第14話 ビーナスの爆誕(後編)

 サイトーの相手は、デカい玉子型の物体だった。


 なんだこれ? と思っているとパンチロが言った。


「あ、あれやん、ダン・オバノンとか言う監督の映画『エーリアン』のや。思い出したで! 中からフェイスブックハンガーとか言うん飛び出してきよるで! 人間に襲いかかって、顔面を拘束してやな、口の中にチンコみたいなん強引に突っ込んでくんねん。エーリアンの幼体を寄生させるためや! ──更にあの卵の大きさからして、もっとえらいなプロメテウス級のデカブツやぞ!」


 慌てておれたちは10メートルくらいはその物体から距離を置いた。


 暫く様子を見ているとバリバリという音と共にその物体が揺れ出した。

 どうやら中から何かが出て来そうな気配だった。

「や、ヤバいのん出で来よるで! ぶっ殺しといた方がええかもや」


 ところが徐々に姿を現したそれは、美しいマッパの女子だった。

 だが、背には大きな花のつぼみの様なものが二つ対に生えていた。

 何だろうと見ていると段々とその蕾を広げてゆく。 


 どうやら水気を抜き乾燥させてるらしい。次第に大きく広げゆくそれは、昆虫の羽根だった。


「羽化したようです」

 卵ではなくまゆだったようだ。中でサナギになっていたのだろう。


 一見妖精のように見えなくもなかった。


「うぉ、うぉれの嫁、うぉれの嫁ぇぇぇ……リアルわわ『わからせメモリアル』するううう!!」

 サイトーはブツブツ言い出したかと思うと「萌えぇぇぇッ!」と絶叫しつつ羽根を持つマッパの女子に向かって走り出した。


「いけません! 今解析したところ、それは毒蛾と判明! 毒性レベル、河豚フグ毒のテトロドトキシン、青酸カリの850倍とほぼ同格!」


 サイトーはテクノのかけた警告も聞かず、毒蛾女子に抱きついて思う存分に胸に顔を埋め、頬ずりしたりハグをしていた。

 ヤベえと思った途端、次第にもがき苦しみ始めた。


「やっぱり、ヤバいやつやったやんけ……」


 サイトーは生き絶えた。


 まさしく萌え死にであり、本人も本懐を遂げたというものであろう…………。


 …………サイトーよ、次があるのなら自分が最強になれるだとかハーレムな異世界にでも転生するよう祈っておこう。できればイケメンで。


「ちょ、待てや。サイトー死んだらほんまに売春合法の地下都市があったんかわからんままやんけ」


「……どうせ、ブーの妄想でしょ」

 赤子を抱えたツバキが言った。


 さて、いよいよおれの相手となるクローン女子とご対面というところで、シキとパンチロがそんな突っ込みどころ満載の状況下、テクノに詰め寄った。


 ――クローン培養した女子は、みな異形として再生した。

 これはいったいどういうことなのか? と。

 

 テクノは答えた。

「あの女子は、サマエルの妻だったのです。おそらくはサマエルの子を身籠ることが可能なレベルに、ゲノムが変異、書き換えられていたのではないでしょうか。デーモンの何らかの力によって」

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