第1話 ヘジュの石<6>

  「チュル、チュル」

   僕の肩で、小鳥が鳴く。大好きだよって、ささやいてくれる。

  「ありがとう、僕も君たちが大好きだよ」

   小鳥が嬉しそうに、僕のほっぺにキスをして、温かい風が、さわさわと僕の周りを吹き抜けて、花たちは、日の光の中で、きらきらと微笑を放っている。

   天使が魔法をくれてから、誰も僕を怖がらなくなった。僕が大好きだよって言ったら、みんなも喜んで僕を受け入れてくれた。

   大好きな気持ちに素直になれることが、どんなに幸せかって、僕は知った。


   けれど、ある日、あの人が来た。僕が永遠と信じていた幸せな時間に。

   ぞくりと重い空気が走り、風はやみ、花たちは首を垂れ、鳥や虫たちは大慌てで散っていき、僕は凍るような、鋭い瞳に対峙した。


 「お前はいったい何をしている?」

 「!」

 「一族の威厳を捨て、下等な者たちと交わるなど、なんという恥ずべきことか」

 「けど、僕はみんなが大好きなんだよ」

 「くだらんものに心を動かされるな。我らに情はいらぬ」

 「そんなこと……」

 「天使にそそのかされたか。あれは、この世で最も賤しきものだ。我らの側にいるだけで、命削られる脆弱な身で、他人の世話を焼こうというのだからな」

 僕の胸の天使の魔法に目をやると、あの人は、ふふんと笑って、僕を見下ろした。逃げなければ、と思った。この人の側にはいられない。


 大好きな気持ちに嘘つかないために。

 大切なものを失わないために。

 魂のままの自分でいるために。


 だから逃げた。逃げて逃げて、辿り着いた森で、僕はあの人たちに出会ったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る