第4話 Copycat
耳に響くアラームの音が部屋に響く。
重い瞼を開け、アラームを止めようと周囲を探すが、スマホはどこにも見当たらない。
枕や布団を捲りながら探している間に音はすっかり止み、静寂が訪れた。
「…………あれ……?」
ついさっきまでいた外とは打って変わって、あたしがいたのは部屋の中だった。
「今まで見ていた夢が、早苗さんの言ってた……現」
いつのまにかスッと記憶から消えるはずの夢の内容は、しっかりと頭の中に焼き付けられていた。
しかも、焼き付けられていたのは内容だけじゃない。
聞いてくれたお客さんの顔も、
「真っ赤に染まる歌声……すごくよかった、かぁ」
へへへ……。憧れの存在に夢だったとはいえ、褒められるなんて…………。
「ちょっと葉塚!!遅れるわよ!」
母親の声が聞こえ、時計を見ると時刻は8時を超えていた。
通っている大学は近いのだが、準備に時間がかかってしまうので
早めに用意をしなければいけない。
「あっ!ヤバっ……」
もう一度、布団に潜って夢の続きが見たいと思いながらリビングへ向かった。
◇
大学の授業も終わり、13時過ぎ。
家には帰らず、そのままアルバイト先へ向かう。
路上ライブに使う機材は、全て早苗さんが用意してくれているのだ。
機材達は数年前まで使っていた人がいたらしいが、詳しくは知らない。
「早苗さん、お疲れ様です!」
「あぁ、大月ちゃん。今日もライブやるんだろ?用意はできてるよ」
ランチの時間帯は普通のお店なら混むのだが、
夜の方が来てくれるお客さんが多い、不思議なお店。
「お忙しいのに、わざわざありがとうございます」
「今日も閑古鳥が鳴いてて、やることがなかったからねぇ」
「ア、ハハ……」
どう返そうかと迷っていると、お店の隅から声が聞こえてきた。
「ちょっとちょっと。今日は
テーブル席に座っている1人の女性。
その姿は現の世界で見た憧れの人物と、全く同じ姿だった。
「え、え……え!!?あれ、ここも夢!?」
「……ここはちゃんと現実だよ。現から覚めた後、あなたが気になって会いに来たの」
「あぁ、そういえばあんたがいたの忘れてたよ」
「もう歳なんじゃない?
「アタシは孫のあんたより、長生きするつもりだけどねぇ」
孫!?ま、待って。情報量が多すぎる……。
Diverのお姉さんが、早苗さんのお孫さん!?
初めて聞いたけど!?!!
「早苗さん!なんで今まで教えてくれなかったんですか!!」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「……そんな話はなんだっていいよ。ねぇ、今から歌いにいくんでしょ?」
「そうですけど……」
「なら――ほら、歌いにいくよ」
置いてある荷物を全て持って、店の外へ出て行ってしまった。
急展開すぎて頭が追いついていないが、やるしかない。
大丈夫。現でやった時と同じようにやれば、きっと……。大丈夫。
◇
いつもの時間とは違う広場前。
平日のお昼過ぎと言うのもあって、人通りは全くと言っていいほどない。
普通の人なら、わざわざここで路上ライブをしようとは思わないはずだ。
でも、あたしは今から目の前のお客さんのために歌う。
たった1人なのに、プレッシャーを感じる。
「フーーッ。現の感覚を思い出せ…………」
夢の始まりを思い出せ。
あの時のドキドキを掘り起こすんだ。
Diverの歌声を、頭の中に響かせるんだ。
そう念じながら、歌い始めたが……。
(あれ……上手く歌えない。)
喉に何かが引っかかっているような感覚に加え、足が生まれたての子鹿のように震えている。
緊張のせいだろうか。
(……どうして!?現では、いつも以上に歌えていたのに!)
あの時の歌声は、嘘だったんだろうか。
次第に聞こえる音が、激しく脈打つ心音しか聞こえなくなっていた。
「……やっぱり、そうなっちゃうか」
そんな調子で、アタシは歌い続けた。
……結果は聞くまでもない。
真っ白になった頭の中で、上手く歌えなかった理由をずっと探していた。
◇
「さっきの歌……どうでしたか?」
「……今の歌からは、現でみた時と違って……何にも見えなかった」
「ですよね……」
「――ねぇ。あなたにとって、歌う理由って何?」
「……ぇっ……えっと……」
歌う理由、あたしにとっての歌は――
でも、現で歌っていた時は…………。
「多分だけど、あなたは――――
「…………っ!」
「だから、今のあなたに必要なのは
「あたしらしさ…………って――――」
いや。これを聞いても、答えを知っているはずがない。
だって自分のことは、自分が1番知ってるんだから。
「……いえ、なんでもないです。わざわざあたしの歌を聴いてくれて、ありがとうございました……」
その後のことは、あまり覚えていない。
あまりにも衝撃だったから、だと思う。
気がつくと、いつのまにか家に帰っていた。
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