第二・五話 閑話 画して世は凡て事もなし
あれ(サッカーボール事件)から
俺の日常にこれといった変化は見られない。
クラスのカーストトップ3との間にも進展などありようもない。
ただ、その間、3つの出来事があったので記しておこう。
あの事件から一週間ほど経ったある日。俺は保険医の
「まあ、なんだ……大した怪我でもなかったが一日入院したのでな、まあ、始末書だ……読んで間違いがなければサインしてくれ」
差しだされたバインダーに挟まれた用紙のタイプされた文章を目で追って(小綺麗に
その隣に媛乃木のサインがあって、綺麗な楷書体に驚いた。
考えてみれば彼女の『書き文字』を目にしたのは初めてだった。美人は『書き文字』まで美人なのだと納得だ。
バインダーごと始末書を返すと嘉藤先生が訊いてきた。
「三人の誰が本命なんだ?」
「はいぃ?…彼女たちはただのクラスメイトですが?」
「それにしては仲良さげだったぞ?」
「……昼に弁当を一緒に食べる以外に接点なんかありませんよ?」
俺が言わなくても良い事を口にすると保険医が我が意を得たりと話しだした。
「成るほど、それで恨みを買ったか……わたしの情報網によるとあのサッカーボールをお前に蹴ったのはハク…とかいうイケメンらしいぞっ!」
(そうだったのか、
俺が黙っていると保険医が続けた。
「やはり媛乃木か?…学園一の美少女だしな」
「…………」
「それとも川俣か?…あのスレンダー美少女も捨てがたいよな?…彼女の筋肉は美しい……身体測定の時は見惚れたぞっ!」
コイツ、大丈夫か?
「なんだ?…やはりおっぱいか?…おっぱいなんだな?…サイズ知りたいか?」
「99cmのHカップですよね」
「何で知ってる?…揉んだのか?…そうか、揉んだんだな?」
俺はこれ以上ここに居るのはヤバいと判断して早々に保健室を辞したのだった。
そう、そのおっぱいだ。
何故だか判らないが、朝に俺が先に教室に居ると
何でもあの保健室で俺に圧し掛かったのが気持ち良かったらしい。
いや、朝は下半身に血の巡りが良いので『99cm、Hカップ』の至宝のおこぼれは勘弁なんだがっ!
しかし、俺が嫌がっていると、前の方の席から媛乃木が睨んでくるんだが、何故だ?
3つ目は
ある日の現国の授業の時だ。担当教諭が入室すると川俣が立ちあがって言った。
「先生ーっ!……教科書忘れたので只野に見せて貰いま~す」
「机をくっつけるのは良いが、後ろの席だからと不純異性交遊をしたら廊下に立たせるからなっ!」
色々突っ込みたかったが、何故か前の方の席から媛乃木が睨んでくるのが不可解だ。
それでも机をくっつけて中間に教科書を置くと、川俣はそれを立てて、その前にノートを広げた。
[その後、どうだ?
覗き見ると一行書かれた箇所を、とん、とん、と叩いてシャープペンシルを置いた。
筆談がしたいらしい。
[どう、とは?
[姫の事だ
[だから?
[進展したか?
イミフである。俺が返事を書かないと、川俣が続けて書いた。
[間接キスも済んだ
[はいぃ?
[お前の食べ掛けの卵焼きを姫が食べて、姫の食べ掛けのピーマンをお前が食べた
まあ、百歩譲って『間接キス』だとして、だから何だ?
俺が、顔を
[本キスも済ませた
「いや、いつだよっ!」
思わず口にだしていた。
教諭に睨まれてノートに向かう。
[いつだよ?
[保健室だ
(た、確かにあれは際どかった……触れる寸前だった……桜の蕾みたいなのが……ふ、ふ、触れ……いや、あれは桜の蕾だ……く、唇じゃ、ない!)
[LINEの交換は続けてるか?
あの犯人はお前かーっ!
[入院した時、一度貰ったキリだ
[返事はしたよな?
いや、返事をだしてない。『❤』のスタンプに興奮して、そのままだった。
[忘れていた
[いまからだせ!
「無理っ!」
「只野ーっ!…何が無理だって?」
「先生、トイレ行ってきて良いですか?」
「何、女子みたいなコト言ってるか~、我慢しろ~っ!」
なんちゅーセンコーだ!
まあ、みんなに注目されたので『筆談』が中止になった。
結果オーライだろうか。
そんなこんなで、モブは今日も平々凡々な日々を送る。
―― 画して世は凡て事もなし。
【つづく】
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