Sceaf 5

 そのとき、目の端で何かが映った気がした。

 いや、見えているんだから当たり前のことなんだけど。


 だけど、もっと特別なものな気がする。


 立ち止まって辺りを見渡してみるけど、特に何も見当たらなかった。

 ……勘違い、だったのかな。



「あの」

「えっ」



 突然優しい力で肩を叩かれ、声をかけられた。

 振り向くと……。



「えっ、ハルさんっ!?」



 そこには、私が幻だと思っていたハルさんが立っていた。


 うそ、だってハルさんは、存在しないはず。なら、人違い?



「すみません、佐倉さん」



 と、私の名前をあの日の声で呼んだ。


 じゃあやっぱり、ハルさんは本物……?なら、あの真夜中の出来事も本当のことだったんだ……。


 ハルさんは、私があげた灰色のマフラーを手に持っていた。そして、私に差し出す。



「いつか会ったとき、渡そうと思っていて」


「でも、そしたら、ハルさんが寒くなりませんか?」


「大丈夫、ですよ」


「うーん、でも雪降ってるし……。あ、なら、ハルさんが自分でマフラーを買うまで持っていてください」



 私はなぜか必死になってマフラーを受け取らないでいる。ハルさんに、持っていてほしいと思っている。



「……分かりました」


「じゃあ、買ったら連絡ください。あ、よかったら、連絡先……」



 流れでスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。

 すると、ハルさんは、気まずそうな表情をした。



「……ごめんなさい。いろいろあって、連絡先は交換できないんです」


「あ、そうでしたか……。こちらこそ、すみません。ぐいぐいと」



 ハルさんの言葉は、嘘には思えなかった。


 ……でも、ハルさんがいやなら、私は諦めるしかない。ハルさんの気持ちが大切。


 雪雲でおおわれた空はとても暗く、ハルさんに濃い影がかかった。



「じゃあ、また会ったとき。会えなかったら、貰ってください」


「……すいません」



 申し訳なさそうに謝られると、こっちも申し訳なくなってしまう。



「いいんです。話しかけてくれて、ありがとうございました」


「……いえ」



 私は気持ちを晴らすように、笑顔で微笑む。

 二度目のさよならだって、笑顔でいたいから。


 そうして別れ、私は再び駅に向かう道を歩いて行った。


 ――—そういえばハルさん、この前と同じ服装だった。

 私服……ってことは、大学生とかかな。


 私から見ればとても若い。高校生って言われてもわからないくらい。だけど制服じゃなかった。私服の学校……なんてこの辺にはないし。


 考えていれば駅について、改札を通りホームに行く。

 待っていれば、すぐに屋根に溶けた雪水を乗せた電車がやってきた。

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