第42話 陽気な爺さん ★デューク SIDE
昼食後の練習場。リオ殿は姿こそ見えないが、独特な魔力だからこそ居る事が分かる。彼女は稀有な『純白の魔力』持ちなので、魔導師の中でも長年訓練を受けた者なら『純白の魔力』を察知出来るのだ。
彼女は『旧練習場』で、隠密魔法で姿を隠し、消去魔法をかけた的に向かって超級攻撃魔法を凄い勢いでぶっ放してた。魔法を使えない者であっても、音で何が起こっているか分かるだろう。
何故防音膜を張らなかったのだろうか?まぁ、リオ殿の事だから、早く超級魔法を使いたくておざなりになっただけだろうな。
「ほぉ……。あの『めんこい』嬢ちゃん、エゲツないのぅ……」
師匠の持つ『賢者』のスキルは、隠密などの魔法で隠しているものなら、見えていない筈の姿を捉える事が出来るのだ。リオ殿の容姿もバッチリ見えているらしい。
「あれは初っ端から『天才型』かのぉ。集中力も威力も問題無いが、何故自分の魔力を使わんのだ?有り余っておるだろうに勿体無い……どれ、ワシの出番かのぉ」
師匠はリオ殿の隣に並んだ。リオ殿は集中すると全く周りが見えなくなるから気が付かない。
気づくまでに時間がかかるだろうと思ったのだが、師匠が一瞬……本当に、ほんの一瞬だけ殺気を放った。その瞬間に、リオ殿はバッ!と隣を向いた。さすがだが、ちょっと荒過ぎ無いか?女性に対して殺気を放つなんて……
「ご、ごきげんよう?」
リオ殿は瞬時に頭を切り替え、挨拶をして来た。
「初めましてだのぉ、お嬢ちゃん。近くで見てもめんこいのぉ。ワシは此奴とカミル殿下の師匠をしとるよ」
「お初にお目に掛かります。私はカミル殿下の婚約者でリオ=カミキと申します。お見知り置きくださいませ」
恐らくカーテシーを行ったのだろうが、隠密魔法のせいで私には見えていない。師匠はコクコクと頷いている。
「リオ殿、師匠がリオ殿とお話ししたいそうでお連れしましたが、お時間よろしいでしょうか?」
「はい、勿論です。魔法に関するお話を、沢山聞かせていただきたいですわ」
「うむうむ、良いぞ。嬢ちゃん、ワシが当分の間は教えてあげような。幾つか質問をするから、直感で答えてくれるかの?」
「はい、分かりました」
「先ずは1番気になったのが……嬢ちゃんは魔力が余っておるのに、何故大気魔力のみで魔法を使っておるのじゃ?」
「この世界に来た当初、私の魔力量は50でした。私の体内の魔力のみでは初級魔法でも数発しか放つ事が出来ず、大気魔力で補完する事を教わり、そのまま超級まで大気魔力で放てるので今のままで良いかなぁと……」
「なるほど……魔法は全属性持ちかのぉ?」
「はい」
「嬢ちゃん、加護を持っておるのぉ?」
「は、はい。分かるのですか?」
「いや、見ただけでは分からんよ。先ず、全属性持ちで『天才型』の無詠唱。そして最初の魔力量が少ないのは『女神の加護』を持っており、『女神の試練』を受ける資格がある者のみに有り得る現象だからじゃな」
「なるほど……?魔力量が少なかったのは、女神の加護持ちが受けるべき試練だったのですね。そして更には全属性持ちで最初から無詠唱だったから、加護を持ってる可能性が高くなり、女神様の加護持ちだと判断されたと……」
「うむ、その通りじゃ。嬢ちゃんは賢いのぉー。普通は魔力量が壊滅的だからと魔法に触れさえせず、周りも仕方ないと諦めてしまうから、加護持ちと気づけなかったり、発見が遅れたりするのだがなぁ……」
「お師匠様、お聞きしたい事があるのですが、お師匠様の質問が終わってからお時間いただけますか?」
「今でよい。こちらの聞きたかった事は大体分かったからの。さて、何が気になるのじゃ?」
「1つ目は……先程、超級闇の攻撃魔法を放っていたのですが、扱えているのか私では分からないのです」
「どれ、撃ってみなされ」
「はい!」
リオ殿が超級闇の攻撃魔法……――標的の内側から爆発させる魔法――を放つが、消去魔法の的に吸い込まれているようだった。
「うむ、使えておる。闇の消去魔法に向かって闇攻撃魔法を撃っておるから、吸収されて消えとるだけじゃよ」
「良かった!ありがとうございます!」
「全ての超級魔法は使えたのかのぉ?」
「はい。今の闇魔法が扱えているのであれば、全属性の超級魔法を使えた事になります」
「ふむ……それでまだ質問があるのかね?」
「はい。特級魔法の魔術書は無いとお聞きしておりますが、私には扱えないのでしょうか?」
「あぁ、特級は表現が難しくてのぉ。使える者も少ないし、犯罪に使える魔法もあるから危険過ぎると陛下が許可してくれなくてな……、作れんかったのじゃよ」
「え?特級は『作れなかった』?初級から超級までの魔術書は、お師匠様がお書きになられたのですか?」
「そうじゃよ。数百年前にワシが作製した魔術記録書を基に分かりやすい本にして、陛下がお配りになったのじゃ。この国の人間は魔力が強い者が多いのに、使える人間が少なかったでなぁ。懐かしいのぉ」
それは私も知らなかった事実だ……普段はおちゃらけているが、やはり師匠は凄いお方なんだよな。凄いって事すら忘れさせる行動を起こすけど……つい、遠い目になる。
「特級の魔法は、混合魔法でのぉ。例えば……初級の水魔法と火魔法を上手く混ぜればお湯が作れるじゃろ?」
「はい、理論上は作れると思います」
師匠が水球を出し、火魔法で温めてお湯を作って見せている。湯気が立ち、お湯になったのが分かった。
「それを難しくした感じだのぉ。超級同士を足したり、上級と超級を足した魔法が多いのでな。感覚で微調整する必要があるから本にするにしても、ちと曖昧でのぉ」
「なるほど……お師匠様は扱えるのですよね?私も練習してみたいです!」
「うむ、嬢ちゃんになら教えても大丈夫じゃろ。悪用する輩にはちと危険な魔法もあるのじゃ。嬢ちゃんは、魔法で出来るとしたら、何をやってみたいかのぉ?」
「空を飛んでみたいです!」
「ホッホッホ。ワシも昔は1番最初に浮遊魔法を使ってみたいと思ったものじゃ。だが、浮遊魔法は難易度が高いからの。着いて来れるかのぉ?」
「頑張ります!是非教えてください!」
「ホッホッ。良いじゃろう。ただ、それには条件があるのじゃが……」
師匠が神妙な面持ちで言うものだから、リオ殿が少し緊張しているようだ。毎度の事だが、師匠は突拍子もない事をいきなり言い出すからな。今回は何を言い出すのだろうか?
「ど、どのような条件なのでしょうか?」
「うむ。ワシの事は『爺ちゃん』と呼ばなきゃダメじゃ」
「「…………………………」」
確かに年齢で言えば爺さんなのだが、リオ殿に呼ばせるとは……まぁ、若く可憐なお嬢さんに『爺ちゃん』と可愛く呼んで欲しかったのだろうが…………
「ええっと……お爺様?」
「もっと砕けた感じでが良いのぉー」
「お爺ちゃま?」
「可愛いが、孫と祖父では無いからのぉー」
相変わらず我が儘だなぁ……リオ殿が真面目に困っているでは無いか。助け舟を出したいが……
「あぁ、そう言えば。リオ殿、カミル殿下は昔『爺や』と呼んでおられましたが……」
「爺や?」
「おぉ!それが良い!デク、お主もなかなかやるのぉー」
「師匠、私はデュークです。良い加減にちゃんと名前を呼んでくださいよ…………」
「大して変わらんじゃろうに」
「全く違いますから!」
いつもの様に押し問答をしていると、リオ殿に笑われてしまった。
「ふふっ。仲がよろしいのですね」
「まぁ、私と殿下が子供の頃からいらっしゃいますので……因みに、キースやクリスも師匠の弟子ですよ」
「あぁ、真面目くんと糸目のチャラ男じゃな」
「そして殿下は優等生と呼ばれていました……」
「あらまぁ!それは後でカミルにお話を聞きたいわね」
「皆にとっては黒歴史でもありますので……あまりエグらないであげてくださいね…………」
「それで、嬢ちゃん?もう質問は無いのかのぉ?」
「はい、現時点での疑問は解決しました。えっと、爺や……に特級を習う許可を、殿下にいただいてから、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「構わん構わん。時間があるなら、優等生の所へ一緒に行くかの?」
「はい!喜んでご一緒致します」
「不安なので、私も行きます…………」
カミル殿下の元へ行こうと言い出した割には動く気配が無い。何か確認したい事でもあるのだろう。昔から、考えてる時は動かない癖も変わらないなぁ……
「ふむ……確認したい事を確認してから行く方が良いかのぉ。取り敢えず、嬢ちゃん。『自分の魔力で』上級魔法を撃ってみてくれるかのぉ?」
「はい」
リオ殿はスッと手を的に向かって伸ばし、上級の攻撃魔法を全属性一気に撃ち出した。当たり前だが、大気魔力を使うより発動が速い。アレより更に速くなるって……ん?魔導師団の団長である私より数倍速い上に威力も倍近く上がって無いか?!
「うむ、やはりのぉ……無意識に、力を加減しておったようじゃな。魔力は一気に減った感じがするかの?」
「そうですね……一気にガツンと削られた感じがするぐらいに減りました」
「良いかの、嬢ちゃん。これから魔法を練習する時は、己の魔力量を確認しながら己の魔力のみで撃ちなさい。そうすれば、体が慣れた頃には消費魔力量も減り、威力もスピードも上がるからの。本来、大気魔力は己の魔力が足りない時に使う物じゃ。威力は落ちるがどうしても魔法を使わなければならない時だけにするのじゃぞ。体の魔力量が増加する速度も上がって、良い事だらけなのじゃからな」
「はい!分かりました!御指導ありがとうございます」
リオ殿の場合は既に、スピードも威力も魔力量も凄過ぎたから、基本的な事を忘れていたな……これは申し訳ない。目立ち過ぎないって事も大事ではあるのだが、基本としてちゃんと教えておくべきだっただろう。
恐らく、カミル殿下も同じ考えではあると思うが……師匠にはどうせ逆らえないのだから、結局はリオ殿最強説を有力にするだけなのだろうなぁ……
心の中でカミル殿下に愚痴を言われる事を覚悟しつつ、殿下の執務室に3人で向かうのだった。
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