第1話 ヘジュの石<5>

  ――フィー……フィユユユ……

  今も心に残る、あの人の吹く笛の音。

  ――フィユユユ……

  国を追われた私は、この世界を彷徨った。人と人との間に、生きてゆく場所を求めて……

  ――フィユユユユ……

  人々は、優しかった。私に温かく微笑みかけてくれた。けれどそれは、優しげな春のそよ風のように、一瞬私に触れては、吹きすぎてゆき、私の心に残るのは、わびしさだけだった。

  ――フィー……フィユユユユ……

  そんな時、迷い込んだこの森であの人に出会った。

  温かく満たされた、陽だまりのようなあの人に……


  ――フィー……フィユユユユ……ルルルー……

  ――「……あなたは、誰?」

  ――「君は……」

  ――「あなたには、たくさんの友達がいるのね。ほら、みんな、こんなに楽しそうに……。みんな、あなたが大好きなのね……」

  ――「……君も、仲間に入らない?」

  ――「ええ、私もあなたが大好きよ……」


 草木の笑い声と小鳥の歌声に包まれる。ここで私は、この世界で最も安らげる胸の中に飛び込んだ。美しい、この森の広場の中心で……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る