二話 そのままでいられるんだよ、お前が傍にいるなら 2

「さ、このアオイソメを針に――」

「いやぁああああああああああああ――――――――――――っ!?」


 予想だにしない光景だった。


 海。釣具屋に寄って何かを購入していたらしいが、俺は道具に気を取られて気づいていなかった。買ったものの正体を。


 準備を任せて海を眺めていたのだが、準備ができたと嬉しそうにしている可憐が手にしていたその餌というものに足腰が震えっぱなしだ。


 ミミズの進化系みたいなやつがニュルニュルウゴウゴと。超絶キモイ! なにこれ、やだよ触るの。いや、可憐のやつも素手だぞ?


 素手のまま、可憐はアオイソメを慣れた様子で摘まみ上げ、針に刺していった。いやぁああああああああ気持ち悪いぃぃぃぃっ!


「ありゃ、やっぱり先輩はダメでしたか、こういうの」

「へ、平気なやつおらんだろこんなの! チキンな俺にこんなぐろいもん見せてんじゃねえ!」

「チキン関係あるかなぁ。……えい」

「おぶふぁああああああああああああ――――――――っ!?」


 手に乗せられたワームを思わず叩き落とす。無理! 無理無理無理!

 苦笑しながら、可憐がそれを拾っている。


「もー、これも一応お金払ってるんですから」

「もっと、こう、色々あったろ!」

「キス釣りにはこれが最適なんです。さー、投げましょー!」


 彼女は気にした様子もなく仕掛けをぶん投げて海に落としていた。すげえな、お前割とすげえな。


 死んだ魚くらいは触れるが、この虫系は無理だ。俺の本能が嫌がっている。


「ふっふっふー、ヨウ先輩は虫が苦手。覚えましたよー!」

「今度その手のことをやったらテメェのメシはめざしとウメボシだぞ。俺が作るホクホクコロッケ見ながらめざしを齧るがいい」

「ひぃぃぃぃ!? それだけはぁぁぁぁっ!」


 言うてめざしもたっけーし、そんなことをするくらいなら普通の魚買うと思うが。


「海の家でジュース買ってきます。何がいいですか?」

「コーラ」

「了解です!」

「俺が行くぞ?」

「座っててくださいよ! えへへ」


 何故か嬉しそうにコーラを買いにいく可憐。俺がまるでパシらせてるみたいじゃんこれ。


 そんな俺の気持ちなど知りもしない可憐は遠くになってしまった。制服の後姿を眺めながら、俺は海面に視線を戻した。


 ……綺麗だ。大して海に思い入れなどないが、それでも何か、海を見ていると、落ち着いてくる。波も穏やかだ。果てなく広がる水平線を見ていると、どうしようもなく自分がちっぽけに感じる。ベタな感想だ。


 そういえば、井の中の蛙大海を知らずと蛙を馬鹿にするが、蛙が大海に適応できるはずもない。つまり大海は不要な知識と言うことになる。蛙は蛙の世界で楽しくやってんのに、急に海と言われても。俺が蛙なら現実感湧かない。蛙を馬鹿にするのは外の人間だ。そう、いつもこちらを貶めてくるのは無責任な外野――


「――おわっ!?」

「えへへ。顰め面をしていたので冷たい冷たい攻撃です」


 ひんやりしたコーラの缶が頬に当たり驚いた。可憐からそれを受け取り、小銭を押し付け蓋を開ける。


「どうしました? 考え事ですか?」

「蛙について考えてた」

「ははあ、蛙、意外と愛嬌ありますよね。けろけろ」


 お前の方が八億倍は愛嬌あるけど。何だ今のけろけろ。可愛いじゃねえか。


「手を洗ったよな、お前」

「え、あ、ハイ。海水で。……先輩マジであのゴカイ系を敵視してますね」

「無理。あれは無理。超絶キモいし。どうあがいても愛せない」

「慣れてくると……いや可愛くはないかな。まぁ、平気になりますよ! それよりもゴキブリの方が……」

「ゴキブリなんて叩き潰せば終わりだろうが」

「ううっ、あのテカテカが……! あの俊敏な動きが……! 顔面に向かって飛行された日にはもう……!?」


 何やらトラウマがあるようだったが、俺も聞きたくないので突っつかないことに決めた。


 虫ってやつは子供の頃は平気だったのになんで大人になるにしたがってダメになっていくのか。これが分からない。いや、ゴキブリは言うに及ばず蛾とか蜂とかカメムシとかは昔から嫌だけど。


「お前は何も買わなかったんだな」

「先輩から半分貰う予定ですので! 節約!」

「……まあいいけど」


 釈然としないものの、俺はひとまず開けていたコーラを流し込む。海風で少し塩っけのある口の中に、圧倒的な爽快感と甘さが流れ込んでくる。うめえ。


「先輩、ひとくちひとくち!」

「ほら」

「ども! ……ぷっはー! 美味しい! イエス! たまにはコーラもいいですねぇ」

「いつもは何飲んでんだ?」

「普段は大体ソーダですねぇ。八ツ屋サイダーとか、コンビニでたまに売ってるへんてこな飲み物とか!」

「あー、あるなあ。お前この間の謎味飲んだか?」

「はい。あれ結局何の味だったんでしょう?」

「洋ナシとオレンジとグレープらしいぞ」

「ひょええええ……分かんないです」


 とかいうやりとりをしていると、不意に可憐が竿を立てた。彼女はフタナリとかじゃない。普通に釣り竿の方。


 竿先にくくくっ、と自然現象ではないプルプルが。巻き上げてみると、白い魚が釣れていた。二匹いるじゃん。


「おおー、これがキスか」

「はい!」

「しめて血抜きはしとく」

「え、できるんですか?」

「何度かそういう機会があってな」


 学校でやらされた。中学の頃だったと思う。みんなおっかなびっくりやっていたものだ。


 十特ナイフを取り出し、胸元から刃を突き入れる。それで動かなくなった。


 さて、とりあえず海水を汲んだ折りたためるナイロンのバケツにそれを突っ込み、再びアオイソメとやらを取り出す可憐から距離を取る。


「そ、そんなに怖がらなくても……」

「いいや無理! 生理的に無理! 蜂と蛇と同じ類で無理!」

「そ、そんなに……」


 苦笑していたが、釣りはまだまだ続くようだった。

 きっかり二十匹。キス釣りは釣果がばらけやすいのだそう。入れ食いの時もあれば、全く釣れない時もあるのだとか。


「釣れてラッキーでした! 今日は焼肉として、明日は何をするんです?」

「天ぷらか……? キスのてんぷら、ド定番!」

「おお、いいですねえ! やっぱり天ぷらにはソース!」

「いやキス天には塩だろ頭湧いてんのか」

「ええ!? ソースも用意してください!」


 お前ソースとか。繊細な白身が売りの魚じゃん。ソース掛けちゃったらソースの味しかしないじゃん!


「おまえやっぱいかれてるわ」

「目玉焼きにマヨネーズかける人に言われたくないです!」


 可憐のやつ言うじゃねえか。今日の朝食でドン引きしていたのだが、そんなにショックだったのか。いいじゃん、目玉焼きにマヨネーズ。美味いぞ、かなり。


「信じていた先輩がマヨラーだったなんて……」

「アホか、本物のマヨラーは冷やし中華だろうが冷たい弁当だろうが味噌ラーメンにだろうがぶち込むんだぞ。俺は一般人だ」

「うえええ、味噌ラーメンにマヨネーズ……? ギトギトしてそうです……」

「油浮いてるしな、マヨネーズの」


 大阪の友人がやっていたのだがさすがに異文化コミュニケーション過ぎて全力で流すことに決めた。人の好みは人の数だけあっていい。強要されなければ俺達に文句を言う資格などないのだ。


 そいつはちゃんと店に断ってから自前のマヨを掛けていたので紳士的な方だろう。多分。


 げんなりとしている可憐に、とりあえずジュースを投げた。彼女が釣りの片付けを始めた時に買いに行ったものだ。


「あ、ありがとうございます! お代を……!」

「たまにはカッコつけさせろ。今なら百六十円で素敵な先輩拝めるんだから、とっとけ」

「……はい! ありがとうございます!」


 いい子だ。ご機嫌でペットボトルの蓋を開けて、中身を飲んでいる。ちなみに渡したのは塩パインのジュースだ。塩分があるので熱中症にある程度効力がある。


 にしたって、こう日差しのある中、心配だな……。何も頭に被らずに外に出てるの。俺はカッコつけて被らなくてもあれなのでワークキャップを被っているのだが。


「? どうしました、先輩」

「いや。帰ろうぜ」

「ガッテンです!」


 小型のクーラーボックスをメットインに突っ込み、俺達はゆるゆると帰宅をするのだった。何度経験しても、背中から伝わるぬくもりと幸せな感触は慣れねえ。





 その後、スーパーやらディスカウントストア、業務用スーパーなどを回ってから、焼肉と相成った。


 焼肉のたれは市販。今日は下味のやつを揉みこむ暇もなかったので軽く塩コショウをしただけとなる。すまん、ステラ。日時が分かってたらやりようがあったんだが。


 そんな気苦労など知りもしないだろう、能天気に肉を頬張る彼女は、幸せそうな顔をしていた。同時に、それを見てどうでもよくなってくる。美味しいって思うんならいいや。


 俺も牛カルビを食べてみる。少し油がキツイ。斜め輪切りにした茄子と茹でたジャガイモを強いてそれに吸わせてみるか。じゃがいもは揚げ焼きのようになっている。ホットプレートも買いにいく羽目になったが、これから活躍してもらおう。お好み焼きとか、焼きそばとか。色々できるはずだ。


「美味しいデス、ヨウタ!」

「そりゃよーござんした」

「先輩のじゃがいもの茹で加減、最高です……! で、肉の脂で、かり、ほくっと……そこに塩をパラパラ……美味い!」

「ううん、テッパンじゅーじゅー幸せの匂い……って可憐、肉食べなさいよ肉。芋ばっかり食べてるじゃない」

「先輩、わたしお肉もいただいてますよ?」

「嬉しいなあ……あ、陽太、これ焼けてる?」

「良いだろ。鶏と豚は気を付けとけよ」

「うめえ……ネギ塩牛タンうめえよお……んで、塩おにぎりと……バドちゃんを……かっー! 最高! お前はエロいけど偉い奴だぜ、陽太!」

「いてえっす」


 真宵先生にバシバシと背中を叩かれつつ、肉を焼いていく。ちゃんと塩おにぎりも作ったけど、なんと後で焼きおにぎりも作ってほしいらしい。お前が作るんじゃないんかいと十七回くらい突っ込みたかったが、紳士な俺はそっと微笑み親指を立てるに終わった。正直、先生にたてつくほど愚かではない。真宵先生は冗談が通じる方なのでありっちゃありなのだが、家事が壊滅的な人間にそれをやらせては俺の手間が増えるだけだ。


「さて、フフフ……焼きおにぎりには、醤油と酒とごく少量のみりんを隠し味に混ぜ込んだこのタレで焼いて行こうじゃないか」

「いよっ、待ってました!」


 ディスカウントストアで刷毛も購入済みだ。ペタペタとまずは片面に塗り、油まみれのホットプレートに押し付ける。肉が揚げ焼きになるのもあんまり好きではないので、茄子やじゃがいもが吸いきれなかった分をキッチンペーパーなどで拭っていく。


 立ち上る、醤油のいい匂い。


「うおお……焼きおにぎり……冷食買うくらい好きなんだよ。サンキューな、陽太」

「いいですって。内心点くれれば」

「安心しろ、今んところ満点どころかプラスだから」

「やったぜ」

「ううっ、やっぱり先輩は要領がいい……! 家事万能でルックスも悪くないとかチートじゃないですか!」

「ん? 俺のルックスはいたって平凡かそれ以下だぞ」

「いや、そこそこだと思うよ。ボクは憧れるなぁ、男らしくて」

「星名と比べたら大抵の男子は男らしいんじゃない?」

「ひ、酷いよ、夕凪さん!」

「お前が外見美少女過ぎるのがいかん」

「親友まで……! もうやけ食いだよ! ぱくっ……。…………。けぷっ」


 お前、おにぎり一個と肉を五枚、野菜を数個でお腹いっぱいなの……? 小食すぎるよ……! でも、仕方ないか。男子の身長の平均を大幅に下回ってるからな。百五十半ばくらいだし。可愛いけど。可愛いんだよ。たまにマジで頭がバグるからその容姿。


「でも、鼎。筋トレとかしてたらごつくなるんじゃないか?」

「……鍛えようとしたよ。でもまずね、腹筋一回もできないんだ……」

「そ、そうか……」


 生きろ、鼎。


「そういえばお前って髭って剃ってるのか?」

「生えてこないけど?」

「わ、わかった。俺が悪かったから笑顔で威圧してくるな」


 鼎は怖い笑顔の後、暗い顔で何かぶつぶつ言っていたが、ダークサイドに触れた気がしたので追求は避けておいた。


 こちらをじろじろと夕凪は眺めてくる。やだ、セクハラですか……?


「あんたもそこそこ薄いじゃない」

「まーなぁ。青髭の友達は大変そうだったぞ、剃った翌日の夕方にはまた生えてきてるから、学校にシェーバー持ってきてたし」

「うわー、大変そー……」


 あれは本当に大変そうだった。いっそ関羽みたいにしたら? と言ったらどちゃくそキレられたので未だに反省している。人の容姿弄るの、良くない。でも関羽カッコよくね?


「夕凪はやっぱ腋毛とかも白いのか?」

「セクハラ」「セクハラです」「セクハラだよ」「セクハラだな」「セクハラデスネ」

「うん、今のは俺、デリカシーなかったね」

「でもまぁ、白いわよ」


 でも答えてくれるんだ。何だか萌え萌えだぞ、夕凪め。


「肌とか火傷すんだろ? 大変じゃね?」

「まぁ、日焼けをカットするジェルと、長袖を許されてるからそれで何とか。自転車は改造して日傘をフリーハンドで差せる奴にしてる」

「お前もバイク買ったら?」

「バイク……それもありかもね」


 考えとくわ、とし、夕凪は食事に戻っていった。ありゃ買わないな。


 俺も肉を食べて、おにぎりを食べていく。焼きおにぎりをひっくり返し、刷毛で塗っていった。一号二号が仕上がる。


「どぞ」

「おう! ……おおお、うめえ! 硬く炊きあげられた米……それなのに食べた瞬間ほろッと零れる絶妙な握り具合、香ばしい醤油の匂い、味……! 美味いぜ、陽太!」

「そらよかった。しこたま作ったから、残ったら明日の昼にも食べてもらう」

「手で握ったんでしょ? 持つの?」

「そんなことになると思って、ちゃんと使い捨てのビニール手袋でやったよ。安心しな」

「塩おにぎり美味しいですよねえ」

「肉残りそうだし、真宵先生が貰って来た保存用のタケノコとピーマン使って青椒肉絲にするか? んで、冷凍シュウマイと……うーん、きんぴらが余ってたからそれも。なんか彩足らねえなぁ……冷凍のほうれん草の和え物出すか。いやもうめんどくせえな。いっそ明日カレーにして焼肉の野菜消化しちまうか……」

「というか相談したかったんだけど。食費二万でいいから、これから弁当も欲しいなって」


 夕凪からそう切り出され、少し驚いた。こいつらパンなんだよなあと思っていたが、確かに俺もここでの暮らしに順応の兆しを見せている。つまり時間の把握もできていた。プラス、前まで弁当も自作してたので、別に構わないのだが……まさか夕凪からとは。てっきり俺に良い感情を持っていないと勝手に思っていたので、驚きもひとしおだ。


「あ、わかりますそれ」


 可憐も鼎もステラも、真宵先生も頷いていた。まぁ、そうだなあ。


「お前ら食う量は常識的か少ないから別にいいんだけど……」

「ホント!? でも、陽太の負担になるでしょ? 大丈夫?」


 鼎、お前は何ていい奴なんだ……! 結婚するならお前みたいなやつが良いよ。何でお前男子なんだよ。というか真っ先に俺を気遣うのが鼎って。いやありがたいけど。


「大丈夫だよ、朝食の仕込みみたいなのが少し長くなるだけ。食費もガッツリ徴収する予定だし」

「いくらくらい?」

「一人頭一万五千をうろうろかな。で、弁当ありなら二万をうろうろ」

「了解よ」

「お弁当のリクエストは曜日ごとに決めてくれ。月曜日は鼎、火曜日はステラ、水曜日は夕凪、木曜日が可憐、金曜日は真宵先生で。言わなかったら適当に作る」

「分かったよ、陽太」


 明日明後日は土日だし、食材買い込んでおこう。


「ヨウタ、サイダーおかわり!」

「飲み過ぎだろ、ステラ」


 言いながら四ツ谷サイダーをステラと、こっそり差し出していた夕凪のコップに注ぎ入れる。


「ありがとデス!」「ありがと」

「いーけど。ほれ、焼けてるぞ可憐。先生も焼きおにぎり二個目どうです?」

「わーい!」「おう、悪いな」


 俺もちょくちょく食を挟みながら、全員が満ち足りた顔をしているのを眺めて気分が良くなる。俺は正直、自炊は好きではない。何で自分で作った飯なんぞを食べなきゃならんのだと常々思っている。誰かが作ってくれるご飯は、それだけでありがたいのだ。いやそれだけで――つまるところどんなものでもと言うと語弊がある。人並みに食える料理は、だ。犬も食わん夫婦喧嘩以下のメシなんぞ作った日にはさすがに温厚な俺もキレてしまうかもしれない。


 ともあれ、自分で作るのはいいが、自分で食いたくない。俺も誰かに作ってもらいたいという気持ちはあるのだ。けれど、それはここにいる奴だって同じだと思う。


 だから、俺がやろうという気分になる。目標のある可憐のサポート。夢を追っているステラの後押し。よくお互いのことは分かっていない夕凪と仲良くなるべく。食が細い鼎を栄養面で補助するため。男女の寮で大した事件なく日々を許容してくれる先生への貢ぎ物。


 そう、建前は何だっていい。俺はこいつらに作りたいと思ってるから作っている。ただそれだけのことだ。だから炊事で技術料は取らない。その他の家事は貰うが。


「先輩、スマホ見てどうしたんですか?」

「いや、通販の発送通知が。明日届く」

「なるほど!」


 俺も、いつか誰か作ってくれる人ができるまで。


 この自分で作った個人的に食が進まないご飯でも食べていようと思うのだ。


 まぁ、味は自分で作っているから間違いはないんだけどさ。


 そんなことを思いながら、また一枚、また一枚と肉をくべていく。


 そして、その日の焼肉は大団円のまま終わりを迎えた。明日の昼は残り物のカレーだ。





 土曜日の昼下がり。学校は休みだ。土曜日に半ドンもないという時間割に感謝しつつ、細かな家事をやっていく。午前中で大体片付き、荷物も受け取り、部屋にぶち込んだ。一息ついて昼食を。


「夜宮、今日のお昼なーに?」

「焼肉の残り物でカレー」

「おお、いいわね」


 ちなみにキスは捌いてキッチンペーパーで水気を取って冷蔵庫にぶち込んである。後は揚げるだけ。


 残ったおにぎり&カレーは大好評を得て昼にきっかりなくなった。夜のキスのてんぷらに向けてよい感じだ。料理が余らないと気分よく次の料理を作れる。


 昼飯の食器を片付けていると、可憐が裾を引っ張って来た。


「どした」

「あ、あのー……今から時間あります?」


 見上げるような上目遣い。弱いんだよなあ、と思いながら、とりあえず用件を聞いてみる。


「部活か?」

「いえ。……わたしの実家に来ませんか? というか、ご足労をお願したく……」

「はぁ?」


 え、可憐の実家?

 なんで俺がいかなきゃならんのだ……?

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