Sceaf 4
「それって、なんか少女漫画みたいだねー」
「しょ、少女漫画?」
私は口に卵焼きをほおばりながら、聞き返す。
次の日のお昼休み。友達の
そしたら、こんなことを言い出したのだ。
「公園で二人夜空を見上げるなんてシーン、5万回は見たわ」
「え、そ、そんなに!?」
「たとえよ、たとえ」
お箸を上下にパカパカさせながら環名ちゃんは不敵に笑う。
……こういうの、現実ではありえないのかな……。
「……まぼろし、だったのかも……」
「そこまで話しておいて今更!?」
「だってそもそも、あんな遅い時間に公園で月見てるなんてありえないもんね。よく考えなくても分かるよ」
「まあ、それは……」
環名ちゃんから、否定できない、というような返事が返ってくる。
そうだよね。やっぱりあのとき、寝過ごしたせいで気が動転していたかも。それに時間は深夜真っ只中。だから、見えないはずのものを見て、勘違いしたのかも。
それなら、納得がいく。
「だけどさー、マフラーはないんでしょ」
「あ、うん……」
そう。あの出来事は幻のはずなのに、マフラーはないのだ。
……ハルさんにあげた“はず”のマフラーが。
「どっかで落としちゃったのかな」
「なにそれ〜っ。もうっ」
私が幻で片づけようとすることに、環名ちゃんは納得がいかないみたいだ。
でも、そんなこと言われたってあの出来事が真実だという決定的証拠はないわけで。
だからって、確かめる方法もない。
「環名ちゃんごめんね。この話、止めにしよっか。マフラーは新しく買うよ」
そう言って笑うと、環名ちゃんは複雑そうな表情で頷いた。
電車で寝過ごしたあの日から、2週間ほどが経とうとしていた頃。
一月ももうすぐ終わる今日は、雪が降っていた。
でも積もるほどじゃなく電車も止まってないみたいで安心する。私はいつも通り下校することにした。
あれからマフラーはなんだかんだ忙しくて買えていない。首元が寒風に晒されているというのは、少し辛い。
だけど私は、もしあの出来事が本当の話なら、あの人———ハルさんにマフラーをあげたことを後悔していなかった。
むしろ、うれしいくらい。
どこかで、暖かくなってくれてるってことだから。一瞬でも、私のマフラーのおかげで幸せになってくれてることを考えると、私も幸せな気分になるのだ。
ぽつりと、雪が頬にあたる。冷たい。
そういえば、雪なんて久しぶりだなあ。最後に降ったのは、小学六年生の冬だった気がする。たしか———。
……思い出せない。たしかに雪は降ったはずなのに、それは私の中で結果として刻まれていて、情景は浮かんでこない。
学校から駅までは徒歩15分。近いわけじゃないから、朝は遅刻が許されない。だからこそ、あの日寝過ごしたのが帰りでよかった。
足元は、ほんのり白いのが見える。でもすぐに溶けてしまう。
見ていると、ちょっともどかしい気持ちになる。
―――私が溶けないように、してあげられたらいいのに。
……ううん。雪にとって、溶けないことが幸せとは限らない。「雪さんにとって、溶けないことは幸せですか」って聞かないと分からない。
全部、そう。自分の良いと思ってやった行動が、必ずしも相手に幸せをもたらすとは限らない。
だから、私は……。
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