第18話 生める子はヒルコ

 クロエに視線をやるのがどうも恥ずかしいが、おれは続けた。


「キリストの場合は処女受胎って言うな。処女である聖母マリアから生まれた――配偶者、男なしで生まれたってことは、配偶子の精子と卵子というのは受精して初めて同数染色体となるわけだからして、本来ヒトの染色体は46あるが、キリストってのは卵子だけがそのまま細胞分裂して産まれたという驚きの人間とか。半数の23しか無かったってことになる。まぁ、そんな神って世界のあちこちに他にもいそうだが」


「あばあば」


「しかも……あれ? 考えてみれば……子どもというのは、それぞれ父と母からひとつずつ性染色体を受け継ぐわけで……。母はXXで、X染色体しか受け継がないが、父はXYなのでそのどちらか。Y染色体を受け継ぐと男となるわけだ。キリストの場合、その父親なしで生まれたというのは、Y染色体を受け継いでおらず、そも女なんじゃ? てかふつうに考えてもマリアのクローンだろ。単細胞生物でもないトカゲでもメスだけで子どもをつくれる種もいたが、人間でもそれって……」


「あば」


「何か、古事記の生まれそこなった異形の謎い神、ヒルコを思わせるな……。然れども、くみどに興して、生みたまひきみこ水蛭子ひるここの子は葦船にいれて、流してき。だったか?」


「あば」


「古事記が書かれた頃とか、昔々は海外もドイツかどうかわからんけど『白雪姫と七人の小人』ってなんだよ? 奇形が生まれたら川に流す森に捨てるなどは珍しいことでもなかったのかもしれん。奇形でなくても口減くちべらしのために……なんてこともあったから尚更か」


「あばうま」


「七人の小人もキジムナーも男だよな。女の子の場合は、ヘンタイの金持ちに売り子姫で需要があったとか。まぁ、ともかく神々は近親婚の末に沢山のお馴染みの異形を生んだのかもしれないな」


 クロエは誕生してまだ間もないというのに、その割には落ち着きがあり、大人しくおれの話を聞いてるようだった。


「おれが姉にしたことは立派に……近親相姦。バレた場合は責任取らねばということで近親婚とか……。それって奇形が生まれやすいって聞くけど、キリストよりかは、まだまともな子が生まれるかもしれんが……」

  

 ……嫌悪の表情を浮かべやしないか、いや、そんなことはないとは分かるのだが、何かどうも不安だ。

 見た目は同年代の女子なんだし。

 クロエの表情を伺いつつ、おれは話のシメに入った。

   

「近親婚で子どもを作った場合、劣勢遺伝子が継がれてしまう可能性、そんな問題もある。と言っても通常は継がれ難い遺伝子というだけで、奇形が生まれるだとかデメリットばかりでもなく、競走馬のように突出して優秀な子が生まれる可能性もあるとか――もっともヒルコのような子だって生まれてしまう諸刃の剣なのだが」


「あばうまうま」

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