【Day 4 アクアリウム】

 数日前から始めたスマホのアクアリウムゲームに、すっかりハマってしまった。

 茜が住んでいるアパートはペット不可だし、そもそも水槽を置く場所もない。観賞魚に興味はあるが、自宅で飼育するのはハードルが高かった。


 近いうちに水族館へ行こうかな。友人へ声をかけて一緒に行くのも楽しそうだけれど、今の自分は気に入った水槽の前で、じーっと、果てしなく眺めてしまいそうだ。だったら、おひとりさまで満喫するのもいいかもしれない。

 帰りの電車内で次の休日を妄想していると、口元がニヤけてしまいそうだった。暑さに耐えつつマスクをしていて良かった。これならバレない。


 最寄り駅で電車を降りて、駅ビルで買い物を済ませる。下りのエスカレーターへ乗る前に、何気なくフロアガイドを眺めていると、屋上フロアにペットショップがあることに気がついた。……もしかして、観賞魚もいるだろうか?

 先ほど買ったのはキッチン用品だし、傷むような食材ではない。じゃあ、少しだけ寄り道だ。


 屋上には小さな庭園とイベント用のステージやベンチなどがあった。その片隅に、ペットショップもあった。店内に入ってすぐ、一番目立つ場所には子犬や子猫がいる。そこを通り過ぎて観賞魚のコーナーがないかと探すと……あった。

 店の奥に、ひっそりと、観賞魚たちの水槽があった。スマホゲームで覚えた魚たちも何種類かいた。本物はやっぱりいいなぁ、と茜は癒される。ただ、自宅で飼育するのは現実的ではないな、と改めて感じた。水槽の置き場所だけではない。魚とはいえ相手は生き物だ。飼うとなれば、毎日のお世話はかかせない。引越ししてまだ一ヶ月半。自分の世話だけで手一杯である。


 今の茜は、明らかに冷やかしではあるのだが、店員も慣れているのだろう。しばらく水槽を眺めていても、何も言われなかった。

 仕事帰りで体力的には疲れていたが、メンタルは元気になった気がする。本物のアクアリウムって良いなぁ。癒された茜は満足すると、足取り軽く帰路に着いた。

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