本音

「なんで優慈がここにいるの・・・?」学校はどうしたのだと聞きたいのだろう。

「俺、喜与に話したいことできてさ、学校サボちゃった」俺の返事に喜与はしばらく答えなかった。車椅子を押している看護師が気まずそうな顔でこちらを見つめている。しびれを切らした看護師が喜与を押して病室へと歩き出した。俺も黙ってついていく。

病室について喜与をベッドに寝かせたあと、その看護師は俺に会釈だけして退室した。

「今まで何にもわかってなくてごめん」

「喜与の優しさに漬け込んで気使わせて・・・」

俺がそう言うと喜与の顔が涙で崩れていった。どれだけ喜与に背負わせてきたんだろう。1人で闘わせて、本当に最低だ。

「これからは俺が喜与を支えるから」

「なにも遠慮せず頼って、1人で闘おうとしないで」そう言いながら俺は喜与の頭をなでた。これからは頼ってほしい。喜与とは家族みたいなものだから。そう伝わるように優しく抱き寄せた。そこで初めて喜与が口を開いた。喜与から出てきた言葉はこれまでの苦しみを初めて晒すような、考えてもいないようなことばかりだった。

「ちがう。私は自分が許せなかっただけで優慈で苦しめられたなんか思ってないの」そこから喜与は泣きながら必死に俺に訴えた。誰かに助けてもらわないと生きていけない自分が許せないのだと。皆を笑顔にしたいのに、その皆から笑顔を奪っている自分が許せないのだと。

俺は喜与の言っていることがはじめは理解できなかった。

「笑顔を奪うってなんだよ。」

「じゃあ喜与は俺が病気にかかったとき、笑うのかよ。」喜与の言葉をそのまま受け取った俺は思ってことを喜与にぶつけた。初めて喜与と俺が本音でぶつかりあった瞬間だった。

「笑わない。笑うわけない!!」そこまで言って喜与はやっと気づいたらしい。そこから喜与は語った。

「もうバレちゃってるから開き直るんだけど」少しためらったように間を開けたがすぐに続けた。

「髪の毛なくなっちゃったんだ。抗がん剤の影響で。その時はすごく悲しかったけど、すぐに優慈にだけは隠さないとって思った。これ以上心配かけたらだめだって」

そこまで言って彼女は言葉を失った。俺の腕にまで涙が流れてきていた。この涙はどっちの涙かわからなかった。

「心配かけていいから1人で闘わないで」

これだけはとにかく伝えたかった。そこから俺達は2人で夢の中へ旅に出た。





__現在__

今日は喜与が久しぶりに学校に来る日。喜与は車でくるから俺は校門で待っていた。

喜与の家の車が見え校門前に停まる。喜与が1人で車から降りてきた。なんと車椅子ではなく立って歩いていいと許可が降りたのだ。自分の足で歩いていることに感動しているのか喜与はしばらく自分の足元を眺めていた。

「行こう。喜与」それでだけ言うと喜与はゆっくり足を上げた。

教室につくと皆が喜与の周りに駆け寄った。

喜与の周りはやはり笑顔で包まれた。皆が喜与に明るく声を掛ける。喜与もそれに嬉しそうに答えていた。お昼休み。喜与は別の友だちとご飯を食べていた。それをある程度の距離から眺める俺。前の日常が戻ってきたようだった。

だが楽しいだけじゃ終わらせてくれなかった。

5時間目が始まってすぐに喜与が倒れたのだ。急いで救急車を呼び搬送されていったが、その後の教室の空気は重かった。

なんとか放課後になり俺はすぐに病院へ向かった。


そこで目にしたのは病院の廊下でわんわん泣き崩れている喜与の家族の姿だった。

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