第17話 魔力の差 ★デューク SIDE

 まさかの展開だな……カミル殿下がリオ殿の腰を抱いて練習場に現れたのだ。昨日までの2人の距離感が友人だとすれば、今日は浮かれた恋人だろう。


 昨晩報告を受けた『純白の魔力』が関係してるのか?それともあれか?手を取り合って魔力循環したから距離が近づいたとか?全く触れ合って来なかった反動から爆発したのだろうか?もしかしたら殿下がムッツリだっただけとか……


 心の中で失礼な事を呟きつつも、どうしていいか分からず、とりあえず見て見ぬフリをする事にした。


「カミル殿下、リオ殿、お待ちしておりました」


「デューク様、こんにちは。今日もよろしくお願いします」


「デューク、よろしく頼むよ」


 殿下がリオ殿の腰に手を回してる事以外、何も変わらない対応に、何故だかドギマギする。触れた方が良い内容なのか?そもそも触れて良い内容なのか?分からん……上級魔法の練習が先だよな?うむ、このままスルーしよう。私は何も見なかった!


 気持ちの整理が出来たところで、姿を見えなくする水の上級魔法を殿下が張り終えた。


「では、今日は中級のおさらいをしてから上級を使って見ようか?」


「あぁ、その事なんだが……デューク、僕とリオが同時に中級魔法を放つから、威力を見てくれないか?」


「ん?何か気になるのか?」


「あぁ、王族の魔力は貴族より威力が高いだろう?王族の僕に『魔力譲渡』が出来るリオの魔力の威力が気になるんだ」


「ふむ、確かに気になるな。知っておいた方が良さそうだし、正確に知るためにも威力測定器を使うか?」


「いや、証拠が残るのは不都合だ。デュークなら大体分かるだろう?多少の誤差は問題ない。威力が近いかを知りたいだけだからな」


「ふむ、貴族と王族の威力の差は見れば分かるからな。リオ殿の威力がどちら寄りかで判断するか」


 殿下とリオ殿が的に向かって手を伸ばす。


「先ずは水、そして火、最後が風で。私が「水」と言ったら3秒後に放ってください」


 2人ともコクンと頷く。


「水」


 リオ殿の伸ばした手の先に薄い青色の魔力が集まり、きっちり3秒後に放たれた。殿下も「中級、水」と唱える。殿下は魔法の名称を覚えるのが面倒だと、幼い頃から等級と属性を唱える事でイメージを作っているのだ。


 ほぼ同時に放たれた水魔法は比べるまでも無かった。たった1発で確認できるレベルだ。


「デューク……」


「殿下……見比べると一目瞭然だな……」


 唖然と的を見つめながら会話する。スピードも威力もリオ殿の方が段違いで強いのだ。


「中級を使えるか、使えないかで見ていたから気がつかなかったのだろうが……」


「ポンポンと連続で放ってたしね。驚く事が多過ぎて、そちらに気を取られたのもあるかな。それにしても、ここまで差があるとは思わなかったよ」


 苦笑いする殿下に同意して頷く。デュルギス王国の王族の魔力は他国と比べるまでもなく強い。だからこそ、隣国の姫がデュルギス王国の王子達にこぞって求婚しに来ていた。強い魔力の血を取り入れたいのだろう。


 まぁ、魔物の大量発生がデュルギス王国で起こると予言されてからはそれも落ち着いているが。


 圧倒的な差を見せつけられた私と殿下の会話を困った顔で見ているリオ殿は、いつもの事だと自己完結したようだ。


 殿下の方をチラチラと見て落ち着きがない。上級魔法を使いたくてうずうずしているのだろう。それに気付いた殿下が促す。


「リオ、上級を全属性放てるか確認してみてごらん」


 殿下の言葉にパァっと笑顔になると、スッと目を細め、的を見つめる。相変わらず集中するまでが早い。手を伸ばしたタイミングで上級水魔法を放っていた。


「無詠唱である事には慣れたつもりだったが……大気魔力を集めるのにも時間掛かって無いよな?貴族どころか、魔導師達ですら、大気魔力を使っているとは直ぐに気づくまい……」


「ねぇ、デューク。アレ、上級魔法だよね?中級より早くないかい?」


「上級は元々、中級よりも威力が高いからだな。スピードも威力も申し分ない。魔法の発動も、更に早くなるだろうな」


「だね……3日目でコレだもんね。全て1発でクリアするとはねぇ……ほら、全属性試し終わって集中力MAXだから物凄い勢いで連射し始めたよ……」


 上級を打ち始めてから10分程度だろうか。残りの時間我々が出来る事は、殿下が水の上級魔法で姿を見せなくするぐらいで。周りの音すら既に聞こえていないだろう。

 

放つのは上級の攻撃魔法のみ。回復魔法もたまに発動させているが、部屋でも出来ると考えているのだろうな......


 ⭐︎⭐︎⭐︎


 あれから上級魔法を打ち込んで2時間経過。リオ殿は疲れを一切見せない。いや、疲れて無いのか。何度も休憩しないかと声を掛けたが反応が無い。魔法を発動するスピードも、初級魔法を放っているかのようだ……


「デューク、そろそろ終わらせようか」


「ここまで集中されると話し掛けるタイミングが難しいんだよな……」


「んー、確かにそうだね。先に今後の予定を立てようか。上級魔法までクリアしたが、超級や特級までやらせるのは控えようと思う。一旦は座学で応用を学ぶのも良いだろうし」


「私も少し魔法から離れた方が良いと思う。超級は回復魔法ぐらいなら目立たないが、攻撃魔法は使えたとしてもあの威力じゃ、練習場を破壊しそうだしな」


「あぁ、超級ですらポンポンと連射していそうだよね」


 2人して苦笑いし、チラリとリオ殿を伺う。


「明日からは応接室で?」


「いや、僕の執務室で。リオは学園に行かないから、下手にウロウロしてると目立つだろう?昼食を執務室で一緒にとると見せかけようかと」


「それが無難だろうな。リオ殿は穏やかに話すから、仕事の邪魔にはならないだろうし、今後は殿下の執務室が良さそうだ」


 翌日の予定も決めてから、リオ殿に声を掛かるも全く気がつかない。カミル殿下はわざとリオ殿の耳元で、「リオ、愛してるよ」と囁かれた。


 ピタッ!と魔法を撃つ手が止まって、耳まで真っ赤になったリオ殿が顔を両手で押さえたタイミングで、殿下がリオ殿の腰に手を回し、何か耳元で囁きながら帰って行く。


 とっても羨ましい!が、しかし、リオ殿の魔法にも興味がある。他人のイチャイチャを見ていても虚しいだけだからな。私は明日の座学の為の資料でも集めようと思う。

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