第4話 風のめぐる家<5>

「カディスさん」

 後ろから声をかけられて、カディスははっとして振り返った。

「ああ、ナンシー。いつ帰ったんだい?」

 カディスはいつもの笑顔で返した。

「さっき。ねぇ、カディスさん、風麗荘はどうして風麗荘って名前にしたの?」

「どうしたんだい?突然」

「別に。ただ気になって。ねぇ、どうして?」

「そうかい……。この家はさ、町で一番いろんな風のあたる場所にあるだろう?旅人って、風みたいに気まぐれなものだから、 そんな気まぐれな旅人たちの家ってところかな」

「そう。ところでカディスさん、今日はブレスレットをしていないのね。どうしたの?」

「別に……。ただしまってあるだけだよ……」

「そう、よかった!泥棒に盗られたのかと思った」

「そんなことじゃないさ……」

「ねぇ、カディスさん、これあげる」

「?」

 ナンシーは小さな黒い箱を取り出した。カディスがふたをとって開けてみると、カディスの瞳の色と同じ深い緑色の宝石を いただいた、銀の指輪が姿を見せた。

「ナンシー……これは……?」

「今日ね、隣の町でカディスさんのとそっくりなブレスレットをしている人に会ったの。泥棒かと思ったわ。でも違ったのね。私が カディスさんのこと知ってるってわかって、これをカディスさんに渡してって頼まれたの。ねぇ、あの人、カディスさんの知ってる人?」

「その人……どこへ……?」

「旅の途中だって、どこかへ行ってしまったわ」

「そう……」

 カディスの声は沈んでいた。

「どうしたの?カディスさん」

「なんでもないよ……」

「なんでもなくはないでしょう」

 ナンシーの口調が急に強くなった。

「ナンシー?」

「カディスさんは本当のこと、何も話してくれないのね。カディスさんはさっき、風麗荘は気まぐれな風のような旅人のための家だって 言った。町中の風を集めなくちゃ、つかまえられないような気まぐれな旅人って誰?風麗荘はまだ一番大切な風を迎えていないのではないの?」

「ナンシー、あんた……」

「十年も待っていたんでしょう?十五年前に旅人と町を出ていってしまったカディスさんは、五年後に帰ってきて風麗荘を始めたって 町の人に聞いたわ」

「待ってなんかいないよ!」

「嘘よ!風麗荘の名前の由来って何?あなたたちが初めて持った家の名前ではないの!?」

「あんた、あいつにどこまで聞いたんだい?」

 カディスは少し間をおいてから、ナンシーをにらんで言った。

「そこまでよ。話してくれるの?くれないの?」

 ナンシーも負けずに言った。

 はぁ、とため息をついてから、カディスは静かに話し始めた。

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