「病気はなんで私を選んだの?」
《陽下明日香》
あれから少し時間が経った。
「いつ伝える?」夫がそう聞いてくる。なんでこんなに冷静なんだろうと不思議に思った。私は今も信じれていない。到底受け入れられない。神も仏もありはしなかった。
「早いほうが、いいと思う」途切れ途切れに伝えた私の意見に夫は賛同した。
それだけ話して私達は喜与の病室に向かった。
喜与はもう目を覚ましていた。
「喜与・・・!!大丈夫なの?体調は??」喜与が生きていて私のそばにいる。その事実がたまらなく嬉しかった。
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね。」喜与が申し訳無さそうな笑顔を見せた。夫もすごく安心した様子で喜与の頭をなでた。
「喜与に話さないといけないことがあるんだ。」そう口に出したのは夫だった。
「ちょっと、早すぎるんじゃないの。いくらなんだってまだ・・・」止めたはいいものの「やっぱりなし」はできなかった。
「どうしたの?病気のことでしょ?」少し笑いながらも不安そうな顔を浮かべる喜与を見ると辛くてしょうがない。言うのをためらいたくなった。でも逃げるわけには行かない。
「さっき喜与が寝ているときに先生に呼び出されてね。そこでのことなんだけど」
この先に繋がなければならない言葉を作ろうとすると涙が頬をつたっていた。それでも1番辛くて苦しいのは喜与なんだと自分を律した。
「喜与はこのままだとあと半年しか生きられないかもしれないらしいの。」
「でも!最悪の場合の話で必ずそうなるわけじゃないからね・・・!」私の足元にいくつもの水滴が降ってきた。喜与の絶望している顔を見るのが嫌すぎてただうつむいていた。
「これから半年間は治療よりも喜与のしたいことに時間を使おうって事になったんだ。」そんな私を見て夫が付け足した。
喜与は呆然と自分の身体を見つめていた。
「__んで。」
「え?」そこでやっと顔が上がった。その時目にした喜与の顔は忘れられないものだった。
「なんで病気は私を選んだの?」
喜与をまとう布団が涙でどんどんしわになっていく。
「私、まだまだやりたいことあったのに。なんで。なんで私なの・・・!」喜与のこんな感情的なところは初めて見たかもしれない。いつも温和な喜与の気が動転していた。
「1人にしてほしい・・・。」喜与はその後それだけ言ってなにも喋らず泣いていた。
「廊下にいるから何かあったら声かけてね」それだけ伝え私達はドアを開けた。
廊下は病院特有の匂いをまとい少し暖かかった。
廊下に出てすぐ私を襲ったのは後悔だ。
知らないほうが幸せなことは世の中ご万とある。なのに喜与を私のせいであんなに苦しめてしまった。
「あれでいいんだよ。喜与はきっと乗り越えられる」私の感情を見透かしたように夫は私の肩に手を乗せた。そんなふうに強がる夫も泣いていた。喜与と一番仲のいい看護師の上山が色々と察してくれて、タオルを持ってきてくれた。
「きっと大丈夫ですよ。知り合って数ヶ月の私でも凄くショックです。でも喜与ちゃんと話していて思うんです。この子はほんとに強い子だなって」
「それに、弱った子を全力で治すのが医者で、支えるのが看護師です」上山の言葉でまた涙が溢れ出す。看護師さんはそれだけ言ってすぐに帰っていった。
その次に現れたのは優慈くんだった。
「喜与は・・・?」私達の泣き顔を見て嫌なことを想像したのだろう。慌てて私達の元まで走ってきた。
「大丈夫。目を覚ましたし、体調も悪くないそうだよ。」夫がそう答えたからだろう。先程までの引きつった顔が一気に緩んだ。
「ならなんで泣いているんですか・・・?」
「あきらかに悪い方のなにかがあったような感じじゃないですか」
現れた時点で逃げられないだろうと思ってはいたが喜与の許可もなしで言っていいものなのだろうか。そう思っていたら部屋から声がした。
「優慈・・・?そこにいるの?」
「喜与・・・!」
優慈くんは慌てて部屋に入っていった。
そこから優慈くんが出てきたのは20分ほどあとだった。
部屋の中でなにを話しているのかはわからないが2人の笑い声や泣き声、時には叫び声のような声が時折聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます