第3話 スルースルの花園<3>

 「ねぇ、セアラって、どういう子なんですか?」

 食卓につくと、ナンシーは、宿のおかみさんに訊いてみた。今夜は他の泊り客はいないらしい。

 「なんか…いじめられてるみたいだったけど……」

 「ああ……。前はそんな子じゃなかったんだけどね……」

 「どんなだったの……?」

 ヘジュも話に加わる。

 「他の子とも仲良くしていたし、明るくて、元気のいい子だったよ」

 「いつからあんなことになってしまったんですか?」

 「さあ……たぶん、三年前、父親がどこかへ行ってしまってからじゃないかね……」

 「え?」「お父さん、いなくなっちゃったの?」

 ナンシーとヘジュは、ほとんど同時に声を出した。

 「ああ…。あの子の父親は、家族を捨てて、どこかへ行ってしまった。アミアンはまだ一歳になったばかりで、セアラもまだ 四歳だった。ショックは……大きかっただろうね……」

 「そうなの……」

 ナンシーは、おかみさんから目を離しながら、静かに言った。

  ぱく

 ヘジュは、無言でシチューを一口、口に含んだ。


  

  ガチャ

 「ただいま」

 「遅かったわね……どこにいたの……?」

 「おばさんの家に……」

 「……それは嘘でしょう……。姉さんはあなたをこんなに遅くまで引き止めておいて一人で帰らせたりしないわ……」

 「……」

 「……どこにいたの?セアラ」

 「お母さんには関係ない……」

  パタパタパタ……バタン

 セアラはほとんど聞こえないくらいの声で言うと、そのまま走って奥の部屋に入ってしまった。

 「セアラ……」

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