第8話
第8話: 初めての戦い
早朝、まだ薄暗い訓練場に一輝と美咲の姿があった。黒崎レイが二人の前に立っている。
「さて、始めようか」レイの声には緊張感が漂っていた。「今日は実戦さながらの訓練だ。本物の敵と戦うつもりで来いよ」
突如、レイの姿が霞んだかと思うと、一瞬で一輝の背後に回り込んでいた。
「っ!」一輝が反応する間もなく、背中を強く蹴られる。
「遅い!」レイの声が響く。「常に周囲に注意を払え。敵は待ってくれないぞ」
美咲が結界を展開しようとするが、レイはすでにその内側にいた。
「結界は強力だが、展開に時間がかかる。その隙を突かれたらおしまいだ」
厳しい訓練が続く中、二人は少しずつコツを掴んでいった。一輝の光の弾は徐々に正確さを増し、美咲の結界は展開速度が上がっていく。
(異世界での経験を活かせば、もっと楽に...)一輝の頭をよぎる考えを、彼は必死に押し殺す。(いや、ここでは新しい力だけを使わなければ)
「いいぞ」レイが満足げに頷く。「お互いの力を補い合え。二人一緒なら、もっと強くなれる」
訓練の終わり際、レイは真剣な表情で二人に告げた。
「明日の作戦、気をつけろよ。未来科学振興会は予想以上に危険な組織かもしれない」
その夜、一輝は眠れずにいた。窓の外を見つめながら、明日の作戦に思いを巡らせる。そんな時、携帯が鳴った。美咲からだ。
「一輝くん、眠れなくて...」美咲の声は少し震えていた。
「俺もだ」一輝は優しく答えた。「でも、大丈夫。俺たちなら、きっとやれる」
電話を切った後も、二人の心は通じ合っていた。
翌日、作戦開始。一輝たちは未来科学振興会が「結節点」を設置しようとしている場所に向かった。静かな住宅街の一角、古びた神社が標的だった。
「あれが結節点か」藤堂が双眼鏡で確認する。「思ったより小さいな」
神社の境内に、奇妙な形の装置が設置されていた。その周りには、黒装束の人物たちが警戒している。
「行くぞ」レイの合図で作戦開始。
一輝と美咲は神社の裏手から忍び込む。レイと藤堂は正面から注意を引きつける。
「見つかるな」一輝は小声で美咲に告げる。
しかし、その時だった。
「侵入者だ!」鋭い声が響き、一輝たちは包囲されてしまう。
「くっ」一輝は咄嗟に光の弾を放つ。数人の敵を吹き飛ばすが、まだ多くの敵が残っている。
美咲が結界を展開する。「一輝くん、私が守るから!」
激しい戦いが始まった。一輝の光の弾と美咲の結界が、見事に連携する。レイと藤堂も加わり、徐々に敵を押し返していく。
その間、一輝の心の中では激しい葛藤が続いていた。
(このくらいの敵なら、異世界での力を使えばすぐに倒せる...でも、それを使うわけにはいかない)
一輝は歯を食いしばりながら、覚醒したばかりの新しい力だけを使って戦い続けた。
そのとき、強烈な魔力を放つ男が現れた。
「ほう、賢者協会の連中か。そして新たな能力者とな」男の目が一輝と美咲に向けられる。「私は未来科学振興会の幹部、鷹谷だ。君たちの力、拝見させてもらおうか」
鷹谷の放つ魔力の波動が、一輝たちに襲いかかる。美咲の結界が揺らぐ。
「くそっ」一輝は全力で光の弾を放つが、鷹谷はそれをいとも簡単に払いのける。
(こんな時こそ、異世界の力を...いや、まだだ。ここで使えば全てがばれてしまう)
一輝の内なる声が、彼を制止する。
「まだまだだな」鷹谷が不敵に笑う。「だが、可能性は感じる。次は本気で相手してやろう」
そう言うと、鷹谷は結節点を抱えて姿を消した。残された敵たちも、煙幕を炊いて退却していく。
「追うぞ!」レイが叫ぶが、藤堂が制止する。
「待て。今は態勢を立て直すべきだ」
作戦は失敗に終わったが、一輝と美咲は確かな手応えを感じていた。
「次は、負けない」一輝が美咲に告げる。心の中では、異世界の力を隠し続けることへの迷いが渦巻いていた。
美咲も強く頷いた。「うん、一緒に強くなろう」
帰路につく一行。一輝は静かに決意を固めていた。
(異世界の力は、最後の切り札だ。仲間たちを守るため, 本当に必要な時まで温存しよう)
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