第3話 スルースルの花園<2>

 「あらっ、まあ、どうもありがとう」

 ドアを開けて出てきた女性は、綺麗だけど、痩せていて、とても疲れているように見えた。

  パタパタパタ…トン…

 「おねいちゃん!おかえり!」

 小さな女の子が、家の奥から走ってきて、まだ玄関に立っているセアラに跳びついた。

 「アミアン……」

 セアラはアミアンの肩に手をかけて、ちょっと離しながら名前を呼ぶ。

 「この子はセアラの妹で、アミアンというの。今日はセアラがお世話になったわ……。今夜はうちに泊まっていって ほしいところだけれど、ごめんなさい。うちは余裕がなくて……」

 簡単な旅姿のナンシーとヘジュを見て、その人はすまなそうに言った。

 「おかまいなく。大丈夫ですから」

 ナンシーは明るく答えた。

 「ああ、でも私の姉が宿屋をやっているの。そこに行くといいわ」

 「あ、でも私たち、お金は……」

 「大丈夫。うちもお世話になったのだし、一人でやっている人だから、行ってくれれば喜んで泊めてくれるわ。えっと、場所はね……」

 「アミアンが連れて行ってあげる!」

 わきから元気いっぱいの声が名乗り出た。

 「だめよ。もう暗くなるのだから。あなたはまだ小さいのだし……」

 娘の頭をなでながら、お母さんが言う。それを見ていたセアラが、静かに声を出す。

 「いいよ……私が行くから……」

 「でも、セアラ……」

 「いいの……。おばさんの家にはよく行ってるから……。もうよその子はみんな帰ってしまったから……」

 セアラは、母親の顔を見ないでナンシーたちのほうを振り返ると、続けた。

 「ついてきて……」

 


 暮れてゆく夕方の道を、セアラは無言で歩いて行く。ナンシーとヘジュも黙って一緒に歩いていった。

 「……ねぇ、セアラ……」

 ヘジュが遠慮するように声をかけた。

 「セアラはいつも、お母さんのお手伝いをしてるんでしょ?えらいね」

 「……」

 「……」

 「……お母さんに気に入ってもらいたいだけだから……」

 「……へぇ、セアラはお母さんのことが大好きなんだね」

 「……お母さんに気に入ってもらいたかっただけだから……」

 そのまま、セアラはまた、口をつぐんで歩いていった。

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