【Day 6 呼吸】
「つ、疲れた……」
職場での昼休み、社員用の休憩室で茜は机に突っ伏していた。隣の席では先輩が昼食を摂りながら苦笑している。
「お疲れ様。あのお客さんは酷かったねぇ」
「話題のカスハラってやつだなーって、内心毒づきながら対応してました」
「うんうん。あれは明らかにカスタマーハラスメントだね。助けに入るのが遅くなっちゃって、ごめんね。店長がなかなか見つからなくて」
「いえいえ。私一人ではどうにもならなかったので。店長呼んでもらえてありがたかったです」
茜は無理矢理、笑顔を貼り付ける。あのクレーマーのおかげで、心身ともにだいぶ削られている。しかし、午後のシフトに穴を空けるわけにはいかない。これも接客業の宿命だ。憤りを飲み込む。
食欲はなかったが、食べなければこの後が保たないだろう。朝、コンビニで買っておいたお弁当をなんとか食べきった。
「茜ちゃん。呼吸、ちゃんとしてね。息が浅くなってるよ」
心配そうな表情の先輩に言われて、そこで初めて茜は気がついた。確かに、息が浅くなっている。頭がボーッとしていたが、暑さのせいだと気に留めていなかった。これって、酸素が足りていないのかも。
「ありがとうございます。深呼吸してから午後のシフト入りますね」
◇◇◇
気遣ってくれた先輩の言葉が、心の片隅に残っていた。茜は帰宅してからも、時折、ゆっくりと深呼吸してみた。深呼吸すると、頭の中が少しクリアになる感覚があった。無意識の呼吸では酸素が足りていなかったんだ、と自覚する。
夕食やお風呂などを済ませて、明日へ疲労感を残さないよう早めに寝ることにした。ゆったりしたテンポの好きな音楽をかけて、ベッドの中へ入ってからも深呼吸をしてみる。昼間の嫌な出来事は、なるべく意識の奥底の方へ追いやった。
あ、いつもより瞼が重い。
深く眠れそうな予感があって、流れに身を任せるように、茜は眠りについたのだった。
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