第25話 邂逅 Part 2

 ドラム缶風呂というのは川の側にひとつしか用意してなかったし、火を炊く必要がある。煙も上がる。


 できるだけ夜遅く、皆が寝静まった頃合いを見計って、クロエをそっと連れ出し入れてやらなければ見つかってしまうだろう。


 クロエは外に出ると、寝起きの不機嫌さから打って変わり、喜んではしゃぎ回った。

 疲れということを知らないかのように、どこまでも走り続けて追いかけるのが大変だった。


 クロエだって、はっふーんとお湯に浸かる気持ち良さが気に入っていた。


 風呂の用意をしてれば戻って来るだろうと水を入れ替えようとして、ギョっとした!


 なんと、ドラム缶風呂の中には何者かが既に潜んでいたのだ……。だ、誰だ!? デーモンの生き残り!?


 暗いので何気にしかわからないが、人間ではないのはわかった。

 幾つも触手を持ち、それが不気味に蠢いていた。

 その者もこちらに気がついて驚くべきことを言った。


「あ、タマキじゃん。あたしよあたし。あんたのお姉さまのアコよ」


 えええ!?

 そう言ったのは下半身がタコのクトゥルフ女子……テクノの嫁の。


「あたしね今は、カナロって名乗ってるの。カナ姉さまよ。今後ともよろしく……」


「は、はあ……」


「あんたってさ、オバケが怖くてひとりで寝れなくてさ、一緒に寝てあげてたじゃん。今は大丈夫なの? また一緒に寝る? あたしのおっぱいも触りたいんでしょ? あんたおっぱい星人だし」


「あ、いや、ま、まま間に合ってます……てか、クローン女子って記憶までは再生しないんじゃ?」


「んー、クローンにもよってそれぞれなんじゃない? 他の子はそうでもないみたいだけど。あたしだけかしら? そもサマエルによってさ、ゲノムが書き換えられたりとかの影響? 違うパターンの人格になっちゃったりもしてるわね。あたしも再生された直後はまだ完全には記憶は引き継がれてなかったな。すぐ蘇ってきたけどね」


 クトゥルフ女子、もといアコお姉……いや現・カナロは一呼吸置いて続けた。


「まぁ、今のあたしってば、男とするのってちょっと問題があるでしょ? クローンで再生されたばかりの頃にテクノくんがそう説明してたのも覚えてるわ。まだ記憶が引き継がれてなかった頃でもね」


 このままドラム缶に居座られたらどうしよう? クロエをお風呂に入れてやりたいのだが……。

 そう思いつつ、おれは背筋を凍らせ股間をガードするように押さえていた。


「タマキって今、幸せ?」


「えっ……いや、わからんな。お姉は?」


「まぁ、こうしてドラム缶という穴の中に入って過ごすのも悪くないかな。あたしって男好きの陽キャだったじゃん。だからこんなさ、引き篭もり生活も案外楽しい。あはは」


 はあ? タコの習性だろうか? 


「えと……これからドラム缶風呂使いたいくて……。できたら、学校の掃除用具入れにでも移動してくれると助かるんだけど?」


「ふうん……。色んな穴の中で引き篭もるのも悪くないわね。もっと居心地良いところあるかもだしさ」


 そう言って姉さんは去って行った……。


「ああん、あたしって陸の移動得意じゃなくなったのよね……触手が荒れちゃう」

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