第4話ー② 自らの責任についてよく考えなさい

 ジュールと私は川の対岸へ渡り、小走りでエドワードさんに近づいた。

 そして、私がエドワードさんに「あの、どうかしましたか?」と声をかけた。

 ジュールだと一言目に失礼をぶつけかねないからだ。

 エドワードさんは振り返り、少し驚いたような表情をしてから、

 「ん、ああアンか…。いやなんだ…その…昨夜次の村長の話を聞かされてね…落ち込んでたんだ…」

 と教えてくれた。

 おやおや、思っていたより村にとって重要な話だった。私逃げていいです?

 「村長は貴方じゃないのか?一番最初の子が大体引き継ぐものだと思うのだが…」

 ジュールも大分失礼な質問している気がするが、まあそこは私も同意だ。

 「ああ、その認識で間違いないよ。僕には姉がいるんだ、だから僕が村長にはならない…でもこうやって落ち込んでいるのはそこじゃないんだ」

 姉君がいるのは…初耳だ!!え!?そうなの!!

 それってどれだけの村民が知っているのだろうか…。

 「あははっ、アン驚いたでしょう。だって姉さんの事は今や大人くらいしか知らないからね」

 と笑った。目は全く笑ってないけど。こっわ…。

 「それは何か事情があるんですか?」

 私はその目に屈する事無く質問をした。もはや死なば諸共だ!ジュールともに死んでくれ!!

 「んーまあ色々と細かい事情はあったけど、一番は純粋に留学に行ってるんだ。五歳までこの村にいてそれ以降は王都やいろんな国へ回って様々な土地の言葉や行政の勉強をしているんだ」

 はぁーそんな…五歳で留学って…確かエドワードさんが今二十歳くらいだったはずだから…少なくとも二十五歳以上って事だよね。ほとんど村にいないじゃん!?

 それって村民って言えるのかな…?そんな人が村長になるなんて…納得できそうでできない気がする。

 「では一体何に落ち込んで…?」

 「ああ、僕が落ち込んでいたのは……ううん言っていい物か…いやもうこの際相談する気持ちでいこう…!そう、その理由は僕を姉の補佐にしないで、分家として村の外に街に出すって言われた事なんだ」

 エドワードさんが話してくれた内容は以下の通りだ。

 元々エドワードさんは優秀だと聞かされていた姉を尊敬しており、時折文通もしていたという。そしてそんな姉を補佐する役目や、そうでなくとも姉を守る護衛の役目を強く望んでいたらしい。

 そのために様々な努力をしてきたが、村長さんんに、エドワードさんは村の事ではなくディッセン家の事を考えて、血を繋ぐ役目を果たして欲しいと言われたのだという。それが、分家づくり。村を出て近くの街か、フルール王国の王都などへ行って独立せよとの事だった。

 自分の置かれた立場や責任については理解しているものの、その命令はエドワードさんが全くもって望んでいない事で、意見したものの聞き入れてはくれなかったという。

 何とも複雑な話だ。何とはなしにに話しかけるんじゃなかった。

 一先ず帰っていい?ダメ?やっぱり?

 「残念な話ですね…」

 とりあえず聞いた感想を言っておく。

 「今晩、もう一度話してみようかなとは思っているけどね…それも聞いてもらえるかは…」

 ああ!寂しそうな顔をしている!!

 エドワードさんはかなり甘いお顔をしているから、そういう表情をされると、なんだかお助けしたくなるのだ!全くいい案は思いつかないけど!

 私とエドワードさんで色々と話していると、突然ジュールが何かを思いついたように、手を叩き音を出した。

 エドワードさんと私はその音に驚き、彼の方へ顔を向けた。

 「それはつまり、村長が息子である貴方の実力をわかっていないから…という事…なんだな?」

 何を言ってんだこいつ。

 「そ、そうか…!確かにそうとも言える…!」

 え、エドワードさんもどうしたの?

 「つい先ほど、お父上から大熊退治を個人的に行っていいという許可をいただいたところだったんです。これから俺は早速大熊を探しに行きます。もし遭遇したら戦う事になるかもしれません………お手をお貸しいただけますか…?」

 唐突に敬語になったな…そんで何…大熊退治に村長さんの息子連れてく?何言ってんだ!?今さっきこの人に与えられた役目は血を繋ぐことだったんだよ!?

 なんで早速断絶するかもしれない危険なところに誘ってんの!?

 「ああ!僕の力が、親父の…いや村の役に立つのなら!」

 ああ!もう!エドワードさんは何か使命感に燃えてるし!!

 ついさっきまでめっちゃ怖い目して落ち込んでたじゃん!

 ジュールとエドワードさんは足早にここから一番遠いが、森の入り口に近い正門へ向かった。

 ど、ど、ど、どうしよう!?ええ!?

 すっごい馬鹿!めっちゃ馬鹿!何でジュール?!さっきまで私とあんなに理路整然と話していたくせに!!今になって何で急に幼児期の男の子くらいの頭になるの!?本当に前世の魔法師団の団員としての記憶戻ってんのか!!

 何で物理的な力を示したら村長の考えが変わると思っているの!?

 ていうか大熊退治の許可って何!?そんなの貰ってたの!!??

 ぐぬぬ……!村長さんに報告するべきか……いや!正門のジュールのお父さんに報告しよう!!そうすれば村長さんまですぐに報告が届く!私が今から話に行くより多分早い!!

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