので仕方なくって事にしておこう。この王子の所為で、カミル殿下もアルフォンス殿下も危ない目に何度も遭わされて来たのだ。
数分も経たずに近衛騎士も第二王子も婚約者も戦闘不能に陥った。念を込めてソラ殿に呼び掛ける。
『ソラ殿、こちらは全員戦闘不能!』
『りょうか〜い!』
ポン!と、カミル殿下とソラ殿が目の前に現れた。城からは魔導師団の団員が身体強化して走って来る。
取り敢えずこれでスタンピードの方は大丈夫だろう。後は第二王子達を城へ移動させて治療すれば終わりだ。リュカには最後まで撮影するように小声で声を掛けてから、第二王子とその婚約者を両脇に抱えて城へ走った。
⭐︎⭐︎⭐︎
「リオ殿、お疲れ様です。第二王子とその婚約者をお持ちしました」
「お持ちしましたって…………」
「気を失っておられるのでな。お運びしました、か?」
「そうね……その方が敬ってる感はあるわね……」
「まぁ、予定通りだ。この後、近衛騎士達も運ばれて来るからよろしく頼む」
「えぇ、分かったわ。結局全滅したの?」
「あぁ、予想通り過ぎて驚いた。殿下とリオ殿が言った通りになったんだ。途中経過も予想通りだったからな」
「そんなに酷かったのね……」
「こちらとしては助かったけどな。あの怪我人の数でイレギュラーなんて面倒でしか無い」
「まぁ、確かにね……取り敢えず、治療するわね」
2人とも治療されたが、まだ意識は回復していない。その後、近衛騎士達が運び込まれた。一番酷かったのは言わずもがな、サイラスだった。
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