第12話 書庫のお仕事
――――書庫に出勤すると、私の少し後ろにジェーンが続いていたことにぽかんとしていた書庫の先輩たちに、恐る恐るロードの妃である旨をぶっちゃけざるを得なくなって打ち明けたのだが。
「ロードの妃を書庫番って……」
「あの腹黒め」
「やっぱり狂犬でしょー?全くもー」
やはり私の腹黒判定は正しかったのね。
驚愕するかと思えばむしろロイドの腹黒鬼畜さに嘆く先輩方。
私が妃ってことには……そこまで驚いていないのだけど。そこに何か違和感を覚えるのだが……気のせいだろうか。まさかどこかで見てたり……いやいやまさか!
「でも、妃の仕事は特にないようなので、引き続きこちらで働かせていただければ……。あと、かしこまったしゃべり方何かは不要なので」
「まぁ、そりゃぁねぇ」
「配属だから私たちにどうにかできるものじゃないけど」
マリカ先輩とダン先輩が顔を見合わせる。
「晩餐会や外交の時に、たまには仕事は来ると思うよ」
と、エース先輩。そりゃぁそうよね?一回目の結婚の時は夫人として社交界に立つことはなかったけど……!
「まぁその時はシフトを調整していただければ……」
「分かったわ」
「ロードの妃と働けるなんて光栄だしな」
「……てか結婚できたんだ、良かったねロード。一生未婚だったらどうしようって長老たちが嘆いていたから」
そうエース先輩が漏らすと、マリカ先輩に『こらっ』と頭を叩かれている。
うーん……グレイに勧められて……なのだが。少なくともここの先輩方はロードの妃が人間でも、前侍女長たちのように見下したりはしないらしい。
「でも仕事じゃなくてもご飯は一緒に食べてあげてね。夕飯時のロードのしょぼん顔ヤバかったし」
げほっ。ごほっ。エース先輩の言葉にやらかした記憶が蘇る。あれ……でもエース先輩、どうしてロシェがしょぼん顔だったって知ってるのかしら……。
給仕か誰かに聞いたのかしらね。
とにもかくにと、今日の書庫での業務は、配達も含まれる。
城の部署から資料を頼まれることがあるのだ。こちらまでとりに来る余裕のない時もあるし、大量に必要な時もあるようで。
書庫番の先輩たちが資料や本を揃えてくれたものを台車で運ぶ。
配達順は先輩たちがジェーンに伝えてくれたから、私はジェーンの案内で台車を動かすだけである。
まずは財務部ね。
「こちら資料です」
「……あ、どうも。……ロードの妃ってマジなんですか」
あら、こちらでも知られていたの……?財務部のヴァンパイアが恐る恐る問うてきたのだ。
「えぇまぁ。でもそんなに気にしないでください」
「いや、無理ですが」
「でも私、ただの人間よ?」
「ただの人間はロードの妃にはなれません」
そりゃぁロードの妃になる女性だもの。しかし私は本当にただの……いや、前世の記憶もち公爵令嬢か。しかし、それだけで特別な何かがあるわけではないのだが。
「あぁ、あと、ここ財務部ですよね。是非教えて欲しいことがあるのですが……!」
「え……?はぁ……何でしょう」
「カーマイン公爵家の財政状況が知りたいわ!」
「それはいくらなんでも無理です」
うぐ……。真っ向からダメ判定かよ。まぁ、軽々しく教えたら貴族のプライバシーに関わるものね。あちらにいた頃から知らなかったけれど、今はもうアイリーナと再婚した以上……動きがあるかもと思ったのだが……無理だったか。むしろしつこくしたらロイドにチクられそう。そんな予感がすっごくするのは何故かしら。
仕方なく諦めて次の配達先に向かう。お次は人事部である。
「こちら資料です。あと、カーマイン公爵家の人事関係の情報が欲しいわ!」
「資料はいただきますが……そんなのダメに決まっているでしょう。あとここの決裁は侍従長も関わっているので」
うぐ……っ。またロイドの影が……っ!思えば使用人じゃなくて官吏枠(ただし下っ端)に私をぶっ込んだ以上はロイドも人事部に相当影響力を持っているわよね……!?
本当に何者なのかしら……あのひと。
――――だけど。
「いいことを思い付いたわ!」
胸の前でガッツポーズを決めれば、人事部のヴァンパイアがハテナな表情を浮かべる。
「よーし、ジェーン!早く配達済ませて、ロイドのところに直談判に行ってやる!」
「あの……正気ですか」
人事部のヴァンパイアが怪訝そうに問うてくるが。
「まぁまぁ、シャーロットさまのお供ができて私は楽しいですから」
「はぁ……ジェーンさんが言うならいいですけど」
うん……?ジェーンって城のみんなに信頼されているのね。お仕事もてきぱきとこなすし……そんなジェーンが今まで侍女長ではなかったのなら……やはりあの前侍女長たちが家の力で威張っていたのね。ロイドにとってはたいそうな目の上のたんこぶだったでしょうね。
そうして私は配達を済ませて……侍従長の部屋にやって来たのだ。
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