Sceaf 2

「ありがとうございました」



 私はお礼を言って、バタンと扉を閉める。

 着いたのは、自宅の最寄り駅より4つ前の無人駅だった。


 正直、ここからじゃだいぶ遠い。でも、歩くしか私に手段はない。周りは田んぼだらけでしんとしている。


 これなら、おまわりさんに見つかることもなさそう。

 私は、線路に沿って歩き出した。



 1月の冷たい風が、私の身体に吹き付ける。

 まったく変わることのない景色に、私は10分程度で飽きてしまった。

 そんなこと言ってる場合じゃないのに。


 両親になんて説明しようか。今、私の頭の中はそれだ。

 普通に寝過ごしたって説明すればいいんだろうけど。


 Q なんで寝過ごしたの?

 A ね、眠かったから?


 Q 連絡は?なんでしてこなかったの

 A スマホ、充電切れちゃってて……。公衆電話もなかったの。


 Q 駅員さんには言わなかったの?

 A い、言ってないです。ごめんなさい。


 Q こんな時間に女子高生が出歩いていたら危ないし、補導されるわよ。ちゃんとわかってるの?

 A 分かってます。ごめんなさい……。



 ……っていうところまではシュミレーションできた。

 実際は、もっと言われるかもだけど……。

 まあ、仕方ないよね。私のせいだし。反省のためにも、怒られよう。


 そうして、先の見える一本道をずっと歩いていった。



 田んぼ道が終わり、少しずつ建物が増えてきた。


 そういえばさっき、二つ目の駅を通り過ぎた。きっと半分まで来たんだろう。次の次の駅が、私の家の最寄り。


 だけど……結構歩いたせいでもう足が限界。1時間以上は歩いている気がした。

 これじゃあとっくに、12時なんて過ぎている。



 何とか頑張って出来るだけ早歩きしていると、道路を挟んで向こう側に公園らしきものが見えてきた。


 あそこだけ異様に街灯が多くて明るい。ちょっと、さすがに休憩していこうかな。


 だけど気持ちがはやるばかりで足がうまく動かない。もつれながらも、私は何とか公園の入口へたどり着いた。



 するとすぐ近くに、長く大きなボックスが見えた。


 透明で、中には緑のものがある。

 もしかしなくても、あれって公衆電話?


 さっきまで長く長く終わりのない真っ暗闇だったのに、急に光がさしたみたいだった。

 これで、連絡ができる!迎えに……来てもらえるかはどうかは分からないけど。


 想像していたよりも大きな公園内に驚く暇もなく、私は公衆電話へ向かって足を動かす。



 ボックスの前まで来て、私はその扉の取っ手に手をかけた。


 そのとき。



 急に、ぱあっと辺り一帯が明るくなった。


 何事かと、私は衝動的に後ろを振り返る。


 明かりの正体は、月。



 そして、その光が当たらない場所に、人が立っていた。

 うそ、こんな時間に人がいるなんて。



 造られたみたいなきれいなシルエットに、私は釘付けになる。


 すると光が動き、今度は“その人”へと当たった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る