第21話 祖国への旅路 後
祖国へと向かう馬車の中は、私とその隣に腰掛けるロシェ。そんな様子を微笑ましく見守ってくれるジェーンはやっぱり天使よね。
そして馬車の中にはもうひとり。
「まさかグレイさんも付いてきてくれるだなんて」
「たまたま用があっただけだ」
グレイって本当に謎よね。神出鬼没と言うか……。そしてグレイがロシェの異母兄ならば、少なくとも300年は生きているのである。
「あの、グレイさん。ずっと聞きたいことがあったんです」
ロシェの隣だけど……ロシェを交えない方がロシェが寂しがりそうなのだもの。だから……いいわよね。
「何だ」
長い旅路である。少しは今まで聞いておきたかったことも聞いておきたいもの。
「あの……ロシェが責任を取るための願いって……何なのかなって」
それはロシェに聞くべきか、それとも……。
しかしグレイはその願いを私のために使ってしまったのだ。
「……それは、ロシェが俺と無理矢理主従の契約をしたことに対する責任だ」
グレイはロシェと主従の契約を交わすことで保っている。その関係性は兄と兄が大好きな弟で主従とは正反対だけれど……てっきり兄のためを思ってロシェはグレイと契約したのだと思っていた。
だけど……無理矢理……。
「そうしないと、グレイはグレイではなくなる」
つまりグレイは己の中に流れるヴァンパイアロードの血に呑まれて狂ってしまう。
やっぱりロシェはグレイを助けたかったんじゃない。
「俺はそんなことは望んでいなかった。こんな呪われた身、狂気に呑まれてなくなればいいと思っていた」
呪われた……って……それは先代ロードが人間を拐ってグレイを産ませたと言う、出自のこと……?
「けどロシェは主の特権を使ってそれをさせなかった」
そりゃぁグレイが大好きなロシェだもの。ロシェはグレイの主になることを望んではいなかっただろう。
だけどグレイを失いたくなくて、そうした。
「だから俺を生かした責任を取れと告げたら、ロシェが何でもひとつ、俺の願いを叶えることになった」
「……その願いを、私に使ってくれたのはどうして……?」
もしかしたら私もロシェをロードとして恐れるかもしれなかったのに。
そうしたら、きっとロシェが傷付くことになる。
「お前は……ガーネットだったから」
「……え……?」
グレイはお父さまに依頼を受けた以上、ガーネット公爵令嬢だったことも知っている。しかし下位ヴァンパイアたちの飢えた様子にすら脅えた私がロシェに脅えないと言う確証はどこにあったの……?
「ロザリア・ガーネットと言う女を知っているか」
「ロザリア……ロザリアって……魔女ロザリア!?」
ガーネット公爵家の系譜の中にいた、ただひとりの魔女。魔女と言う存在は異質なものである。どうしてガーネットの血筋に魔女がいたのか……詳細は分からないが、遠い昔に魔女の血が入っていることは事実である。そして魔女は……ヴァンパイアハンターではなく、また人間からも遠巻きにされる恐れられる存在。
前世の感覚からしたら魔法使いだとテンションが上がるが、こちらの世界では得体のしれない呪術を生業とする存在だ。
詳細は分からないが、少なくとも私の瞳の色は……魔女の隔世遺伝だと言われる。
「あの女には仮がある。だからそうした」
「……」
仮って、私をロシェの妻にすることに値するくらいの仮だなんて、想像が付かないわよ。
いくら祖先に魔女がいるからって、私の代になれば魔女の血筋なんて薄れているし、魔女の知識すらないのよ……?
それにロシェも……どうしてか考え込むような表情をする。
「ロシェ?」
「……何でもない。久々に……少し思い出しただけだ」
しれっとそう答えるけど……ロシェまで知ってるほど、有名な方だったのかしらね……?
少しだけ、ロザリア・ガーネットのことを調べてみたいと思った。
そしてほかには祖国の話だとか、まだまだ知らないローゼンクロスのことを話ながら、馬車は祖国に到着した。
ロシェにエスコートされながらゆっくりと馬車を降りれば、私たちを出迎えたその顔に、思わず目頭が熱くなる。
そしてその腕の中に、迷わず飛び込んだ。
「お父さま……!」
「シャーリィ!」
それは待ち望んだ、お父さまとの再会だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます