衝撃
《陰下優慈》
__喜与が倒れる約3ヶ月前__
喜与の様子がおかしい。明らかによそよそしい態度で俺を拒絶しているようにさえも見える。それにニット帽をしている。以前まではしていなかったし
「髪がぺたんこになっちゃうじゃん」と帽子を被ることを嫌がっていた喜与が一体何があったのだろう。予想はつくが安易に聞いていいものなのかがわからない。俺の予想が正しければ相当な傷を心に負っているはずだ。そのことを真剣に考え込んでしまっていて気がつくと無言の時間を生み出してしまっていた。すると窓から外を眺めていた喜与が俺の方を見て口を開けた。
「文化祭準備で大変でしょ?」
「早く帰ったほうがいいよ」にこやかに笑いながらそういったつもりなのだろうか。笑顔がとんでもないくらい引きつっている。その笑顔から
「話したくないから絶対に触れてこないで」
「お願いだから1人にして」という音のない声が聞こえてきた。
あれから俺は大人しくすぐに帰った。帰り道、喜与の表情が頭から離れなかった。
あんなに苦しんでいる喜与の顔を初めて見るどころか、想像したこともなかった。
その日の夜。ベッドに潜りながら俺は考えていた。
「なにが彼女を苦しめているのだろう。」病気は治る確率のほうが高いと喜与は言っていた。喜与が俺に嘘を付くワケがない。そうなると周りの環境・・・
ハッとした。
冷静に考えてみれば難しい話ではない。いきなり難病指定されている病気を患い、抗う暇なく始まった入院生活。苦しくないわけがない。辛くないわけがない。
いつも笑顔で俺を迎えてくれる喜与に甘えていたのだ。気を使ってやらなければいけない俺が喜与に気を使わせて無意識のうちに傷つけていたんだ。いきなり病気になった喜与が健康体の俺のことをなんとも思わないわけがない。
「最低なことをしたな・・・」
その日の寝付きの悪さは過去1番のものだった。
翌日のことだ。
俺は今日、喜与に謝りに行くと決めていた。本当に申し訳ないことをしたと思っている。昨日の夜に考えていたことはおそらくあたっているだろう。俺が喜与を苦しめているのだ。今もなお。喜与は優しいから俺が今日なにも考えずに会いに行ってたとしても受け入れてくれただろう。何も言わずに1人で我慢しながら。喜与の優しさにつけ込んで勝手に支えている気になっていた自分が情けなくて仕方なかった。支えられていたのはいつだって俺だったのだ。
午前の授業が終わり俺は昼休みに友達に
「だるいから帰るわ。先生にいっといて」と友達に言い残してから学校の外へ出た。
急いで病院へ向かう。電車に30分ほど揺られたあとは坂道を駆け上る。その先に喜与のいる病院は見えてくる。
昼間の病院は見慣れている夕方の病院とは少し雰囲気が違って見えた。なんだか希望に満ち溢れたかのような太陽の日差しを感じる。山の中だからか自然も多く、緑に溢れている。少し感心したあと目的を思い出しすぐに病院へと入った。
すぐに受付を済ませて喜与のところへ行こう。そう思って受付カウンターへ行こうと足を上げたときだった。
「__でねー。私は病気が治ったら超有名な小説家になるの!」
喜与だ!そう思い振り向くとそこには頭皮をむき出しにした見慣れた顔の女の子がいた。
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