第22話 祖国の地


久々に帰った祖国は……いや、もう新しい国となったこのガーネット王国は空気すらも変わっていると言うのに、どこか懐かしさで溢れている。


ロシェの特性上、出迎えは少数精鋭ではあるが、いくらか見た顔もある。

横暴な先王の時代もお父さまを支持してくれていた顔だ。

しかし彼らは彼らでやはりロシェを本能的に恐いと思うのか、少し萎縮して……いや、違う。


「ロシェ、威嚇しないの!」

ふとして振り返れば、ロシェが物凄い渋面だった。


「ロシェ。久々の父娘の再会なんだ。少し我慢しろ」

「……っ」

グレイの言葉にロシェが悔しそうに頷く。まさか……私とお父さまに嫉妬したのかしら……?


「……グレイから聞いたときは倒れるかと思ったが……本当のようだな」

お父さまがゆっくりと息を吐く。お父さまはハンター協会を通じてグレイとやり取りをしていたが、しかし同時に私のことも聞いていたらしい。


「本当に、ロードの妃になったのか」

「……そうよ。でもお父さま。私はロードと言うよりもロシェの妻になったのよ」

そう言えば、お父さまは驚いたような表情をすれば、破顔する。


「これも血筋か……だか、お前らしいよ、シャーリィ」

血筋……とは……?思い浮かぶのは直近で話題に出たロザリア・ガーネットだが……私には魔女の血なんてほぼ流れていないはずよ。受け継いだのはこの瞳の色だけのはずだわ。


「シャーロット」

そしてロシェがおもむろにこちらに歩いてくる。

お父さまは緊張しつつも、ロシェと向かい合う。周りなんて卒倒しそうなほどなのに。


「アレン・ガーネット」

「……はい」

人間よりも上位種の王・ロードに、お父さまが緊張した様子で礼を返す。


「……シャーロットは……娘さんを私にください」

「……っ」

そ……それ!本当に言うの!?言っちゃったわよ……!?


そしてその言葉にはお父さまがきょとんとしている。そりゃぁそうである。私には前世の記憶があるから、その段取りを知っているとは言え、お父さまは生粋の貴族よ!?まさか自分がそれを言われるだなんて……思ってもみないはずだ。

さらには周りもロードへの恐怖など忘れてきょとんとしている。


「……」

そしてお父さまは真剣にロシェを見つめると、静かに息を吐く。


「お断りします」

お父さまぁっ!?むしろ、よくロード相手にそれを……いや、それでこそうちのお父さまだけど……!いいのかしら、上位種のロードにそれは……!


しかもロシェも……。


「何故だ……!」

大人げなくロードの覇気全開よ……!そこまで本気なのは私としても嬉しいけど、周りの人間たちがこぞって気絶したわよ!?お父さまはかろうじて立っているけれど……これも父親としてのプライドか何かかしら。


「……冗談です」

そしてお父さまが小さく漏らす。


「……っ」

そしてようやっとロシェが威圧を緩めるが、どうすんのよ、この惨状。

後でグレイに怒られるの必至よ……?


「シャーリィがあなたと共に在ることを望むのなら、私は応援いたします。それも……恐らくロザリア・ガーネットの予言なのでしょう」

え……?お父さま、今、ロザリア・ガーネットの予言って……。


「娘をよろしくお願いします」

そう言って、お父さまがロシェに深々と頭を下げる。お父さまったら……。


「当然だ。シャーロットは私が生涯に渡り、守る」

ロシェも……。何だか、こしょばゆいけれど、とても嬉しい。


――――その後は、お父さまの王政に対してロシェが祝福の言葉を述べ、少数で晩餐をともにした。


しかし気になるのは……。


「ロシェ。お父さまに聞きたいことがあって……一緒に来てくれる?」

「……!もちろんだ」

ロシェも喜んで私に続いてくれる。しかしロシェの特性上王城の本邸とはいかないかも……そう思っていれば、私たちの滞在する離宮に客人が姿を見せた。

――――いや、それはもうこの城の主である……。


「お父さま」

「……あぁ、ちょうど良かった。私もシャーリィと話がしたかったのだ」

考えていたことは父娘ともども同じだったらしい。

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