Sceaf 12

……私は、宮崎くんを、傷つけてしまったかもしれない。

その出来事が頭の中でぐるぐると回る。


帰りの会が終わりみんなが教室を出ていく中、朝日奈くんに腕を掴まれた。


そして教室に誰もいなくなったとき、朝日奈くんが私から手を離した。



「……お前」


「……私、宮崎くんを傷付けてしまったかもしれない」


「……は?」



ぽろりと、涙がこぼれる。



「……私、宮崎くんが悪く言われたの許せなくて。だからあんなこと言っちゃった。私、宮崎くんのこと何にも知らないのに。友達ですらないのに」



自分のことを知ったかのようにただのクラスメイトに語られて。そんなの、いやに決まってる。


俯いて、涙を袖で拭きながら鼻をすする。



「……私が言ったことでクラスの雰囲気を壊しちゃったし、事を大きくしちゃった。それって、宮崎くんの居場所を奪う行為で……」



宮崎くんが学校に来ていない理由はわからない。だけど、たとえどんな理由があったとしても、私が宮崎くんの居場所を奪ってしまったかもしれないことには変わらないのだ。


腹が立った。そんな単純な理由で言ってしまった。宮崎くんのことをかばったつもりでも、その行動は結局自分のためだったんだよ。


そんなことに、冷静になった今気が付いたって遅い。宮崎くんのことを、気持ちを考えられなかったのは、私のほうだ。


そんな私に、宮崎くんを好きでいる資格は…………ない。



「……佐倉」



どんな感情か読み取れない声で呟いた朝日奈くんの顔を、私は見れなかった。



———これが、私の人生最大のやらかし。失敗。


……宮崎くんを、傷付けてしまったこと。




小学校の卒業式には宮崎くんも来たけど、私はその姿すらあまり見れなかった。

そして、中学の入学式を最後に宮崎くんは姿を消してしまった。


5月の始めの朝、先生から学年へ向けて宮崎くんが転校したことを告げられた。本人からの報告はなく、知ったときにはもう、この学校にはいなかった。



それから、私は人と話すことに抵抗を持つようになってしまった。


高校には、小中学校の同級生はほとんどいない。もちろん、環名ちゃんも私の過去を知らない。


環名ちゃんは大切な友達だから、話したい。だけど、それで幻滅されるのが怖かった。

お父さんもお母さんも知らないのは、心配をかけたくなかったから。



だから私は、この出来事を心の深く深くにしまうことにした。宮崎くんへの恋心とともに。

忘れようとした。


宮崎くんは、私なんかが好きになっちゃいけない人だった。



渡されてから一回も見ていない小学校の卒業アルバムとあの月色のマフラーを、棚の奥にしまいこんで。


もう二度と思い出さないように。思い出したらまた、好きになっちゃいそうだったから。


私が忘れちゃいけないのは、相手を傷つけないこと。それだけ。

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