第51話 騎士達の想い ★リオSIDE

 ひたすら治療を続けて数時間が経過していた。運び込まれた人達は皆回復し、何とか全員助ける事が出来ているわ。

 

 後は、第二王子と婚約者、そして近衛騎士達ぐらいだと、ソラからは聞いている。念話が出来るのは便利ね。

 

 デュークが第二王子と婚約者を運んで来たので回復させたら、奥のベッドへ運んでくれた。魔導師なんだけど、力持ちよね。今、身体強化を使って無い事は、見れば分かるもの。

 

 近衛騎士達も運ばれて来た。20名全員が重症みたいね。1人ずつエクストラヒールをかける。最初にかけたサイラス様は、直ぐに目を覚ました。さすがは隊長さんね。


「カミル殿下の婚約者殿、2度も命を救ってくださり、更には部下達まで助けていただき、感謝してもし切れません……本当にありがとうございました」

 

 深々と……土下座する勢いで深々と礼をされる。目を覚ました騎士達も、私に向かって深く礼をしてくれる。

 

「全員助かって良かったです。まだ完全に体調までが戻った訳ではありませんので、どうぞ安静になさってくださいね」

 

「大変お世話になりました」

 

 サイラス様と近衛騎士達は、第二王子の元へ向かう。私は後片付けを手伝う為に、救護班の人達と合流する事にした。

 

「リオ様!本当にありがとうございました!」

 

「リオ様がいらっしゃらなければ、助からなかった人達で溢れ返っていたでしょうからね……」

 

「私共も回復魔法は使えますが、あんなに素晴らしいエクストラヒールは初めて見ました!」

 

「本当に!威力もスピードも桁違いで……私もリオ様のようになりたいです!これからも精進いたします!」

 

 救護班の人達にも感謝の言葉を述べられて照れる。私の場合は魔力の自然回復が早いから、ずっと治療し続けていられるのだ。

 

「いえいえ。沢山の人達が助かって良かったです。後片付けのお手伝いをしたいのですが、何か――」

 

「ええっ!?い、いえ!片付けまでなさらなくても大丈夫です!もう充分に働かれたのですから、あちらでゆっくりなさってください!」

 

 追われるように休憩場所に連れて行かれた。仕切りの向こうでは、第二王子とサイラス様が揉めているようだ。気になって聞き耳を立てる。

 

「アラン殿下!我々だけでは無く、周りの者達も巻き込んだのですよ!ここに運ばれた人数が何人かご存知ですか?参加した全員ですよ!私なんて2度も助けていただきました!」

 

「お前達が俺を守るのは当たり前だろう!俺の近衛なのだからな!」

 

「ですから、我々はまだ良いのです!賛同した者達や手伝いに来た者達、そして回復魔法で助けてくれた人達。沢山の人達に迷惑をかけているのです!」

 

「誰も死ななかったんだろう?だったら問題ないだろうが!国の救護班が俺を手伝うのは当たり前だろう!」

 

「殿下!今回、皆が助かったのは、国の救護班だけではありません!カミル殿下の御婚約者様の活躍があったからこそなのです!」

 

「はぁ?カミルの婚約者はあの無能女だろ?魔力量が50しか無くて、嘲笑われていた、あの女だろう!」

 

「殿下、私も、部下達の中にも、手足が喰われた者達がおりました。それを治癒したのは、紛れも無く彼女です!彼女がいなければ、私は殿下の元へ戻る事は無かったのですよ!」

 

「はぁ?捥げた手足を治せるのなんて、超級のエクストラヒールを何度もかけなければ無理だろうが!それに1人回復させるので精一杯のはずだ。それを何人もなんて、あの女の魔力量で出来るはずも無い!」

 

「デューク殿によりますと、彼女は一言で言えば『努力の人』だそうです。カミル殿下やデューク殿のお師匠様のお墨付きだそうです。あのデューク殿が自ら関わろうとなさったと、魔導師団では噂になっていたと」

 

「何故カミルの婚約者だけが魔法を使えるんだ!」

 

「ですから、婚約者様の努力の結果でしょう。最初は誰も見向きすらしなかった、魔力量ですからね。カミル殿下のためなのかは存じませんが、婚約者殿は日々、欠かさず魔導師団の練習場で訓練なさってるそうです」

 

「おい!お前も訓練して来い!そうすれば借りを作らずに済んだんだ!」

 

「私のせいにしないでよ!何もしなくて良いって言ったのはアンタじゃない!」

 

 アラン殿下は婚約者と痴話喧嘩を始めた。それは他所でやって欲しいわよね……王子としての威厳は気にしないのかしら?こんな人が多い場所で声を上げるなんて。

 

『リオ、こっちは終わった〜後で魔力ちょうだいね〜』

 

『お疲れ様!沢山食べて良いわよ』

 

『やったぁ〜』

 

 ポン!と2人が私の前に現れた。私はしーっと人差し指を口の前に当てて、隣の声を聴いている事を伝える為に、隣をチョイチョイと指差した。カミルは椅子に腰掛け、ソラは私の膝の上に陣取った。

 

「だから何だって言うんだ!?あの女が居なければ、俺は死んでたとでも言いたいのか!」

 

「その通りです、殿下。我々はカミル殿下の御婚約者様に生かされたのです」

 

「そんな訳あるか!俺も大した怪我はしていない!気を失ってしまっただけだ!」

 

 もう、子供のような言い分しか出て来ないらしい。

 

「リオ、治療中の動画は撮れたかい?」

 

 小声でカミルが聞いて来る。

 

「えぇ、撮れてると思うわ。今も音は拾ってるんじゃ無いかしら?」

 

「分かった」

 

 カミルはスタンピードが始まる前に、私にペンダント型の録画機を渡し、撮影するように指示していたのだ。


 昨晩、やっと出来上がったとデュークが持って来たらしいのだが、オシャレで録画機には見えない。デュークは手先が器用よね。私の双剣や短剣も、とてもセンスが良くて気に入っているもの。

 

「うるさい!サイラス!お前はクビだ!」

 

「かしこまりました。アラン殿下。長い間、お世話になりました」

 

「な、なっ……」

 

 アッサリと辞める事を表明したサイラスの反応にアラン殿下は驚いているらしい。

 

「アラン殿下、我々も殿下の近衛騎士を退団する事をお許しください」

 

「何だと!何故だ!」

 

「殿下……私を含め、ここに居る者達は殿下が幼い頃から近衛騎士としてお側に仕えて参りました。多少の我が儘も、我々が我慢すれば周りに迷惑は掛からないと。ですが……今回、人の命を軽くお考えになられる殿下には、今後も同じ様に支えることは出来ないと……」

 

「我々も同じ意見です」

 

「何より、殿下自身がお逃げになられなかった。我々は殿下が逃げ仰るまでの盾でもあります。我らの本分を全うできないのであれば、近衛騎士である事には意味が無いのです」

 

「我々は助けられ、もう一度、生を受けました。これからの人生は、命の重さを噛み締めながら生きたいと思います」

 

 深々と礼をし、近衛騎士達はその場を後にしようとしたタイミングで、カミルと少し大きな声で話をしながらわざとらしくアラン殿下の前に現れた。

 

「第二王子殿下、お加減は如何でしょうか?」

 

「お前は……カミルの婚約者か」

 

「はい。私はカミル殿下の婚約者で、リオ=カミキと申します。どうぞお見知り置きを」

 

 完璧なカーテシーをして見せる。アラン殿下は目を見開いて驚いている。

 

「な、何故……学園にも行ってない癖に、そんな挨拶が出来る?お前は無能だろう!」

 

「アラン兄上、私の婚約者に失礼ではありませんか?」

 

「カミル!お前が何かしたんだろう!でなければ、俺が魔物如きに遅れを取るはずが無い!」

 

「兄上……兄上は魔物と戦ってもいなかったでしょう」

 

「な、何を言う!適材適所で、俺は現場で指揮をしていたんだ!」

 

「はぁ……では、指揮が……作戦がイマイチだったんですね。我が婚約者を無能と仰いましたが、その作戦を立てた人物こそが無能なのでは?」

 

「何だと!俺を馬鹿にするのか!?」

 

「僕は兄上が無能とは言ってませんよ?作戦を立てた人物が無能だと言っただけです。王子自ら作戦は立てないでしょう?計画を立てたとしても、その道のプロ……近衛騎士など、経験豊富な者達から助言を受け、最悪を想定して立てるのが計画ですからね」

 

「そ、そうだ!コイツらが全て悪い!俺は悪く無い!」

 

「「「「「……………………………………」」」」」

 

 近衛騎士達は、唖然として立ち尽くしている。命を賭けて守った人間に、全ての罪を着せられたのだから当然の反応だろうけども。

 

「サイラス殿、貴方はこれからどうするのです?」

 

 カミル殿下がサイラスに声を掛けた。アラン殿下と話をしても埒があかないと判断したのだろう。

 

「私は……カミル殿下がお許しくださるのであれば、ですが……」

 

 サイラス様が私の前に跪き、剣を捧げる仕草をした。

 

「今後、私の命は、カミル殿下の御婚約者様である、リオ=カミキ様に捧げる事を誓います。助けて頂いた命、貴女様のために使う事を許していただけるだろうか」

 

 私は驚いてカミルに視線を向ける。カミルはひとつ頷くと、サイラスに向き直った。

 

「良いだろう。リオにはまだ護衛騎士がいないからね。サイラスをリオの専属騎士に任命する」

 

「ありがたき幸せ!今後はリオ様のため、尽力する事をここに誓います」

 

 私は剣をサイラス様の肩に当て、私だけの騎士である事を認める。すると、他の元近衛騎士達も膝をついた。

 

「我々も、リオ=カミキ様にお仕えしたく存じます!」

 

「どうかお赦しを!」

 

「うーん、この人数は……さすがに陛下に確認を取らないと厳しいよ。サイラス、この者達の名前は分かるよね?」

 

「はっ!存じております」

 

「よし、それならリオの元に来る事を望んでいる者は、サイラスに名乗ってから一旦は解散して貰えるか?」

 

「「「「御意!!!」」」」

 

「な、何故……カミル!全部お前の策略だろうが!俺の近衛騎士を全て取り上げるなんて許さない!」

 

「殿下、我々は己の意思でアラン殿下の元から離れる事を決めました。カミル殿下は我々だけでは無く、国民も助けてくださったのです」

 

「はぁ?」

 

「アラン殿下、スタンピードで発生した魔物は全て、カミル殿下と魔導師団の者達が退治してくださりました。ですので魔物は城下で暴れる事も無く、無事殲滅されたのです!感謝する事はあれ、八つ当たりするのは筋違いでしょう!」

 

 サイラス様……八つ当たりって言っちゃってますよ?多分、不敬ですよ?まぁ、近衛騎士も辞めるみたいだし、問題無いのかしら?いや、不敬は不敬よね……?

 

 そんなどうでもいいような事を、ボーッと考えていたら、カミルが私の腰を抱いた。

 

「さて、リオ。スタンピードも落ち着いたし、陛下へ報告へ行こう。1000人以上回復したのだから、とても疲れてるだろうけど、もう少し頑張ってくれるかい?」

 

「えぇ、大丈夫よ。早く終わらせて、ゆっくり食事がしたいわ」

 

「あぁ、そうだったね。今日は慌しくて、昼食を抜いてしまったんだった」

 

 カミルとお喋りしながら倉庫を後にする。その後ろ姿をアラン殿下に睨まれている事には、全く気がつかなかったのだった。

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