第35話 男の意地 ★カミル SIDE

 予定通りに練習場へ足を運ぶ。魔導師団の連中が、練習装置で練習していた。デュークの言う通り、この装置は大人気のようだね。


「殿下!ようこそ!」


「殿下、お久しぶりです!」


「殿下も練習ですか?」


「とても良い訓練になりますよ!」


 皆、挨拶と感想を述べてくれる。魔導師団は小さい頃から来ていたから、馴染みの顔が多くて安心する。


「どれが初級?初級から順番に上級までやって見たいんだけど……」


「こちらです!」


 団員は笑顔で初級の練習装置の前に案内してくれた。装置は魔導師達が徹夜で作ったと言っていたねからね。自分達が作った装置をきっと色んな人に使って欲しいんだろうね。


「右の壁の赤い枠に魔法を当てると始まります!」


「ありがとう」


 早速、赤い枠に魔法を当てる。思ったよりゆっくりと枯れ草や丸太が飛んで来る。身体強化だけで良さそうだな。


 10分はあっという間だった。案外楽しいな。確かに、ただ打ち合ったりするよりは実践的で良いと思う。次は中級だ。やり方は一緒らしいので、早速始める。


 こちらもサクッと終わった。丸太のスピードや飛んで来方に強弱がついて、初級よりは確かに難しいかな。


 さて、次がデュークを困らせた上級だ。リオの普通、まぁ速い、それなりに速いって感想はアテにならないが、デュークは2番目のまぁ速いの段階で限界らしい。部下に格好つけたくて、1番速いのを夜中に練習してるらしい。何気に健気な男なんだよね。


「さぁ、リオの普通からやって見るかなぁ?」 


「殿下、リオ殿は身体強化のみ。魔力は纏わせずに余裕でクリアなさってます」


「それは僕への挑戦かい?」


「最速ですら、それでクリアなさってるので……」


「えぇ――。それって魔法使うとちょっとカッコ悪いじゃない……」


「えぇ、ですので進言いたしました」


 デュークはあからさまに笑いを堪えている。魔道師と剣士では、争う必要性が無いと思うのだが?


「分かった。身体強化のみでやって見よう」


 剣を構え、『普』の枠に魔法を当てる。おっと!思ったより……中級とは比べ物にならない速さだった。それでもついて行けないスピードでは無い。まだ余裕はあるから、『速』までは何とかなりそうだな。


 それにしても、10分は案外長く感じるな……中級ぐらいの速さなら、丁度良いと思えたが、スピードが速いから集中力が試される。気が抜けないのが良いね。『普』は余裕でクリア出来た。良かった……


 次は『速』だね。リオがまぁ速いというぐらいの速さを経験するのは楽しみだ。遅くは無いと思ってるのだろうからね。さっきのでも充分に普通の人には速いと思うけど……


 ビュッ!と凄い勢いで飛んで来る。おおぅ、これは10分が滅茶苦茶長く感じそうだ。前半はスピードに翻弄されるも、さすがに後半は慣れて来た。『最』をやるのが怖いのだが?身体強化のみでこれをクリア出来るリオが異常なんだろうけど。後半は少し余裕を残してクリアする事が出来た。


 さて、最難関の『最』だね……これをクリア出来れば、魔物は遅く感じるのでは?明日も練習しに来ようかな……取り敢えず、挑戦してみますか……


 ピッ!と、投げナイフでも飛んで来るかの様なスピードだね。この装置を作ったデュークが凄いな……出力はどうなってるのか気になるよ。速い速い!笑えるな!最初は1分だったんだってね。短いから10分にしてくれと頼んだらしい。


 5分近くで集中力が途切れそうになる。対応出来なくは無いが、これは疲れるな……確かに双剣なら手数が増えるから、多少楽なのだろうが……女の子がこのスピードで切り刻んでるのって凄いよね。もしかして、リオは僕より強いのでは?魔法だけでは無く、剣ですら。


 最後の1つを切り落とす。後ろからワーッと歓声が上がった。魔導師団の連中が集まっていたらしい。


「さすがですな、殿下……リオ殿の『最速』は如何でしたか?」


「速いよ、見りゃ分かるでしょ!5分ぐらいで集中力が危うくなったよ。あのタイマーは分かりやすくて良いね。自分の集中力が危うくなる時間を伸ばす基準になるよ」


「タイマーまで見る余裕があるのですか!?」


「え?その為のタイマーじゃ無いの?」


「いえ、そうなのですが……リオ殿に頼まれて設置したのですが、見れないだろうと思っていました……」


「リオは何歩も先を行ってるって事だね。恐らく、あれは自分のためじゃなくて、僕程度のレベルの人間に合わせて設置させたんだと思うよ。間違いなく、リオには必要無いだろうからね……」


「なるほど。殿下が仰ると、そんな気がします」


 相変わらずリオは凄いなーって事が分かっただけ良しとするか。もう少し練習したいが、少し休まないと集中出来る気がしない。


「デューク、明日も上級を練習しに来るよ」


「えぇ、構いませんが……殿下に練習は必要無さそうですが?」


「あのスピードに慣れておけば、魔物のスピードなんてたかが知れてるだろう?念には念を、だ。当日はリオも居るからね……反応出来る様になっておきたいんだ」


 リオは守られなくても大丈夫だとは分かっているが、やっぱり婚約者の僕が守ってあげたいんだよね。

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