ビジョン

《陰下優慈》

俺の幼馴染の喜与がある日突然がんになった。

「がん」というワードの効果なのか不治の病を連想した。

喜与は元気で明るくて「病気とは無縁」のような子だった。俺と喜与は生まれたときから時間を共有している姉弟のような関係だ。喜与のお母さんから俺の母に電話があって俺に伝わった。それからは毎日病院に通っている。俺は親族ではないからあまり一緒にはいられないけど手紙を渡してもらったり、おばさんたちと一緒に入れてもらったりしてコミュニケーションを取っていた。俺の前の喜与は病院服を着ているだけのいつも通りの喜与に見えた。明るく元気で皆を笑顔にしている。喜与が一番つらいはずなのにそれを感じさせまいと言う意思をひしひしと感じられた。今思えばこの優しさに何度救われたのだろうか。喜与はいつも周りの幸せを1番に考える。でもその裏では誰よりも自分に寄り添い、ひたむきに向き合っているのではないだろうか。俺は俺にできることを精一杯やろう。そう自分に誓った。

喜与は小説家になって皆を笑顔にしたいと言っていた。だから国語の授業を誰よりも熱心に聞いた。どんな些細なことでもメモに残し取りこぼしがないよう努めた。当時の喜与は

「絶対に治る。治して見せる。」と俺の顔を見るたびに1度は口にしていた。

実際、治る確率のほうが高いと喜与から聞かされていた。それに彼女があまりにも余裕そうに未来のことについて話すからいつの間にか、当たり前に、そうなるのだと思いこんでしまっていた。病気に勝ったあとの明確なビジョンが彼女にはあったのだろう。俺達が喜与の病気のことで精一杯のなか彼女はひとつ先の未来を描いていた。その心の持ちようは誰よりも強くたくましいものだった。

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