Sceaf 6

「穂月、合コン行かない!?」


「えっ、合コン?」



放課後、帰る支度をしていたら、席に目をキラキラさせた環名ちゃんがやってきた。


合コンって……。あの合コン?



「花の高一も後2ヵ月で終わりなんだよ!?あっという間!青春しなきゃ!!」



私の背中をバンバン叩きながら、興奮気味に叫ぶ。

青春……か。それに合コンってことは、好きな人を作るってこと……?


恋人、とか。



「う、う~ん、私はいいかな~」


「お、お願いっ!数合わせってだけでも!」



環名ちゃんがぱんっと両手を合わせて懇願してくる。

これだけ頼まれちゃったら、なー……。

正直、ちょっと抵抗はある。けど。



「わ、わかった。いく。私は数合わせってことでいいんだよね?」


「うん!ありがと穂月!!」


「それで、それはいつなの?」


「今日!」




ということで私たちは今、学校の最寄り駅から何個か行った駅の近くのファミレスにいる。

女の子は、私たち二人以外にもう二人。環名ちゃんの友達らしい。



「うわ~っ、みんなめっちゃかわいーね!」


「今日はよろしくね」



目の前の席には、ちょっと派手目な男の子が三人。あんまり話したことのないタイプだ。


でもでも、私は今日ここにいるだけでいいわけだし。おいしいもの食べてるだけでいいんだよね。うん。


ちらりと隣の環名ちゃんを見ると、楽しそうに男の子たちと会話を弾ませていた。

環名ちゃん本当は、女子高生らしいっていうか、こういうこと、したかったのかもしれない。


私に恋愛をしたい気持ちがないことを、環名ちゃんは分かっていたのかも。


……本当はないんじゃなくて、ならない。恋ができないんだよ、私は。



「あ、待ってて。もうすぐでねー、もう一人来るから」



私の斜め左に座る男の子がニコッと笑う。

そういえば私の前の席だけ空いている。四人って聞いていたからおかしいなとは思っていたけど。



「あ、来た来た。こっちこっち、あさひー」



あさひ?あさひくんっていう名前なのかな。

男の子が大きく私の後ろへ向かって手を振る。


どんな人なんだろうって、ちょっと気になっていたら。



「もー、遅いよ~あさひ」


「ごめんごめん~」



この声。顔。




「朝日奈くん……」




私はびっくりして、思わず腰を浮かせる。


あ、と口を半開きにして彼——朝日奈くんがこっちを見た。



「え……佐倉?」


「え、あさひ、この子と知り合い?」



さっきの男の子が問う。



「知り合いっつーか、中学んときの同級生。……ちょっと、佐倉」


「わっ」



私は再会したばかりの朝日奈くんに手を引っ張られる。

そして何も言えないまま、席を離れた。

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