第3話 ロスト・アーク

 リーダー格の背の高いシキ、モヒカンのパンチロ、女顔で小柄なツバキ、頭の良い眼鏡のテクノ。


 そして残る二人は、大柄の巨漢サイトーと、猫背でひょろっとしたおれ――名はタマキというのだが、立場的に六人の中でも蚊帳かやの外だった。


「どどいつ・しょーけん・ブギっ!」 


 サイトーの奇声だ。

 サイトーはオタクで暗かった。

 おれも陰キャな方だが、サイトーは何か次元が違う気がする。


 サイトーはもう既に顔が髭もじゃだった。30歳くらいのおっさんにしか見えなかった。


 ……中学の教室というのは、つくづく小学生の子どもみたいなやつから妙に老けてるやつまでと、あまりに格差がありすぎる異様な空間でもあったな。


 更にサイトーのウエートは優に100キロを超える堂々ヘビー級だ。

 ヘビーなのに身長はさほど高くはないのだから、鈍臭かった。


 時折、川の深みに突き落とされては、泳げないものだからそれを助けるのも大抵おれの役目だ。


 吃音きつおん症持ちだったり寡黙なのだが時折り……。


「どどいつ・しょーけん・ブギッ!」


 などと意味不明なデンパな奇声を上げることもあった。


 酷いいじめに遭ってたせいでメンタルをやられておかしくなったのでは? と皆は言う。

 

 おれと言えば一見何の変哲も無い方だと思うが、ややコミュ障で社交性に欠け、自己肯定感が低く暗いというのは自覚している。

 それに、皆、仲間なのだが、ちょっと付いて行けないところがあったりするので、なるべく目立たないよう一歩距離を置いていた。


 ──そんなおれたちは、すっかり変わり果てたこの世界で生きていかねばならなかった。



 まず、衣食住について問題はあるだろうか。


「衣」については温暖な気候なので、裸でも問題無さそうだ。

 男同士なので恥ずかしいこともないだろう。

 制服やジャージ、下着にスニーカーはかなり保存状態が良く幾つも残っていた。

 直ぐボロボロになってしまうが、適当に布切れ巻き付けておくだけでも充分だった。


「食」

 海へと流れゆく大きな大河に、清い水が流れる小川もあったし、貝や魚も捕れた。

 それなりに美味いとなると限られてしまうが、なんとか食べられる今まで見たこともない果物や木の実も沢山実っていた。

 そんな特に苦労もなく食料の調達が可能であった。


「住」

 校舎の廃墟で雨梅雨をしのぐことができ、六人では持て余すほど部屋が沢山あり、廃墟とはいえ充分住むことができた。  


 あと、風呂だが、川で洗うもよし。

 ドラム缶風呂なんかも用意していた。


 生活に必要な、なんやかやは概ね学校に残っていた。



 だが、そう……我らには……我らには、ああ、なんてこったあああ!

 重大な問題が欠如して…………。


 ぼそっとパンチロが言った。

「なんで、生き延びることがでけた俺ら六人がよりによって……。全員男子やねん!」


 テクノは極めて冷静に答えた。

「このままでは、我々最後の人類は子孫を残せず滅びますね」


「子孫なぞより、女子だ。我々にはメス豚が必要だ」

 テクノの言葉に少しイラっとしたようにシキが言った。


「せや、俺も本物の女子にぶっかけうどんおごったりたいで」


 まぁ、おれ含む皆の想いは同じだろう。

 なんとかリアルな女子とイチャコラしたいと思ってるに違いない!!


 ツバキはいわば、ヴァーチャル女子と言ったところだろう。  

 校内の壁という壁に描かれたセクシー壁画の萌え少女たちのような。


 このアフター世紀には通貨はない。

 専ら物々交換に、ギブ&テイクだ。

 シキにパンチロ、テクノから色々と報酬を受け取る代わりに、おれがオタクなサイトーからネタを提供してもらい協力を得て描いたセクシー壁画だった。

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