第16話 王族の魔力 ★カミル SIDE

「リオ、ちょっといいかな?」


 コンコンと扉をノックすると、直ぐに中からリオが飛び出して来た。


「カミル、どうしたの?少し疲れてるみたいね。また疲労回復の魔法、かけようか?」


 嬉しそうにニコニコしながら手を引かれ、ソファへ一緒に座る。侍女がお茶とお菓子を出して部屋を退出したタイミングで防音結界を張った。


「もう、カミル。私も防音結界は張れるのよ?」


 口を尖らせて拗ねるリオは今日も可愛い。全属性のリオに防音結界を張るのは容易いだろうが、本来ならば、いくつもの魔法を同時に使うのは難しいのだ。


「疲労回復魔法をかけてくれるのだろう?同時に2つの魔法を操るのは難しいはずだよ?」


「え?物理防御結界を張ったまま、攻撃魔法を使うじゃない。回復魔法も使えたから、疲労回復も出来るわ」


「…………………………」


 相変わらず難易度の高い事を簡単にやって退けると言うリオは、規格外と言わざるを得ないだろうね。


「リオ、それも本来なら難しいんだよ」


「そうなのね……基準が良く分からないわ……」


「問題無いさ。リオの隣には、必ず僕がいるからね。不安なら何でも聞いてくれれば答えるから安心して?」


「うん。ありがとう、カミル。ここではカミルがいないと生きて行ける気がしないわ……」


「そんな、大袈裟な。リオは既に中級魔法も全属性使えるのだから、そこら辺の魔道師にすら負けないと思うよ?」


「力が強くても……生き残れるとは限らないわ。今はカミルに守られてるって分かるもの。悪意ある者からも守ってくれてるでしょう?」


 賢いリオは騙されてくれないだろう。コクンと頷いてリオと目を合わせる。


「僕が守れる場所でなら、ずっとリオを守り続けるよ。リオにはやりたい事を好きにやって過ごして欲しい。そんなリオを眺めるのが、僕の幸せだからね。遠慮なんてしないで?」


「ふふっ、ありがとう。私はとても幸せ者だわ」


 フワッと微笑むリオを抱き締めたくなる。婚約者になったのだから、それぐらいは良いのか?キスしたいって言ったら……リオは怒るだろうか?


 ついリオの唇を見つめてしまう。柔らかそうだなんて思っていたら、「カミル?」と呼ばれる。


「あ、あぁ、そうだった。ここに来た理由があるんだ。僕と魔力循環してみてくれないかな?リオの魔力に触れてみたいんだ」


「魔力循環?」


「訓練の1日目に、デュークから魔力を流して貰ったでしょう?それと同じで今度はリオが僕に魔力を流すんだ」


「分かったわ。ゆっくり流せば良いの?」


 リオの手が僕の手の上に重ねられる。僕の左手に魔力がゆっくりと流れて来る。


「もう少し多く流せるかい?」


「これくらい?」


 魔力を流す量を加減するリオは真剣な表情で、キリッとしていて格好良い。つい見惚れてしまって、循環させるのを忘れてしまった。


「カミル、大丈夫?」


 不安になってしまったリオは、僕から手を離して首を傾げている。


「大丈夫だよ、リオ。リオの魔力は暖かいんだね……って、あれ?僕の中にリオの魔力が……?」


 通常であれば、他人の魔力は体外に排出される。相容れない、別の物質だと体が理解するからだ。


「リオ、魔力は残ってる?」


「えぇ、もう自然に回復したわ」


「え!?早過ぎない?」


「もう……私は私が基準だから分からないわ」


「そうだよね、ごめんね?驚いただけなんだ。困らせたかった訳じゃない……」


「分かってるわ、カミル。私も怒ってないわよ?自分が普通じゃ無いとは理解してるんだけど、違う事が多過ぎて私もどうして良いのか分からないのよ」


 確かに基準が分からない以上は、比較する事ができないのだから悩むのは当たり前だろう。かと言って、全ての基準をひとつひとつ教えるのにも無理がある。召喚者が皆そうなのかは分からないが、僕達と違う事が多過ぎるのだ。


「うん、そうだよね。決して悪い事じゃないんだよ?僕が驚いた事の全ては、この国……この世界で素晴らしい事ばかりだ。ただ、僕の常識から大きく外れてるってだけで。良い方向に外れてるから、喜ぶべき驚きだよ。僕にその力があればって思うぐらい羨ましいものだからね?」


「ふふっ。ありがとう、カミル。えっと、それで?私はもう一度魔力循環させたらいいのかしら?」


「そうだね。もう一度確認したいかな。リオは自分の持つ魔力を半分だけ僕に流す事が出来る?流すというよりは『渡す』かな」


「半分……4000ぐらい渡すわね。さっきと同じで、巡らせなければ良いのよね?渡しっぱなしで」


「そうそう。恐らく、肩でも膝でも触れていれば渡せると思うから、違う場所から流してみたら?良い練習にはなりそうだよね」


「面白そうね!やってみるわ」


 リオは服越しに触れている膝と太ももの広い面積から魔力を流し始めた。


 凄いな……点で捉えて渡していた魔力を、面で渡すには感覚が全く違うだろうに。一度で成功させられるのは、イメージが完璧だからか。デュークが集中力だけでは無く、想像力も褒めてたのはこれの事かな?


 そして、あっという間に4000の魔力が渡される。リオの魔力は全く排出されずに僕の中で循環していた。


 リオの魔力は白じゃ無い。王族は金の魔力だ。白と金は反発はしなくても留まれない。という事は……古文書にあった、純白の魔力……白く輝く魔力だろう。


 また新たな発見だ。王族の魔力は貴族の魔力より強力で、同じ初級魔法でも威力が違う。産まれた時の魔力量から違い、僕の魔力量は現時点で3万を軽く超える。昼に水の上級魔法、幻影魔法を使う事で1万以上の魔力を消費していた。自然回復出来なかった魔力を、リオの魔力が満たしたのだ。


 これは『魔力譲渡』だね。古文書を読んで知識としてはあったが、王族の魔力に匹敵する上位魔力を持つ者はこれまで現れていないと記されていた。上級貴族の一部では使われた記録があったが、王族では初めてだろう。


「ありがとう、リオ。知りたい事は確認出来たよ。これから僕が説明する事は、誰にも言わず秘密に……」


「えぇ、分かってるわ。私の事は自分からは何も言わない事にしたから安心して。国王陛下に聞かれたら答えるしか無いんでしょうけど?」


「その通りだよ。この国で僕より偉いのは国王陛下のみだからね。王位継承権第一位の僕を蹴落とそうと、虎視眈々と狙っている人間も多い。だからリオが天才的な魔道師としての才能がある事も、悪い事に使えてしまう人物鑑定スキルを持ってる事も隠したいんだ」


「私を守ろうとしてくれてるのね」


 僕を見上げて微笑むリオが愛おしくて……上部だけ繕うために騙したくは無くて、ちゃんと説明して分かってもらう道を選んだ僕は間違いじゃないと確信した。それにリオは賢い。理由を知った上での方が、突飛なアイディアも出してくれそうだと感じたのだ。


「うん、全力で守りたい。だからリオにもちゃんと僕の考えを理解して貰った上で、これからの事も一緒に考えて行こうと思うんだけど……」


「嬉しいわ!カミル。知らないって怖いのよ。この世界の事に対して私は無知でしょう?一方的に守って貰える事も嬉しいんだけど、一緒に次の行動を考えたり準備したりと、考えを共有してくれる方が安心できるわ」


 キラキラしている瞳を見つめ、頭を撫でる。自然に腰に手を伸ばして逆手で肩を抱き、額にキスを落とした。


「か、カミル!」


「僕の愛しいリオ……困難な出来事も、一緒に乗り越えて行こうね。大好きだよ、心から愛してる」


 リオの頬にキスを落とす。真っ赤に耳まで染めたリオが愛おしく、ギュッと抱きしめた。


「わ、私も……カミルの事が好きになっちゃったみたい……」


 蚊の鳴くような小さな声で告白される。抱きしめていたから、耳元で囁かれた声もしっかり聞こえている。


「あぁ!本当に!?嬉しいよ、リオ!愛してる。これからもずっと一緒にいて欲しいんだ。必ず幸せにして見せる!愛してるよ」


 リオの顎に手をあて上を向かせる。そっと触れるだけのキスを落とした。耳まで赤くして、ぽぉーっとしてるリオが可愛くて、再度触れるだけのキスを落とす。


 なんて幸せなんだ!リオからも言って貰えるなんて!ただ、今は僕しか頼れる人がいないのもあるのだろうか……リオは綺麗で可愛いからね。現にデュークやキースも気に入ってるみたいだし。色んな物からリオを守らなきゃならないな。この幸せを絶対に手放す気は無いからね。

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