第1話 ヘジュの石<7>

 「ここは時を忘れる不思議の森。元気をくれる不思議の森。いつも喜びにあふれているわ」

 ナンシーは、森の奥の湖の水でいっぱいにした桶を両手でしっかりと持ったまま、上を向いて叫ぶ。何重にも重なり合っている木の葉の間から、青い空と、まぶしい光がこぼれている。


 ナンシーがこの森に来てから、どれくらい経ったのか、知らない。とても幸せな生活だったから、時を気にする面倒なんて、いらなかった。

 少年は、ナンシーがこの森に来て間もないあの夜以来、過去のことを語ろうとはしなかった。あの夜のことさえ、夢だったのではないかと思うほどに、毎日を楽しく生きているように見えた。でも、あれは夢じゃない。何かとても大切なことが、この深い森の木々の中に隠されているのではないだろうか?そんな思いが、ナンシーの心にひっかかっている。

 「今日もお天気、いい気持ち。喜びの森。あなたは何を知っているの?何を見てきたの?その喜びの光をもって、いったい私に何を隠しているの!?」

 森の答えは聞こえない。ただ、ナンシーの声だけが、しんしんしんと森の中にしみていった。

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