第1話 ヘジュの石<9>

 最初の日のことは、覚えている。僕はこの森で、お父さんとお母さんに会った。心のままに生きることを知って、失いたくない心のために逃げてきた僕。

 僕を、心のままに生きられるようにしてくれたのは、天使。僕を抱きしめて、天使の魔法をくれた。


 お父さん、お母さん、この森、天使のおかげで心のままに好きになることに自由になった僕、すべては、うまくいっているように見えた。毎日が幸せだった。すべては、明るい太陽の光の中に輝いて、一点の影もないように思っていた。

 けれど、ある日、お父さんはいなくなった。死んでしまったのだったと思う。けれど、お父さんがどうして死んでしまったのか、覚えていない。


 どうして覚えていないのだろう、大好きだったお父さんのことを。

 いったい何があったのだろうか。

 何を忘れてしまったのだろうか。

 僕はいったい、明るい光の中に、どんな影を見落としていたというのだろうか……。




 さあっと一筋の風が吹きぬけ、きらりと光る雫がヘジュの胸元から零れ落ちた。

 心の中に深く手を伸ばしていたヘジュは、それに気がつかなかった。

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