第19話 ひらめきトゥモロー

 おれは無邪気な表情を浮かべているクロエに向かって言った。


「……つくづくお姉には本当に申し訳ないことをした。充分反省している。……下半身はどうにも反応してしまうかもだが」


「あば」


「犯罪者がよく使う便利な言葉をおれも使いたい。つい魔が刺したと。……いや、しかし睡眠薬をこっそりというのは計画的な犯行であって、酌量の余地なしかも。睡眠薬だけじゃなく、しっかりゴムまで用意してたもんな……」


「あば」


「バレたらマジ、おれが嫁に貰って責任取る必要があると思ってた……初めて洗いざらい、他人にぶちまけたよ。この変わり果てたアフター世紀で、ようやく姉に対する罪から解放され目の前が開かれたと……。開かれたと思いきや……」


 おれは改めて、目の前に座るクローン女子に向きなおった。


「アコお姉、まさかな。こんなカタチでまた再会してしまうとはな……」


 そう言っておれは、頭を抱えた。

 

「いや、アコお姉のクローンであって、記憶は無いのだから、やっぱり姿が同じというだけで、別人のクロエだよな」

 髪や目の色も違うし。


「…………はてさて、これからどうすりゃあ良いのか。今度はゴムがないんだぞ! まさか、マジ嫁にするというわけにもいかんし。生涯独身かよ。これがおれの贖罪なのか……」 


 この楽園には、アダムにとってのイヴが不在なばかりかヘブライの伝承のように、アダムと再会すると、共にたくさんのデーモンを産んだとされる最初の妻リリスならいたということか…………。


 クロエは既に眠っていた。なにせ誕生したばかりだ。

 グズって泣いてはあやしたり、本能的に母親を求めてるのか、おれの乳首を吸いながらじゃないと寝付いてくれなかった。

 乳首を吸われることにはかなり抵抗があったが、心が赤子な相手とあっては拒めなかった。

 心が赤子であっても15歳の肉体を持ったものに乳首を吸い付かれるというのは……かなりの力でくすぐったく耐え難かった。


 ああ、おれはこれから……そんなことを思い、乳首に送り込まれる刺激に耐えたりしつつ、おれも眠りに落ちていった。


「……お前とエロいことしなければならない運命なのだろうか? やっぱりなんか虚しいやら、抵抗あるやらで……とほほ……」



 *



 ――いや、まて……。



「──このまともなアコお姉、いやクロエを更にクローン培養、再生し、皆に分け与えれば、凄惨な血みどろの奪い合いにもならないばかりか、ヤツらとクロエとの間に娘だって生まれる可能性が! その娘と結ばれる方がなんぼかマシ、血とタブーの意識は薄くなるというものだ。……14年ほどは待たねばならないが」


 おれは浅い眠りの中で浮かんだ名案と共に、飛び起きた。

 まだ夜明け前だった。


「そうだ、そうしよう! おれ天才かよ! やっぱり独身はヤダもんな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る