Scarf 1

 寝過ごした、と思った。

 ガタガタと音を立てて走る三両編成の電車。



 午後10時に終わった塾の後、私はいつも通り電車に乗って帰っていた。


 だけどいつの間にか寝てしまったみたいで、目が覚めたら終点から三番目の駅に向かうところだった。


 私が下りるはずの駅は、もう10いくつも前。


 とりあえず、降りよう。



「次は~……」



 車内に、停車駅のアナウンスが流れる。


 周りには、もうほとんど人がいない。前に大きな駅があって、きっとそこでみんな降りたんだろう。


 電車が止まりドアが開く。私はカバンを抱えて降りた。



 今、何時だろう。近くの時計を確認すると、11時15分だった。


 ということは、今のが終電かも……。まずい。これじゃ、帰れない。

 背中に、冷や汗が流れる。


 とりあえず、お母さんに連絡しなきゃ。

 私はカバンからスマホを取り出し、電源を付ける。


 でも……なぜか電源はつかない。

 もしかして、切れたのかも。

 うそ、こんなときに。どうしよう。


 きっと、お母さんたち心配してるよね。

 だけど連絡手段がない限りは、何もできない。


 私はお財布の中身を確認して、改札へ向かう。

 ICカードに1500円あったので、そのまま改札は通れた。


 でも、これからどうするか。


 ここは田舎の駅。公衆電話なんて見たところどこにもないし、たとえ連絡できたとしても迎えに来てもらうとかは絶対無理だ。


 だって……ここ、県外だもの。



 手持ちは2000円。これじゃあ家までタクシーではいけない。


 バスなんて行き先が限られているから乗れないし。


 でも、11時過ぎに高校生が外を歩いていたら補導されかねない。だからせめて、行けるところまではタクシーで行こう。


 そう決意した私は、駅の近くにたまたま止まっていたタクシーに乗り込んだ。


「2000円で、出来るだけ遠くの駅までお願いします」


 私は、黒革製のカルトンに1000札を二枚置いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る