第20話 祖国への旅路 前
――――エメラルド王国からガーネット王国と名を改めた王国。
エメラルド王国時代は、それはもう他国からの嫌煙が酷かったのだと思う。
国交だって微々たるものしかなく、ただお父さまが宰相であったからギリギリで孤立しなくて済んでいた。
他国のパーティーに招かれるだなんてことは、稀で、招かれたとしてもお父さまと私である。
そこにアイリーナが無理矢理行こうとするものなら、相手国からお叱りを受けることもしばしば。
だが旧王家がお父さまを謀反人にして追い出し、お父さまがやり返して旧王家を打倒したことで、各国もその武勇とお父さまの宰相時代の手腕を称えて、新たな国と王の誕生を祝っている。
「でも、ヴァンパイアロード自身が祝いに行くってのは……前例があるのかしら」
多くの国で顔すら謎だったロードよ……?
「あるわけないでしょう、勉強くらいしてください」
「そ……それは私の勉強不足だけど……相変わらず辛辣ね、ロイド」
祖国へ祝辞を届けに行く打ち合わせの場では、ロイドを始め、ヴァンパイアたちが集まっている。
「辛辣でなくなる必要なんてありますか?」
な……ナイデスネ。
関係上は義母と夫の連れ子であるが、ロイドの方が年上だし、私が書庫のお仕事をする限りは上司だし……そもそも、ご主人さまにしか懐かないタイプの番犬なんだもの。
それでも、以前よりは意見を言い合える関係になれたかも。ロイドからの言葉は辛辣だが、敵になることはないって分かるもの。
「むしろロードは……他国に行くことなど稀なんですよ。そのロードの特性上」
たとえヴァンパイアであったとしても萎縮してしまうロードが人間の前に現れようなら、恐らくそれ以上の恐怖を抱くだろう。だからこそロードは普段、人間の前に姿を現さない。
現すとしても人間の国から嫁いできたときの挨拶程度だ。
「でも……本当にロシェは付いてきてくれるの?いいの?」
私は里帰りとお父さまとの再会のために行くとはいえ……ロードのロシェが付いてくると言うのは……。そして私の言葉には、会議室に集まったヴァンパイアたちも頷く。
「それもそうです」
「ロードが人間の国に自ら行かれるなんて」
「妃殿下の仰る通りですよ」
城の官吏でもある彼らは、私が人間だと言うだけであからさまに見下しはしなかった。もしかしたらそう言うメンツを呼んでいるのかもしれないし……何故か書庫番の先輩たちもいるし。そりゃぁ私が里帰りしたら、書庫番のシフトも調整しなきゃだけど……何故先輩たちまで。
「ロードが人間の国を訪問したら、その間ローゼンクロスは腹黒の管理下に置かれますよ」
と、マリカ先輩。
「そうですよ。ジェーンさまを残してくれるならまだいいですけど」
続いてダン先輩。
「うっわぁ……腹黒王国になるぅー……」
最後のシメがエース先輩。
うぅ……先輩たちの着目点がちょっとずれてるんだけどぉ……。
ロイドはギリッと睨んでるし、ほかの官吏たちの表情が死んでいる。
「あの、先輩方。申し訳ないんですが、ジェーンは私に付いてきてくれるので」
城は留守にしますよ……?
そう言った瞬間、先輩たちが悲鳴を上げて崩れ落ちる。
「でも……ロイドって、ジェーンにはやけに素直よね」
こんな腹黒魔犬だって言うのに。ジェーンったら猛獣を一瞬で手懐けちゃうスキルでもあるのかしら。
「はぁ……?」
ロイドが私に怪訝な表情を向けてくる。
「まさに女房の尻に敷かれるタイプ!父子そっくり!」
ちょぉっとエース先輩――――っ!今飛んでもない事実が告げられたけど、ロードとその息子の腹黒ケルベロスに堂々と言える先輩たちも相当のやり手じゃないの!?んもぅ、部署が違うのにアイザックが『こらっ!』って叱りに行ったじゃない!
「てか、ジェーンがロイドの奥さん!?」
「そうですが、それが何か」
ロイドが相変わらず睨んでくるが、私は後ろで控えているジェーンを振り返り、飛び付く。
「ジェーンが義理の娘!義理の娘よ!嬉しい!!」
「私もです、シャーロットさま」
あぁんっ、相変わらずジェーンが天使だわ……!ロイドにはもったいないくらいね!
「今物凄い失礼なことを考えませんでしたか」
「……何のことかしら」
しれっと惚けておくが、相変わらず鋭いわね!しかしジェーンとじゃれあっているのも束の間、すぐ後ろから気配を感じてみれば、予想通り。
「……ずるい」
まるで『くぅ~ん』と言う効果音が聴こえてきそうなしょぼん顔をしてるんだから。
「ほら、あなたもよしよししてあげるから」
本当にポメを愛でてる気分だわ。見た目シェパードあたりだけど。
「シャーロット、私も行く。絶対に」
「そこまで……?何か理由があるの……?」
「妻を迎える時には、妻のお父さんに『娘さんをください』と言うのだろう?私も言いに行く」
はいいぃっ!?言っとくけどそれ、前世ではよくあったけど、こちらの世界の貴族間王族間ではほぼないわよ!?だって家同士の結婚だもの。ヴァンパイアの王族貴族にだって政略結婚があるのだからそんなに一般的なものではないはず……。ロシェはどこでそんなことを……。
その時、ロイドがサッと立ち上がる。
「お前ら……何か変なことをロードに吹き込んでないだろうなぁ……?」
その視線の先には……書庫の先輩方!?
「ちょっとロイド!いくらなんでも先輩たちのせいにはしないでよ!」
「……お前、気が付いてないのか?」
え……?何のことだろう……?
「ともかく、ロードも人間の国まで同行するってことで」
何故かマリカ先輩の言葉で、纏まってしまった。
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