第5話
第5話: 異世界の記憶
カフェのテーブルに向かい合って座る一輝と美咲。二人の間に漂う微妙な緊張感。一輝は、どこから話を始めればいいのか迷っていた。
「篠崎くん、昨日のことなんだけど...」美咲が沈黙を破った。「本当にすごかったわ。あの時、どうやってあんなに素早く動けたの?」
一輝は少し考えてから答えた。「正直、自分でもよく分からないんだ。咄嗟のことで...」
(異世界での経験を話すわけにはいかない)
美咲は一輝の言葉を待っているようだったが、それ以上の説明はなかった。
「そう...」美咲は少し残念そうな表情を見せたが、すぐに笑顔に戻った。「でも、私を助けてくれてありがとう」
会話が続く中、一輝の脳裏に異世界での記憶が蘇る。魔物との戦い、仲間たちとの絆、そして最後の決戦。全てが鮮明に甦ってくる。
「篠崎くん?」美咲の声で我に返る。「大丈夫?急に呆然としちゃって」
「ああ、すまない。ちょっと考え事をしていて」
美咲は一輝をじっと見つめた。「篠崎くん、何か悩みがあるの?」
一輝は言葉を選びながら答えた。「最近、自分の中で何かが変わってきている気がするんだ。でも、それが何なのか、どう向き合えばいいのか分からなくて...」
美咲は真剣な表情で聞いていた。「分かるわ。私も最近、似たような感覚があるの」
その言葉に、一輝は驚いて顔を上げた。「君も?」
美咲はうなずいた。「うん。何か特別な力が目覚めそうで...でも、怖くて誰にも言えなかった」
二人の視線が絡み合う。そこには、互いの中に同じものを見出した安堵感があった。
その時、カフェの外で騒ぎが起こった。交差点で車が衝突し、火花を散らしている。
一輝は咄嗟に立ち上がった。体が勝手に動く。
「篠崎くん!」美咲の声が背中に届く。
現場に駆けつけた一輝は、瞬時に状況を把握した。異世界で培った判断力と行動力が、無意識のうちに発揮される。
燃え上がりそうな車から運転手を救出し、周囲の人々を安全な場所に誘導する。全てが数分の出来事だった。
事態が収まり、一輝が美咲のもとに戻ると、彼女は驚きと尊敬の眼差しで一輝を見つめていた。
「すごい...やっぱり、篠崎くんは特別な力を持っているのね」
一輝は答えに窮した。「いや、これは...」
その時、携帯電話が鳴った。藤堂からだった。
「一輝くん、今の出来事を見たよ。もう迷っている場合じゃない。君の力が必要なんだ」
一輝は深く息を吐いた。もう逃げられない。自分の中に眠る力と向き合う時が来たのだ。
「分かりました。お会いしましょう」
電話を切ると、美咲が不安そうな表情で一輝を見ていた。
「篠崎くん、何かあったの?」
一輝は決意を固めて答えた。「ああ、大切な話がある。美咲、君にも聞いてほしいことがあるんだ」
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