第7話 ロスト・ワールド

 大きな川の近くで、おれはピスカチオに似た感じの木の実を拾い集めていた。


 木々に実ったものを摘むのではなく、ゾウのような鼻を持つ猫のような動物がその実を食べ、出した糞の中から未消化のものを拾い集める。


 それを丁寧に洗浄し、アルミホイルに包んで火の中にくべておくと、それがそこそこ美味いものとなるのだ。

 糞を転がして、その中から未消化の実を探す。

 そんなフンコロガシにも似た仕事に励んでいると聴こえてきた。


「や、やーっ、ややっ、やめて、やめてぇ」


「ブー! ブー! サイトーブー!」


 どうやらまたパンチロがサイトーをいじめてるらしい。やれやれ……。


 案の定すぐ何が起こるのかわかった。助けに行かんとな。


 ――ドカっ! ドッボォォォン! 


 ――バシャバシャッ。

「ガボガボ、た、たぁすけガブガボボ……」


 また泳げないサイトーが川の深みに蹴り落とされたか。


 サイトーを助けに行くと、蹴り落としたのは意外にもツバキだった。


 お前まで、いじめてたんかい!



 *



 川からずぶ濡れになったサイトーを縄で引き上げていた。


 次いで火を起こし、サイトーと焚き火を囲んだ。

 サイトーはずぶ濡れになった服を全部脱ぎ、マッパでそれらを雑巾のように絞って木の枝に干していた。


「しっかし、どどいつ・しょーけん・ブギってなんだよ?」

 もしかしらデンパではなく意味があるのかと思い、おれは言った。


 ネットがあれば検索したら案外出てきたりして。

 アニメソングだろうか? とも思った。


「どどいつって、都々逸どどいつ? 民謡?」

 案外、小粋なところがあるもんだなと言おうとしたところ、違うなということにピンときた。


 サイトーは吃音きつおんがあるのだ。「どどいつ」が「どどどいつ」になってたこともあった。


「ひょっとしてドイツ?」


「う、ううん、どドイツ。ドイツしょーけんしゅき」


「あれ? しゅきって好きってことか? ブギじゃなかったのか」

 滑舌まで悪いようだ。


「しゅしゅきじゃなくて、しゅ、主義だ」


「あ、それひょっとして、ドイツ表現主義と言いたかったとか?」


「うっうん、うんそれだ、それ」


 サイトーがそんな言葉を知ってるとは何か意外だった。


「こ、この時代にはそれがある! だだだだだダンジョン深くには地下世界、めめメトロポリスが広がっていたぞ! まだ文明が残っていたんだ」


 ままマジか!

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